( 233829 )  2024/12/16 04:27:21  
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「布製滑り止め」は簡単に装着できる追加の滑り止め装置で、走行時のグリップ力や走りの感触はスムーズで静か。

雪や凍結路での走行に適しており、金属製やプラスチック製よりも取り付けが簡単で使いやすいとされる。

緊急時のお役立ちツールとして注目されており、価格はやや高くても性能や耐久性が高いとされている。

また、厳守が必要となる推奨速度や使用条件に配慮しつつ、布製滑り止めの選択肢も検討してみる価値がある。

(要約)

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簡単に装着できる布製滑り止め。走りやグリップ力はいかほどか 

 

 降り積もった雪道を夏用タイヤのまま走行したクルマがスリップし、立ち往生しているニュースを目にすることがあるだろう。突然の降雪とは言え、凍結路や雪道を承知の上で走行したドライバーは、もちろん道路交通法違反となる。そんな状況への備えといえばスタッドレスやオールシーズンタイヤの装着が思い浮かぶが、年に数回程度の雪道走行ならばタイヤチェーンの携行を選択することもあるだろう。中でも最近注目度が増しているのが“布製タイヤチェーン”だ。自動車ライターの佐藤篤司氏によるシリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」。今回は、本格的シーズン突入前に、その使い勝手や性能をレポートする。 

 

 * * * 

 各都道府県には公安委員会が設置されていますが、沖縄県を除く46都道府県では「道路交通法施行規則」または「道路交通規則」によって、積雪時や凍結時における「滑り止め措置」の実施を義務付けています。当然、雪道などの滑りやすい道路でノーマルタイヤのまま走行すれば、公安委員会が定めた規則に反することになり、道路交通法違反。反則金は大型自動車等が7000円で、普通乗用車・自動二輪車が6000円、原付車 5000円です。なにより、立ち往生して交通を滞らせれば社会的な責任を問われたり、交通事故を起こせば、反則金どころでは済みません。 

 

 そこで望ましいのは「スタッドレス」や「オールシーズン」といった冬用タイヤを選択すること。最近、四国での降雪もニュースになっていましたし、過去には鹿児島の指宿スカイラインでチェーン走行の経験もあります。確かに年に1~2度ほどの降雪のために高額なタイヤを装着するのはコスパが悪いと感じることも理解できます。しかし冬用タイヤ、とくに「スタッドレスタイヤ」は、路面温度や気温が低くても、柔軟性を保持できるコンパウンド(ゴム素材)を使用しているため、ドライ路面でも“より路面に密着”させることができます。沖縄以外でも冬用タイヤが有効なのはこうした理由からです。 

 

 一方で、少々ややこしいのですが、スタッドレスタイヤは雪道や凍結路での性能を重視した設計のため、ドライ路やウエット路での走行では、夏用タイヤに比べると制動距離が長くなる傾向があります。さらに夏用タイヤに比べてゴムが柔らかいため、夏用タイヤよりも減りは早くなります。 

 

 こうした弱点を補い、1年中使用できるのが「オールシーズンタイヤ」。夏場の走行にも問題なく使える上、年に数回の突然の降雪やちょっとした凍結路なら走行できるというバランスを優先したタイヤです。ただし雪道や凍結路などでの性能はスタッドレスより少し落ちるため、雪国専用というよりは、降雪の少ない地域用です。 

 

 

 こうしたスタッドレスやオールシーズンの有効性は理解した上で「もっとリーズナブルに」と考えるならば「チェーン」ということになります。 

 

 オーソドックスな「金属製」から「ゴム・プラスチック製」などがあり、サイズにもよりますが「金属製」や「ゴム・プラスチック製」の非金属製チェーンには2000円台からのものも見受けられます。ただ、すべてを試したわけでもなく、あくまでも個人的な経験による感想ですが、耐久性や性能面で格安品は……、といったところが正直な感想です。 

 

 そして価格はやや高めですが、最近注目度が上がっているのは「布製滑り止め」です。その先駆けとなったのは1998年にノルウェーで誕生した「AutoSock」。コンパクトカーに多いタイヤサイズの 145 / 65R14で1万5800円からとなっています。とにかく布製は「乗り心地の良さ」や「騒音の少なさ」、さらに「装着性の良さ」によって人気となり、日本でも一部の輸入車オーナーを中心に使用する人たちが徐々に増えていました。 

 

 そして今回、テストに使用した「イッセ(ISSE)・スノーソックス」の価格は、1万3530円(クラシック)~となっています。 

 

 メーカーの「イッセ」は2003年、スペインのバルセロナ近郊で創業した布製タイヤチェーンのメーカーですが、創業前は3代続いた老舗の繊維メーカーでした。その繊維製造で培った技術を活かして繊維製タイヤチェーンの製造に乗り出し、現在ではヨーロッパを代表する布製タイヤチェーンのメーカーに成長しました。凍結路や雪道においてタイヤのグリップ性能を最適化するための特許技術を保有し、本国スペインを始め、日本やアメリカ合衆国、イギリス、中国、カナダ、ドイツ、フランス、イタリア、ポルトガル、ギリシャ、ニュージーランド、アルゼンチン、チリなど、世界中に展開しています。2019年から日本に本格上陸し、緊急時のお役立ちツールとして注目されています。 

