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NHKの大河ドラマ「光る君へ」は、平安時代に活躍した女性文学者の紫式部を主人公に据えている。

最終回では紫式部と道長の穏やかな時間が描かれ、物語が重要な役割を果たしていることが描かれた。

道長との別れのシーンでは、涙を流しながらもまひろが強さを見せる姿が感動的だった。

作品の中で鳥かごが象徴的に使われ、物語の結末を演出するきっかけとなった。

また、最終回では武士の時代への移り変わりも描かれており、合戦シーンが少ないながらも貴族社会の人間ドラマが細やかに描かれたチャレンジングな企画として注目を集めた。

(要約)

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従者の乙丸を連れ、旅に出たまひろ=最終回より、NHK提供 

 

平安時代に長編小説「源氏物語」を執筆した紫式部の人生を描くNHK大河ドラマ「光る君へ」。女性文学者を主人公とした異色の「文学大河」が15日、最終回を迎えた。チーフ演出の中島由貴さんに、最終回に込めた思いや撮影秘話を聞いた。 

 

■道長との穏やかな時間 

 

生涯にわたって強い絆で結ばれたまひろ(紫式部、吉高由里子)と道長(柄本佑)。幼い日に生まれた恋心は、男女の関係を超えて絆を深めた。まひろは物語を書くことに生きる意味を見出し、道長はその創作活動を支え、「源氏物語」という1000年後まで読み継がれる作品が生まれた。 

 

最終回で描かれた2人の終着点にも「物語」が重要な役割を果たした。 

 

最期の時を迎える道長のもとに、嫡妻の倫子に頼まれたまひろが通う。弱っていく道長に新しい物語を頼まれ、まひろは語り聞かせた。「続きは、また明日」と告げるまひろの声は柔らかくやさしさに満ちていた。 

 

道長と再会した場面の吉高の演技が印象に残っているという。道長がまひろに手を伸ばす。その手をにぎりしめるまひろの目には涙があった。吉高に、「道長には見えてないから、泣いてもいい。だけど、泣いてる風を装わずに声だけは不安を感じさせないようにしゃべってほしい」とリクエストしたという。涙を流しながらも、道長を不安にさせないように、淡々と言葉をつむぎだすまひろ。静かな時間が過ぎていく。 

 

「老齢で、もうすぐ死んでしまう愛しい男を目の前にして、吉高さんというかまひろが頑張って、自分の感情を抑えつつも涙が出ている。見ていて感動しました」と振り返る。 

 

2人の最後の時間は穏やかなものだった。まひろの声に、道長はゆっくりと目を開けて反応した。「まひろとしてもまだ生きてるなと思って、このシーンは終わります。死んじゃったんだなっていう風には終わらないよって話はしました」と明かす。 

 

■「道長のおかげ」 

 

傲慢なイメージで語られることが多い道長だが、今作では誠実でおだやかな新たな道長像を提示した。 

 

「民のためのよりよい政」というまひろとの約束を守るために政治家の道を歩んだ道長。最終回、命が尽きようとしている道長が、「この世は何も変わっていない」と嘆くと、まひろは「戦のない太平の世を守られました」「源氏の物語はあなたさまなしでは生まれませんでした」と告げた。 

 

 

劇中には、紫式部をはじめ、清少納言、和泉式部、赤染衛門ら女性作家が登場した。この後、女性文学者が歴史上で注目されるのは明治時代まで下るという。 

 

「道長時代に女性文学者が花開いてその後絶えたのは、それだけ道長という存在があったおかげもあるのかなと思いました。道長の時代は、大きく世の中を揺るがすような戦は起きなかった。政治家として大きな何かをやったわけじゃないけれど、そういうところもちょっとはあると思ってもらえたら」と語る。 

 

■鳥かごの意味 

 

最終回でクローズアップされたのが、まひろの家、為時邸にある「鳥かご」だ。吊ってあった鳥かごをまひろが外そうとすると、壊れて落ちてしまった。その後、まひろは従者の乙丸を連れて旅に出る。「本当に最後、まひろが鳥のように飛び立っていくということです。もう鳥のように戻ってこないみたいな感じです」 

 

この鳥かごは、実は第1回から登場している。幼いまひろは飼っていた鳥に逃げられてしまう。逃げた鳥を探していたところ、三郎(道長の幼名)と出会ったのだ。空っぽの鳥かごは、捨てられることなく為時邸に吊り下げられてきたが、鳥かごを象徴的に使うことは、美術チームからの提案だった。「鳥が逃げたから鳥かごを捨ててしまうのではなく、あえて残すことで、意味合いが深まっていくというご提案をもらったんです。空の鳥かごがずっと置いてあるっていうのは、 何かその時々ニュアンスとして、味付け的に引っ張っていけるんじゃないかなと思って残していました」 

 

以降、経年劣化させつつ、鳥かごは為時邸に飾られ続けてきた。「最後の方になって、これどうやって処理しようかと。鳥かごも決着しないとダメだよねと思いました」。その結果、まひろの旅立ちのきっかけの演出として使われたのだ。 

 

■武士の時代へ 

 

1年にわたり描かれてきた物語は、双寿丸(伊藤健太郎)ら武者とすれ違ったまひろが、「道長さま、嵐がくるわ」とつぶやき、幕を閉じた。 

 

 

クライマックスに向けて存在感を増していたのが、武者たちだ。第46回の刀伊の入寇では武者が活躍し、敵を撃退した。「道長が亡くなった万寿4年の翌年に平忠常の乱(長元元年/1028年)が起きるという点に着目しました。それを見通した時に、道長の死後、まひろが、武士の時代の気配を感じて終わる方がいいんじゃないかと思ったんです。最初から、ラストシーンは、『道長様、嵐が来るわ』って言って終わりましょうっていうのは決まっていたんです」 

 

■「チャレンジングな企画」 

 

大河ドラマの定番である合戦シーンはほぼなかったが、平安時代の貴族社会を生々しく描き、細やかな感情を追った人間ドラマとして、新たな可能性を示した。「文学者を、戦いをしない人物を主人公にした大河ということで、チャレンジングな企画になったんじゃないかなっていう気はしています」 

 

総集編は、29日に放送予定。(油原聡子) 

 

◇なかじま・ゆき 1992年NHK入局。連続テレビ小説「ウェルかめ」「スカーレット」など多くのテレビドラマの演出を担当。大河ドラマは「秀吉」「平清盛」の演出に関わった。 

 

 

 
 

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