( 232889 )  2024/11/12 16:47:03  
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国民民主党が給与所得控除を178万円に拡大して税金を減らす提案をしている。

財源については、税収が増えている状況が示唆されているが、国の税金の使い道についての問題も指摘される。

現在の税収増加は消費税によるもので、予算も水墨れしている。

また、将来の増税リスクも存在し、例えば、サラリーマンの妻が所得を増やすと社会保障負担が増える「106万円の壁」や「130万円の壁」などの問題もある。

一方で、国民民主党は税金を減らすスローガンで躍進しているが、ステルス増税や将来の増税リスクへの懸念も寄せられている。

(要約)

( 232891 )  2024/11/12 16:47:03  
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写真:現代ビジネス 

 

いわゆる「103万円の壁」の引き上げが、話題になっている。 

 

衆議院選挙で、7議席から28議席と大躍進して政界のキャスティングボードを握った国民民主党が、「手取りを増やす」をスローガンに、「基礎控除などを103万円から178万円に拡大」と「トリガー条項の凍結解除でガソリン代を安くする」などの政策を推し進めているからだ。 

 

【写真】いきなり無保険に?マイナ保険証「2025年問題」のヤバすぎる全容 

 

現在、給与所得控除55万円と基礎控除48万円を合わせて103万円までは給料をもらっても所得税がかからない。この控除を178万円まで引き上げ、178万円までは稼いでも課税されないようにするのが、国民民主党の意図するところだ。 

 

党は件の減税額を下記のような表にしている。 

 

これに対して、すぐさま噴出したのが財源論だ。 

 

林芳正官房長官が10月31日の記者会見で、国民民主党の主張通りに「年収103万円の壁」を解消するには、国と地方で7兆~8兆円程度の減収が見込まれるとの見解を示した。 

 

これを後押しするように、11月5日に村上誠一郎総務大臣が、「機械的に計算すれば、地方の個人住民税だけで4兆円程度の減収になる」という試算を明らかにし、まるで「皆さんの生活が悪影響を受けますよ」とでも言いたげな口ぶり。 

 

だが、この財源論には、ひとつ大きな視点が抜け落ちている。 

 

出典・財務省(令和6年は予算段階) 

 

確かに、政策の実現に7~8兆円かかると言われれば、「どこからそんな金をひねりだせばいいのか」と思う人は多いだろう。 

 

だが、私は、その心配はないと思う。 

 

なぜなら、この5年間で国の税収は、13.7兆円も増えて、過去最高を更新し続けた点にある。この5年は、多くの人が新型コロナに苦しみ、それに続いて物価高に飲み込まれた時期をふくむ。 

 

にもかかわらず、国の税収は58.4兆円から72.1兆円と、なんと約14兆円も増えている。この税収の最大の押し上げ要因は、消費税だ。 

 

しかも、この間の税金の使い方を見ると、膨張する税収に合わせて予算も水膨れしていることがわかる。 

 

 

例えば、財政投融資に代わって、今や国の第二の財布となりつつある「基金」。国の府省庁が設置する約190の「基金」の残高が20年度末から急増している。 

 

2019年までは2兆円台で推移していた残高(使われていないお金)が、20年には8.3兆円、21年には12.9兆円と跳ね上がり、ついに22年度末には約16兆6000億円と16兆円を超えた。 

 

もちろん「基金」がコロナ対策や物価高のために使われた面はあるが、ただ無駄だと思われるものも多い。 

 

いい例が、コロナ対策で中小企業などの借入金利を補填する「特別利子補給事業」として1000億円必要として積まれた「基金」のうち、使われたのはたった147億円。あとは積みっぱなしで年度末に2000億円をすでに超える残高になっている。 

 

基金のお金は税金や国債だが、一般社団法人など省庁の外部に置かれるため、国民や監督官庁のチェックが行き届きにくくなっている。 

 

国会でチェックされないことをいいことに膨れ上がっているのは、「基金」だけではない。災害などに備えて政府が使えるようにしている「予備費」も、ここ数年で膨大に膨れ上がっている。 

 

予備費はこれまで3000億円程度で推移していたが、コロナ対策として20年に12兆円となり、その後も5兆円、10兆円という巨額な予備費が恒常化しつつある。予備費は、国会の承認がなくても使えて、何に使ったかは事後報告ですんでしまう政府の裁量で使えるお金。今や、内閣の財布といって差し支えないだろう。 

 

過去最高の税収を更新し続けていることこそが、国会を通す必要のないお金が増えている大きな理由である。 

 

税収が増え、政府が好き勝手に使えるお金が増えるーーそのぶん納税する家計や企業が貧しくなっているということだ。 

 

だとすれば、家計の手取りを増やすために14兆円も増えた税収のうち7兆円を家計の手取り増加に充てるのはそれほど変なことではないし、難しいことでもないだろう。 

 

この先も、国民の生活の先細りは続きそうだ。岸田前首相は「増税はしない」と言ったが、これもまやかし。実際にはインボイス制度の導入で売上1000万円以下の事業者は増税になっているだけでなく、1000万円以下の事業者に仕事を発注している会社は消費税の増税分を被り、仮に増税分を被らないまでも経理の負担増などがかなり増えている。これは、実質増税に近い。 

 

