( 233121 ) 2024/11/13 15:03:10 0 00 京都市教育委員会が各校に通知した検査・診察時の実施方法の工夫例。タオルの下から聴診したり、服をめくり上げて背中を視診したりするやり方を示す
学校の定期健康診断で上半身裸にさせることに疑問の声が上がっている問題で、体操服やタオルで胸を隠すなど児童生徒の心情への配慮が進んできた一方、学校医の間で胸部露出の要否を巡る意見が分かれており、学校の対応に差が生じている。有識者は「性を巡る意識は大きく変化している。学校の健診で何をどこまで目指すかというコンセンサス(共通理解)を固め、その進め方については子どもの視点を入れて見直すべきでは」と指摘する。
【写真】女子生徒に対し、着衣の下から聴診器を入れる
■文科省「原則は着衣」と通知、まだ着用しないケースも
文科省は今年1月、正確な検査・診察に支障のない範囲で「原則着衣」など児童生徒の心情に配慮した方法を学校側に求める通知を出した。
脱衣を基本とする健診からの方針転換には保護者から歓迎の声が聞かれる。
小学校高学年の女児を育てる京都市左京区の40代パート女性は、小学校時代に上半身裸での健診が嫌だったとし、「着衣で診察を受けられるのはいい。医師が男性から女性に変わって子どもが喜んでいた」と話す。研究員の40代女性も「多くの子どもをみる医師の大変さも分かるが、数秒のことであっても嫌なものは嫌。子どもからは昨年度も本年度も体操服着用で健診を受けたと聞いている」と語った。
通知を受けて体操服やタオルの活用が進んでいるが、胸部を露出させる必要性については医師間で見解が分かれている。府南部で学校医を務める男性医師は、子どもの服を胸までめくる形で心音の聴診や皮膚疾患の視診を行った。「疾患の兆候を見つけることが学校健診の意義。学校とも相談して相対的に精度が上がる方法をとった」と話す。別の男性医師は「つらい思いをする子どもがいるなら最大限配慮すべき」と話し、体操服の下から聴診器を入れて診察する。
「原則着衣」について文科省健康教育・食育課は「必ずしも常時、体操服やタオルで体を覆うことを求めるものではない。具体的にどうするかは各学校に任せている」と説明する。
■「性的配慮に欠ける」 訴訟リスクも
通知以前から着衣での学校健診を続けてきた医師もいる。「あかい家のこどもクリニック」(大津市大江7丁目)の浅井大介院長(53)は、校医を引き受けた7年前から、心音を聴く際は服を引っ張って下から聴診器を入れ、背骨のゆがみを見る際は後ろ向きの状態で服を首元までめくり上げて診察している。
非常勤講師を務める龍谷大で健診の脱衣問題を話したところ、学生から「高校の時も服を脱いでの健診だった。裸を見られるのは嫌だった」、「体操服を着用していたが、胸が見える範囲まで体操服をたくしあげるのはいい気持ちではなかった」などの感想があったという。浅井さんは「上半身を裸にする健診は性的配慮に欠ける」と指摘。大津市では昨年度から、上半身裸での健診は行わないと実施方法に明記している。
ただ、他都市では、背骨が曲がる脊柱側弯(そくわん)症が学校健診で見逃されたとして訴訟に発展したケースもある。浅井さんは、衣服を着たままでは正確な診断に影響するかもしれないとの校医の懸念も分かるという。
思春期の女子に多く発症するとされる脊柱側弯症については、検査に専用の機器を取り入れたり、整形外科医による診察を実施したりする自治体もある。兵庫県加古川市は本年度から、中学校では生徒と同性の医師が健診することにした。
学校保健安全法に基づく現在の健診の在り方も問われている。京都大医学研究科の井上悠輔教授(医療倫理学)は「子どもが不安になって敬遠するのも問題だが、校医が問題点を指摘しにくい仕組みになっても健診の意義が薄れてしまう。着衣・脱衣の問題を出発点に、健診の意義を改めて考えつつ、子どもに負担の少ない検査手法やアイデアを共有できるようなプラットホームづくりを目指す方向になってほしい」と話している。
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