( 235266 ) 2024/12/18 17:37:24 0 00 JR山手線の優先席エリア(画像:写真AC)
2015年5月にJIS(日本産業規格)として制定された「ベビーカーマーク」は、ベビーカー利用者が安心して利用できる場所や設備を示すものだ。対象はエレベーターや鉄道・バス車両内の専用スペースなどで、このマークがある場所では、適切な使用方法を守ればベビーカーを折りたたまずに利用できる。
しかし現状では、このマークの認知度は依然として低い。国土交通省は、ベビーカー利用者と周囲の理解を深めるため、継続的なキャンペーンを展開しているものの、認識の広がりには限界があるようだ。
「ベビーカーで電車に乗るのは非常識」 「車内では折りたたむべき」
といった根強い意見が世間に残る一方で、公共交通や施設ではバリアフリー化が進み、環境は改善されつつある。それでも、子育て世帯が肩身の狭い思いをするケースは少なくない。
この状況の背景には、ベビーカーマークの認知不足があるのではないか。マークの存在が広く知られれば、ベビーカー利用者はより快適に公共の場を使えるようになるはずだ。
では、認知度が向上することで具体的に何が変わるのか。一児の母である筆者(小島聖夏、フリーライター)が、その可能性を探る。
ベビーカーマークがついたバス(画像:高槻市営バス)
2024年6月14日から7月4日にかけて、国土交通省は国土交通行政インターネットモニター1075人を対象に、公共交通におけるベビーカーの利用に関するアンケートを実施した。
「あなたは、ベビーカーマークを知っていましたか」という問いに対し、37.5%が「見たことはないし、意味も知らなかった」と回答し、14.5%は「見たことはあるが、意味は知らなかった」と答えた。認知していない人の割合は52%に上り、マークの周知不足が明らかになった。
一方で、ベビーカーを現在使用している、または過去に使用経験のある646人に「あなたは、電車やバスなどでベビーカーを折りたたまずに使用したことがありますか」と尋ねたところ、「使用したことがある」は41.6%にとどまった。多くの利用者が、折りたたんで利用するケースが依然として多いことがわかる。
ただし、「あなたは、電車やバスなどの車内では原則としてベビーカーを折りたたまずに使用できることを知っていますか」という設問では、63.5%が「知っている」と回答している。
また、「あなたは、電車やバスなどにベビーカーを折りたたまずに乗車できることに対してどのように思いますか」との質問には、「賛成」が53.8%、「どちらかというと賛成」が36.0%と、賛成意見が
「合計89.8%」
を占めた。この結果からも、ベビーカーマークの認知度が向上し、折りたたむ必要がない場所という理解が浸透すれば、ベビーカー利用者の負担が軽減されるとともに、周囲の許容度も自然と高まっていくと考えられる。
「ベビーカーからのお願い。」(画像:新京成電鉄)
ここで、ベビーカーマークの誕生と現在の取り組みを振り返ってみよう。
2013(平成25)年6月、国土交通省はベビーカーの利用環境を整えるため「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」を設置した。この協議会には、国土交通省をはじめ、学識経験者や子育て関連団体、交通事業者団体、行政機関などが参加している。協議会では
「電車やバスなどの車内やエレベーターでは、原則としてベビーカーを折りたたまずに使用できること」
を原則とし、2014年3月にはベビーカーの安全な利用場所を示すベビーカーマークを策定。また、利用者と周囲の人々が理解し合うためのガイドラインとして「ベビーカー利用にあたってのお願い」も作成された。
その後、ベビーカー利用時のルール整備も進み、エスカレーターなどベビーカーの使用が禁止されている場所には「ベビーカー禁止マーク」が設置されるようになった。
協議会は現在、「子育てにやさしい移動に関する協議会」へと発展し、ベビーカーマークの普及と環境整備の取り組みがさらに推進されている。
ベビーカーマーク (画像:写真AC)
混雑した電車やバスでの移動では、
「ベビーカーをたたんで子どもを抱っこする」
という選択肢もある。しかし、立ったまま抱っこしていると急ブレーキ時に転倒し、子どもが危険にさらされる可能性がある。また、満員の車内では、子どもが圧迫されないか不安になることも多い。このような状況から、混雑時でもベビーカーを利用したいと思う場面は少なくない。
とはいえ、周囲に迷惑をかけないか過度に気にするあまり、ベビーカーを使うのを躊躇してしまうこともある。こうした事態を改善するために、ベビーカーの使用が多い場所には積極的にベビーカーマークを設置し、その意味を周囲の人々に理解してもらう必要がある。
一方で、ベビーカーを使用する人々にも配慮が求められる。「ベビーカーマークがあるから迷惑をかけても問題ない」という態度では、当然批判やマーク撤廃を求める声も上がるだろう。
ベビーカーマークの認知度が高まるとともに、全ての利用者が思いやりを持つことが、よりよい共存に不可欠である。
小島聖夏(フリーライター)
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