( 233216 ) 2024/11/13 16:54:39 0 00 チロルチョコのXでの対応が評価された(写真:編集部)
お菓子の中に虫が――。2024年11月に相次いで話題となったチロルチョコとシャトレーゼ。しかし、その初動対応の違いで、その評価は明暗が分かれました。両社とも消費者から苦情を受けましたが、チロルの初動は評価され、シャトレーゼは批判を浴びてしまいました。
【画像で見る】「チロルチョコに虫が入っていた」という投稿に対する公式Xの対応
特にB to C(対個人取引)企業のブランドに大きな影響を与える企業の顧客対応。分かれ目となったのは、初動の「スピード」と「透明性」でした。
■「揚げ餅にカメムシ」、約束期限に返答なし
「カメムシ事件」の発端は、都内の40代女性からのシャトレーゼのお客様相談室への問い合わせでした。同社への聞き取りやテレビ局の報道によると、女性は9月23日ごろにシャトレーゼの「揚げ餅焼きとうもろこし小袋」を購入して、10月3日に最後の1袋を食べていたところ、口の中に異物が入っていると感じたそうです。袋の中身を見たところ、カメムシらしき虫が1匹入っていました。
このため、シャトレーゼに電話をかけ、「虫が混入した原因を報告してほしい」と伝えると、「2週間以内に原因と状況を報告します」と回答がありました。この時、すぐに対応していれば、大きな問題にはならなかったでしょう。しかし、2週間経ってもシャトレーゼからの連絡はありませんでした。3週間以上が過ぎたころ、女性の夫が再び電話をかけ、責任者と話がしたいと伝えたものの、うまく連絡がつかなかったそうです。
しかし、この内容をテレビ局が報道したところ、シャトレーゼ側は一転して11月7日にお詫びを発表しました。「一部マスコミにて報道されております弊社商品『揚げ餅 焼きとうもろこし(小袋)』への異物(カメムシ)混入案件につきましては、皆様に多大なるご心配をおかけいたしました」として、経緯と具体的な対応を公表。顧客対応についても「ご報告の大幅な遅れや不十分なコミュニケーションがあったことが判明いたしました」と報告しました。
シャトレーゼに対応が遅れた理由について取材したところ、同社も女性らに連絡を取ろうとしましたが、連絡がうまくつかなかったようです。ただ、同社はあくまで「当社の対応が悪かった」と率直に自社の落ち度を認めていました。
■評価を高めたチロルのスピード感と分析力
一方、初動で評価を高めたのがチロルチョコです。11月4日に、あるXアカウントで、「チロルチョコに虫が入っていた」との投稿があり、虫の幼虫のようなものが動く動画までが添付されていました。この日は文化の日の振替休日。しかし、同社はその夜に公式Xで「チロルの中に虫がいたという投稿に関して、投稿主様にDMを送りご返信をお待ちしている状況です」と報告しました。
謝罪の言葉とともに、「投稿のお写真は毎年発売の季節商品と思われますが今年は2週間後の発売のため、昨年以前に発売された商品と推察されます」と分析。最近購入したものではないことと、保存の問題があった可能性を示唆しました。
チロルは翌日の5日に「昨日のX上でチロルの中に虫がいたという投稿に関して、投稿主のご家族様とご本人様からお詫びのご連絡をいただきました」と投稿。「最近購入したという事実は誤認であること、ご自宅での保管状況がよくなかったことが確認とれました」などとしました。
その後は「ご家族とご本人様からお詫びのご連絡をいただいておりますので投稿主様へのコメントやお問合せはお控え頂けますと幸いです」と投稿者への気遣いも見せました。
チロルの場合は企業の問い合わせ窓口ではなく、公開されたX上での投稿への対応だったとはいえ、その初動対応と公表のスピードには目を見張るものがあります。3連休中だったこともあり、投稿の発見から対応、公式見解のXへの投稿は大変だったと思います。チロルに問い合わせたところ、残念ながら「大変心苦しいのですが、取材については辞退させていただいております」との回答でした。
■シャトレーゼの対応の3つの失敗
一方のシャトレーゼの問題は、苦情への初動対応の遅さと不透明さにありました。消費者から連絡を受けて、「2週間の調査期間を設ける」と伝えたところまでは悪くありません。しかし、その後の対応に失敗しました。
失敗の主な内容は①2週間経っても連絡をしなかったこと②消費者が再度問い合わせたにもかかわらず、「責任者に連絡が取れないといって対応しようとしなかった」とされたこと③マスコミが報道するまで結果として連絡が取れなかったことから、「報道されると一転して内容を公表し、お詫びをした」と取られたこと――です。
①は消費者から「約束を守らない企業」だとみなされるリスクがあります。②については「消費者を大切にせず、どんな状況かも教えない企業」、③は「問い合わせをした人の影響力があるかないかで対応を変え、情報を迅速に公開しない不透明な企業」だと思われる可能性があります。
シャトレーゼは、もともと手頃な価格帯で美味しい商品を出すことで評価、信頼されてきた老舗洋菓子チェーンです。この件1つで企業全体が判断されることはないと思いますが、今回の対応はいずれも企業イメージやブランド、信頼を大きく損ねるリスクがあります。
初動に失敗したシャトレーゼですが、事後の対応はむしろ良い事例と言えます。自らの落ち度をきちんと認め、消費者に謝罪。事故の再発防止とともに迅速に対応できるよう連絡体制なども見直したそうです。
また、今回のような問題が発生した際、取材を拒否する企業も多い中、同社は真摯かつ丁寧に取材を受けようと努めていました。将来、同様の問題が発生しても、同社は今回の反省をいかせると思えます。
■異物混入の苦情、都内だけで500件超
東京都によると、2022年度の都内の異物混入による苦情件数は565件にのぼりました。担当者は「企業には再発防止策などを指導しているが、ゼロにするのは難しい」(食品監視課)といいます。
メーカーが規定に基づいて衛生管理を徹底するのは当然ですが、どんなに対策を講じても100%異物が混入しないとの保証はありません。SNSが普及した現在では、意図的に異物を入れて「虫が入っていた」などと言う悪質な投稿をする人が出てくることも考えられます。
仮に悪質な投稿だったとしても(犯人に法的措置が取られるのは当然ですが)、企業側には悪影響があります。初動対応が遅れたり、隠蔽したりすれば、企業ブランドに傷がつくリスクは否めません。企業側はむしろ、「こうした問題は必ず起こる」という前提のもとに、その時、どう対応するかを過去の事例を参考に、細かくシミュレーションしておくことが大切です。対応は迅速な公表だけでなく、原因調査、保健所への届け出、再発防止策の策定など多岐にわたり、その時になって慌てていては後手にまわるからです。
もちろん現実のトラブルには様々なケースがあり、シミュレーションをしていても完全な対応ができるとは限りません。ケースごとに柔軟な対応を必要とされることもあるでしょう。完璧な対応をしても、悪影響がまったくないわけではありません。
しかし、トラブルを想定したシミュレーションや準備をしないより、しておいたほうが初動で間違いを犯すリスクや悪影響の度合いは著しく低くなります。企業がその準備をする時、今回の2つの企業の初動や事後の対応が重要な参考資料になることは間違いありません。
日高 広太郎 :広報コンサルタント、ジャーナリスト
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