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2024年度の文部科学省の調査によると、不登校の児童・生徒数が11年連続で増加し、約34万6000人になった。

保護者が子どもの嫌がる姿を無理に通わせない傾向が強まり、不登校の原因として「いじめ」や「人間関係で衝突する子が多い」と指摘されている。

学校と子どもの「マッチング・トラブル」や「やる気が出ない」といった心理的・社会的要因が、不登校増加の背景にあるとされている。

不登校対策では、子どもの事情を理解し適切な環境を提供することが重要であるとしている。

(要約)

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(撮影/横関一浩) 

 

 2024年10月31日に文部科学省が発表した「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(文科省調べ)によると、不登校の児童・生徒の数は11年連続で増加し約34万6000人になりました。前年度から約16%増え、過去最高の数値を記録しました。なぜ、これほど多くの子どもたちが学校に行けない、あるいは行かない選択をするようになったのでしょうか。学校が抱える問題や不登校の原因について、不登校ジャーナリストの石井しこうさんにお話を聞きました。 

 

【表】不登校の原因、もっとも多いのは? 文科省の調査はこちら 

 

■嫌がる子を無理に通わせない保護者が増加 

 

――今回の文部科学省が公表した「問題行動・不登校調査」の結果では、改めて不登校の児童・生徒数が前年度よりも約16%増加の約34万6000人と、大きく増えていることがわかりました。なぜこんなに増えたのでしょうか。 

 

 「不登校」の定義は、病気や経済的理由をのぞき、心理的・社会的な要因で小学校や中学校に行かない(行けない)日が年間30日以上あること。今回の調査でも明らかなように、不登校の児童・生徒数は増え続けているという感覚は私も感じています。前年度の調査から4万7000人余り増えて11年連続での増加になっており、その内訳をみると、小学生で前年度から2万5000人余り増えて13万人超、中学生で2万2000人余り増えて約21万6000人。10年前と比べて小学生は約5倍、中学生は約2.2倍にも増えているのです。 

 

 教育の現場にいる人たちに聞いても、不登校相談が増えているのはたしかですし、同時に、保護者側も嫌がる子を無理に通わせようとしないという認識が高まり、不登校の児童・生徒数が増えているのだとも考えられます。前年度の結果は約29万9000人でしたが、数字としては一昨年から昨年の1年間で、4万7000人の増加ですからね。やはり想像以上に、学校で苦しむ子たちが多いという現実があるのだと感じています。 

 

 

 調査を見ても過去数年の傾向とあまり変わらず、現場にいる方たちからも「いじめの低年齢化」と「不登校の認知の高さ」が増加要因だという、旧来の見解といっしょでした。ただし唯一異なるのは「人間関係で衝突する子が多い」という現場の声でした。学校と生徒、あるいは生徒間で衝突し修復できない状態でフリースクールや相談窓口に来ている、と。ここからは推測ですが、これだけ不登校が増加しているということは、数字のうえでは現れない「登校しぶり」はもっと多くなっているはずです。学校の先生たちは、日々、増えていく不登校、登校しぶりに対してキャパオーバーになり、学校間、同級生間でトラブルが起きても修復できない状態がなったのでは、と私は考えています。 

 

■子どもの事情を学校が把握できていないケースが多数 

 

――文科省の調査によると、不登校の理由の第1位に「やる気が出ない」とあります。これは実際にはどのような状態なのでしょうか? 

 

 実はこの調査結果は、児童・生徒ではなく、学校の教員が「把握している事実」として回答したアンケート結果に基づいたものです。「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」という答えが小中学校で32.2%と最多。次いで多いのが「不安・抑うつの相談があった」で23.1%、「生活リズムの不調に関する相談があった」で23.0%です。 

 

 ただし、ほとんどの場合は、子どもが「やる気が出ない」と答えたわけではなく、「頑張って学校に行こうと思っても、行くことができない」とか「学校生活にどうしても気力が湧かず、楽しみを感じられない」という状況なのではないかと。実際は、そうした子どもたちの状況を見て、学校側が「やる気が出ない(無気力)」と判断し、答えたということだと考えられます。結果を見て「やる気が出ないから学校に行かない(行けない)」と単一的にとらえるだけでは問題の本質にたどり着けないと思います。 

 

 「やる気が出ない」というのが一番多い回答になっている、つまり、先生がうわべの現象だけしかとらえられておらず、解決の糸口が見つかっていないというのも増加背景の一因ではないかと見ています。 