 

 

 一方で金属製やプラスチック製チェーンに比べ、「装着は楽でも、本当に布製は使えるの?」という疑問を今も耳にします。そこで布製滑り止め「スノーソックス」シリーズの中で価格、性能などでバランスの取れた「スーパー(1万9800円~)」で装着性、雪道での走行感覚、そして性能や耐久性をチェックしてみた。なおスノーソックスには他にリーズナブルな「クラシック(1万3530円~)」、少し性能を上げた「クラシックtype II(1万4883円~)」、そしてもっとも高性能な「スーパーtype II(2万1890円~)」があり、全4種が揃っています。 

 

 金属製やゴム・プラスチック製などの滑り止めでもっとも大変なのが装着です。装着に不慣れな上に、寒さや暗がりの中でフェンダーとタイヤの間や裏側に手を差し入れながら、時として泥だらけになりながら装着するときのストレスは相当なもの。その点、布製の「スノーソックス」は「取り付けはわずか3分と簡単」と謳っています。 

 

 そこで実際にコンパクトで携帯性のいいソフトケースの中から2輪分の長さ1メートル弱、幅30センチほどの、少し厚手の布チェーンを取り出して装着開始。左右の駆動タイヤの上半分に被せていきます。左右のタイヤの半分に同じように被せたところで、クルマを前進か、あるいは後退させて、タイヤを180度回転させます。これでまだスノーソックスが被っていない面が上にくるので、同じようにタイヤに被せれば装着完了です。 

 

 多少ずれていても走行することで正しい位置にセットされるので、心配は要りません。さすがに一本3分は無理でしたが、それでも「5分あれば余裕で完了」といったところです。何度となく付けたり外したりしているうちにコツを覚え、4分弱といったところです。被せるだけの“手軽な装着性”と場所を取らない“収納性の良さ”は、これまでのチェーンとは違った扱いやすさです。 

 

 装着を終了したところで100mほどゆっくりと走行したところで一旦クルマを止め、正しく装着されているかを確認。その後にしっかりと発進すると、ほんのわずかにスノーソックスの中でタイヤが空転する感触がありましたが、すぐにグリップを取り戻してスムーズに加速していきます。 

 

 乗り心地は“滑らかにして静か”。金属製などにあるガタガタした感覚はありません。テスト車両「日産ノート・オーラ」のモーターによる低速からトルクフルな走りにも十分対応してくれます。特殊繊維で編み上げられた布が雪面にしっかりと密着してタイヤのグリップ力を高めていることをしっかりと感じながら加速や減速を行い、コーナーもクリアしていきます。 

 

 

 装着後の走行感覚は実にスムーズで、金属やプラスチックチェーンのような騒音やガタガタとした振動とも無縁です。ここで守るべきことは、注意書きにもあるように40km/h以下での使用を心がけること。布製滑り止めチェーン本来の性能を発揮し、摩耗を極力防ぐためにも、この制限速度は守りましょう。 

 

 実はテスト車両にはブリヂストンの「ブリザックVRX3」が装着されていて、その上にスノーソックスを被せてのテストでした。当然ながらトータルでの使いやすさや実用性の高さ、そしてアスファルト路面での快適性ではブリザックが上でした。 

 

 一方で2018年には国土交通省によって、「布製滑り止め」が金属&非金属製チェーン同様に、チェーン規制時の装着対象として認められています。当然、夏タイヤに被せるのはもちろんのこと、今回のようにスタッドレスタイヤにスノーソックスを被せればチェーン規制にも対応できることになります。 

 

 ただし、圧雪路になる前のアスファルト路面とシャーベット路面が混在するような状況では、試しに推奨速度「時速40km/h」を超えて走行すると少し滑るような感覚があり、不安を感じました。これは金属製&非金属チェーンでも感じる感覚なのですが、本来の性能を発揮するためには、しつこいですが推奨速度の厳守が必須で、耐久性にも大きな影響を与えることになります。降雪時には自然と交通量全体の速度が落ちるので、40km/h以下でも流れに乗れるはずです。仮に後ろからスタッドレスタイヤを装着した車両などが迫ってきたら、道を譲るぐらいのゆとりがほしいところです。 

 

 そして気になる耐久性ですが「イッセ・スノーソックス」の「スーパー」を昨シーズンからテストも含めて雪上を20km少々走行していますが、穴や破れはありません。使用制限速度の時速40km/hを守れば、100kmぐらいは穴も開くことなく使用できた、という報告もあります。また穴が開いてもしばらくは使用できるため、200kmほど使用できたという運送業者さんの報告もありました。新たに加わった「type II」シリーズなら、さらに耐久性は高くなるはずです。 

 

 間もなく本格的な降雪のシーズンを迎え、首都圏でも積雪の可能性が高まります。圧雪路での発進、加速、ブレーキング、そしてコーナリングでは不安を感じることなく走れる「スノーソックス」を始め、布製滑り止めを検討してみてはどうでしょう。 

 

【プロフィール】 

佐藤篤司(さとう・あつし)/男性週刊誌、男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。 

 

 

 
 

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