また、110万円の無税贈与の「持戻し」拡大で実質増税もしている。さらに、「森林環境税」が導入され、2024年度から、国内に住所のある個人に対して課税される国税で、個人住民税の均等割と合わせて1人年間1000円が森林整備の目的で徴収されている。 

 

加えて、2024年度の税制改正大綱では扶養控除の縮小で、16-18歳の所得税控除額38万円が25万円に、住民税の控除額33万円が12万円に縮小される。控除を減らせば、これも実質増税になる。この改正では、そのぶん手当を出すから手取りは変わらないというが、控除と違って手当などいつでも縮小できるものだ。 

 

 

増税はこの先もまだまだ控えている。 

 

2025年以降、特に主婦がパートで働いているサラリーマン家庭は、さらに大きな増税に見舞われそうだ。 

 

それは、第3号被保険者制度の縮小もしくは廃止が、2025年の年金改革の焦点となりそうなこと。もし、廃止されたら、今まで夫の扶養家族として1円も保険料を支払わなくても国民健康保険や国民年金に加入したことになっていたサラリーマン家庭の専業主婦が、自分で保険料を負担しなくてはならなくなる。 

 

令和6年の国民年金保険料は1ヵ月につき1万6980円で、1年では20万3760円。国民健康保険料は、年収100万円くらいのパートでも年間10万円前後払わなくてはならなくなり、合計約30万円を支払うことになるかもしれない。対象となる家計にとっては、これが決まれば大きな負担となる。 

 

この改正が先送りになってとしても、「第3号被保険者制度」は、家計にとって「106万円の壁」、「130万円の壁」という、2つの大きな壁として家計に立ちはだかる。 

 

国民民主党は「103万円の壁」ばかりを問題視しているが、実はサラリーマンの妻が103万円以上稼いでも、手取りが減るわけではない。 

 

企業によっては、家族手当が減らされるケースもあるが、制度的には103万円が104万円になっても、所得税と住民税合わせて1500円が徴収されるだけで、稼いだ1万円のうち8500円は自分のものになり、手取りは増える。 

 

むしろ問題は、その向こうにある「106万円」と「130万円」の壁だ。これは、越えれば人によっては手取りがガクンと減ってしまう「壁」なのだ。 

 

「106万円の壁」は、従業員51人以上の企業に勤めているパートが入らなくてはならない社会保険料の壁。サラリーマンの妻が働く時に、105万円までなら夫の扶養に入っていられるので、自分は1円も保険料を支払わなくても、将来、国民健康保険、国民年金に加入することになっている。だが、106万円になった途端に、会社で社会保険料を引かれるので、いきなり手取りが年間14万円ほど減ってしまう。 

 

しかも政府は、現在51人以上の企業に勤めるパートに限定したこの制度を、今後はすべの企業に適用していく方針だ。 

 

次の「130万円の壁」は、サラリーマンの妻の収入が130万円になった途端に、それまで支払わなくてもよかった国民年金、国民健康保険の保険料を支払わなくてはなせなくなる壁。これは、「106万円の壁」より高く、年間約30万円の負担増になる。 

 

「配偶者控除の廃止」「106万円の壁」「130万円の壁」は、すべてサラリーマンのパート妻(第3号被保険者)を狙い撃ちにするものだ。 

 

世論は「フルタイムで働かなくても、社会保障を得られるサラリーマンの妻はけしからん」という方向に誘導されている。結果的に、これから手取りが激減するサラリーマン家庭は増えそうだ。 

 

 

今、世の中は「手取りを増やす」という明るい話題に向いているが、その向こうには、さらなる負担増の嵐が待っていそうだ。 

 

2026年以降は、防衛増税が待っている。また、2026年4月からは、「子ども・子育て支援金」を創設されて、医療保険料に上乗せして子育て支援金を払うことになり、こども家庭超の試算では、最終的には最大で年間2万円を拠出しなくてはならないご家庭も出てきそうだ。 

 

すでに4月からは、標準家庭で電気代に上乗せされて徴収される再生可能エネルギー普及のための再エネ賦課金が、標準的な家庭で月1000円弱も増えている。 

 

この先、アメリカがトランプ政権となって円安が進めば、日本は再び物価高の嵐に巻き込まれる恐れもある。こうした中で、「手取りを増やす」をスローガンに国民民主党が議席を増やし躍進したのは、納得できる。 

 

国民民主党には大いに期待したいところが、すでに過去2回、「ガソリン税のトリガー条項の凍結解除」に失敗している。 

 

22年には「トリガー条項凍結解除」を条件に野党でありながら予算案に賛成したが見事に裏切られ、昨年も同じ条件で補正予算に賛成したものの、目的を果たせず、「野党」ではなく政府の補完勢力候補の「ゆ党」などと言われてきた。 

 

今回は、キャスティングボードを握っているので、きちんと結果を出すことを期待したい。 

 

総じて心配なのは、「103万円」の控除の引き上げをする代わりに、今にも増してさまざまなステルス増税を仕掛けてくること。「振り返ってみたら、家計はさらに貧しくなっていた」では遅い。 

 

こちらの方も、しっかりと目を見開いて、今後の決着を注視していかなくてはならない。 

 

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〈いきなり「無保険」になって全国民が大パニック…?マイナ保険証「2025年問題」のヤバすぎる全容〉もあわせてお読みください。 

 

荻原 博子(経済ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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