 

 

■学校と子どもの「マッチング・トラブル」が顕著に 

 

――小中学生の子どもたちが、親や教師から見て「無気力」になってしまう原因はどこにあるのでしょうか。 

 

 表面的にはただやる気がないように見えても、その理由や原因は人によってさまざまです。例えば、いじめなど何か理由があって学校に行けないという子もいるでしょうし、そもそも、特性として、集団生活が合わないという子もいます。 

 

 そういった子たちが無理に学校に行こうとすれば、毎朝起き上がれないほど疲れてしまうのは当然ですよね。本当は、不安や抑うつを抱えて苦しんでいる子も少なくないのに、学校や先生が「無気力」というとらえ方をすることで、本当の問題や実態を把握できず、子どもたちが抱える困りごとと、学校側の理解が乖離(かいり)しているケースも多いのではないかと懸念しています。 

 

――なぜ、学校に行くことにつらさを抱え込んでしまう子が増えているのでしょう? 

 

 一つはやはり、学校と子どもとの「マッチング・トラブル」が起きていることが考えられます。学校で求められていることと、子どもたちの状況が合っていない――従来の学校や授業のあり方にマッチしない子が一定数いるということです。 

 

――学校との「マッチング・トラブル」とは具体的にどんなことが挙げられますか? 

 

 最も多いパターンとしては、教室での大きな音や声の問題が考えられます。教室での大きな声や音、先生の怒鳴り声が耐えられないほど苦痛だと感じる子もいます。でも、30人、40人もの児童・生徒が集まっている場所で授業をしていたら、もちろん先生の声も大きくなりますし、教室の音もうるさくなりますよね。 

 

 それに耐えられる子は問題ないのですが、中には、どうしてもそういう状況が苦痛だという子も確かにいて傷ついてしまい、勉強どころではなくなることがあるんです。そういった意味でも、学校とその子がマッチしていない、と言えると思います。ほかにも「集団生活が苦手」「授業のスタイルが合わない」「校則が合わない」などの問題が考えられます。 

 

 

■不登校の原因、「いじめ」は最下位? 

 

――従来の学校での学び方やあり方自体が、合っていない子もいるということですね。不安や抑うつの原因として、学校での「いじめ」は考えられますか? 

 

 実は、先ほどの文科省の調査でも不登校の原因で「いじめ」は最下位なんです。実際、いじめの被害情報や相談の報告は、小中学生あわせて全体の1.3%(100人に1人程度)にすぎないという結果が出ています。 

 

 しかし、実際には、いじめを受けていると感じて苦しんでいる子たちはたくさんいることが明らかになっています。文科省調査によると、昨年度のいじめ認知件数(小中高・特別支援学校あわせた合計)は、過去最多の約73万件で、前年度より約5万件の増加です。 

 

――いじめで苦しんでいる子はまだまだ多いのですね。 

 

「いじめ」も一つのマッチング・トラブルといえる部分があります。もちろん、いじめられている子にも原因があるなどとはまったく思いません。ただし、いじめる子といじめられる子双方の人間関係がマッチしていないのも事実です。どうしても相性が悪い相手はいるわけで、その子がずっと近くの席にいると、やはりいじめなどの原因にもなりえます。それを放置しておくと、結果、不登校の原因になってしまうこともあります。 

 

――わが子が不登校になった場合、親はどうサポートできるでしょうか。 

 

 今の小中学校では、やはり「みんなと仲良く・一緒に」が良いとされていますが、中には、そもそも個人の特性上、集団生活が合わないというお子さんもいます。しかし、みんなと同じ場所で同じペースで勉強するのが苦手なだけで、学びに対しては意欲的な子はたくさんいるんです。  

 

「適応障害」という言葉もありますが、適応できない場所に無理に適応させようと子どもを変えるのではうまくいきません。学校以外の場所で、生き生きと学んだり、友達と仲良くできたりするケースもあります。その子が自然に適応できる場所、環境を見つけてあげることが、一番自然で伸びやかな生活、学びができるようになる第一歩だと思いますね。 

 

(取材・文/玉居子泰子) 

 

○石井しこう/不登校ジャーナリスト。中学受験を機に不登校になった経験を持つ。当事者や親、識者など400人以上に取材。著書『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)ほか多数。https://futokoshiko.com/ 

 

石井しこう 

 

 

 
 

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