( 234169 ) 2024/12/16 19:17:17 1 00 来年の大学入学共通テストは1月18、19日に予定されており、公立中から高校進学ルートについての情報が不足していることが「中学受験ブーム」につながっている可能性がある。 |
( 234171 ) 2024/12/16 19:17:17 0 00 来年度の「大学入学共通テスト」は1月18、19日に実施予定(写真は2024年、時事通信フォト)
主に首都圏で「中学受験ブーム」が過熱する背景には、「公立中→高校受験」という王道ルートについての情報が少ないことがあるのではないか。私立の中高一貫校は、基本的に受験勉強して大学を目指す進学校が目立つが、一方の公立高校にはさまざまな専門科があり、その専門性を活かした進学ルートも用意されている。フリーライターの清水典之氏が、受験情報の専門家への取材を基にレポートするシリーズ「“中学受験神話”に騙されるな」、進路の選択肢も多様な公立高校の現在について紹介する。【第4回】
* * * 現在の大学入試は「指定校推薦・公募推薦」や「総合型選抜(旧AO入試)」の割合が高まっている。文部科学省の「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」によると、2023年度の国公立・私立大の入試は、「一般選抜(一般入試)」が48.9%、「学校推薦型選抜(指定校制と公募制)」が30.5%、「総合型選抜(旧AO入試)」が20.6%だった(選抜区分数別)。入学者数別に見ても、大学全体ですでに一般入試での入学者は5割を割り込んでいる(国立大は約8割、公立大は約7割が一般入試での入学だった)。
指定校推薦による選抜を実施しているのは、ごく一部の公立大学を除き、ほとんどが私立大学である。大学側が指定した高校ごとに推薦人数を割り当て、高校側は推薦を希望する生徒を評定(高校3年間の内申点)や部活動の成績などで選考し、学校長が大学側に推薦する。面接や小論文などが課されることはあるが、推薦されればほぼ合格が確定するという制度だ。公募制推薦は、指定校でなくても、大学側の示す評定などの基準を満たしていれば学校長が推薦して出願できるが、合格するとは限らない。
一方、総合型選抜(旧AO入試)は学校の推薦が不要で、大学側が求める学生であることを自己推薦する入試だ。書類審査や面接に加え、小論文やプレゼンを課したり、資格・検定試験の成績、共通テストの成績などを提出させたりと選抜方法は大学によってさまざま。不合格になることも多々ある。
高校の成績でほぼ合格が確定する指定校推薦は、一発入試は苦手だが努力家といった子にとっては魅力的だ。指定推薦枠は公立高校にも私立高校にも割り当てられているが、公立高校は推薦枠をあまり積極的に公表しないので、詳細はあまり知られていない。
私立の中高一貫校が普通科の進学校かそれに準ずる学校がほとんどであるのに対し、公立高校には進学校以外にも専門性を育む多種多様な高校が存在し、その専門性を活かせる大学の指定校推薦枠を多数もっていることが多い。
『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと』(学研)の著者で、Xアカウント「東京高校受験主義」で4万8000人のフォロワーをもつ塾講師の東田高志氏はこう語る。
「私立高校には、男女別学であるとか、ミッション系であるとか、そういう方向性での多様性がありますが、教育の中身で見ていくと、公立高校のほうが多様化が進んでいます。
たとえば、都立国際高校は英語教育と国際教育に重点を置き、海外大への進学を目指す高校で、2024年度はIB(国際バカロレア)コースから海外の名門、英オックスフォード大や米プリンストン大の合格者が出ました。国内では、早慶や上智など多数の指定校推薦枠をもっています。国際科のある公立高校は、他にも神奈川県や兵庫、奈良にあります。
また、理系進学に特化した都立多摩科学技術高校は、大学並みの研究設備が整い、理系の大学への指定校推薦枠を多数もっています。理数系の優秀な生徒が集まる高校で、3年間の研究成果をまとめて、学会などのポスターセッションに応募して賞を取り、その成果を掲げて旧帝大などの総合型選抜を突破していく生徒が多数います。同様の科学技術高校は東京だけでなく、秋田や静岡、福井、兵庫、徳島、福岡など全国にあります」
国際や多摩科学技術は、都立の中でも上位にランクされる高校として知られる。そのほか、受験業界で「中堅以下」とされる都立高でも、さまざまな大学進学ルートが存在する。農業・商業・工業高校には、受験勉強が苦手な子でも“逆転ホームラン”を狙える進学ルートがあるという。
「勉強が得意でないタイプこそ、高校受験から大学進学のルートがすすめられます。農業高校や商業高校、工業高校など専門科の高校は昔からありますが、今はこうした高校からも大学に進学するのが一般的です。世田谷にある都立園芸高校は、農学部の推薦枠を多数もち、東京農大には指定校推薦枠や総合型選抜で続々と入っています。園芸高校は入学偏差値だけ見れば東京農大に入るには厳しいレベルです。なので、校長先生に推薦でこれだけ進学が出る理由を聞いてみたところ、『農業高校出身者は、実習のときに大活躍するから、大学が評価してくれている』とのことでした。実践から入った子は、理論の理解も早いものです。
商業科からも、指定校推薦を使って商学部や経済学部へ進学しています。大学ごとに『簿記○級以上』といった推薦の条件があって、それを利用して進学する。都立の第一商業高校はMARCHや國學院大、日大などの指定校推薦枠をもっていて、入学時の偏差値からすると、もし普通科の高校に進学していたらまず無理だった大学に進学しています。大学で税理士や中小企業診断士、社労士などの資格を取得し、その道に進む子もいます」(同前)
親の世代が高校生だった頃には存在しなかった新しい形態の高校も誕生している。
「晴海総合高校は、大学のように受講する科目を選択できる都立初の総合学科の高校で、500以上の指定校推薦枠を持っています。得意科目に専念できるので評定を取りやすいうえ、多くの総合学科で2年次から行なう課題研究のカリキュラムに乗るだけで、総合型選抜で提出する実績ができあがるという強みがあります」(同前)
公立高校には、ほかにも芸術系や海洋系などさまざまな専門科があり、こうした専門性を活かして指定校推薦や総合型選抜で大学に進学するルートが存在している。
一方の私立中高一貫校も、学力レベルに応じて、早慶上理以下、多くの私立大学からの指定校推薦枠をもっているが、その扱いによっては理不尽な事態が起きると東田氏はいう。
「私立中高一貫校のなかで中堅もしくはそれ以下の学校の多くは、入試成績によって生徒を選抜コースと一般コースに分け、選抜コースでは難関大学に合格するためのカリキュラムを組んで大学進学実績を上げようとします。こうした学校では、選抜コースの生徒は指定校推薦を利用できないことが多い。選抜コースの生徒には一般入試で合格実績を稼いでもらい、一般コースの生徒には指定校推薦で合格実績を重ねてもらうという戦略です。
しかし、当の選抜コースの生徒は、一般コースの子が指定校推薦で入っていく大学に、自分は必死に勉強して一般入試で合格しないと入れないという現実に、理不尽さを感じてしまう。選抜コースの生徒は部活動禁止の学校もあり、部活を我慢して真面目に勉強している子が損をしている。公立高校では、こうした制限はほとんどありません」
選抜コースの生徒には、難関大学に合格するための手厚いサポートがあるので、その代償ということなのかもしれない。入学する時点で指定校推薦が使えないことを知っていて、納得しているのなら問題ないが、知らずに入ると不満が残りかねないので、受験前に学校説明会などで質問して確認することをお勧めする。
取材・文/清水典之(フリーライター)
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