( 235291 ) 2024/12/18 18:07:04 0 00 Photo by gettyimages
ゴーン氏の改革から25年、そして「脱ゴーン」から5年。しかし日産ほどの巨大組織が本当に変わるのは、そう簡単ではなかったようだ。時価総額が国内下位に転落した「危機」の裏で、何が起きたのか。
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「2度にわたる下方修正となり、非常に大きな責任を感じている」
「稼げる車がない」
日産自動車の内田誠社長は11月7日、2024年4~9月期決算を発表する場で神妙な表情を浮かべ、同社の深刻な経営状態について説明した。
決算の内容は、「本業のもうけ」を示す営業利益が前年同期比90.2%減の329億円。営業利益を売上高で割った売上高営業利益率も、5.6%から0.5%に急落した。当期純利益は93.5%減の192億円で、総崩れ状態だ。
業績悪化の最大の要因が、主要市場と位置付ける北米、中国、日本国内の3地域で軒並み販売を落としていることだ。特に地域別の営業利益では、「ドル箱」の北米地区が2414億円の黒字から41億円の赤字に落ち込み、苦戦している。
ある業界関係者は「日産は、北米でインセンティブと呼ばれる販売奨励金を出して値引き販売しているので、収益性を落としている」と話す。
インセンティブとは、値引きやローンの優遇金利対応などのために自動車メーカーが販売店などへ支払う原資のことで、商品力が低かったり、市場で過当競争になったりすると増える傾向にある。インセンティブが増えている現状について、内田氏は会見で「単純な値引きはしていない」と弁明したが、北米では一部車種でローン金利をゼロにするなどして、実質的に値引きが行われている。
ところが日産の北米販売台数は、値引き販売しても増えるどころか減っている。それは、トヨタやホンダなど競合他社に比べて、日産にはSUVなどの売れ筋で魅力的な製品がないため、消費者に選んでもらえていないからである。
値引きに頼って新車を売るから、その車の下取り価格が上がらず、中古車価格の下落を招き、さらに新車を値引きしなければならない……という悪循環に陥っているわけだ。
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この構図は、1999年、日産が倒産寸前の経営危機に陥った時の状況と重なる。当時、日産のセダン「アルティマ」(日本名ブルーバード)は、トヨタの「カムリ」やホンダの「アコード」に商品力で歯が立たず、値引きでシェアを稼ごうとして、収益性を落としていた。
日産車の商品力が低いのは、2018年に特別背任容疑で逮捕されるまで経営トップとして長らく君臨した、カルロス・ゴーン氏が開発投資を絞ってきたことも影響している。たとえば、ゴーン氏はEVに注力するため、ハイブリッド車開発になかなかゴーサインを出さず、日産はハイブリッド車市場で出遅れた。
これまでは、2020年春からのコロナ禍や、半導体不足が欠点を覆い隠してくれた一面がある。車の需要は旺盛な一方、各社の工場の稼働率が落ちて供給量が減ったことで、需給バランスが崩れ、値引きしなくても売れる状態が生じたからだ。
ところがコロナ禍が収束し、各社とも供給力を回復させて需給バランスが以前の状態に戻ると、商品力の弱い日産の馬脚が露呈したのである。
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業績悪化を受けて、日産は全社員の7%に当たる9000人、生産能力を20%、固定費を3000億円それぞれ削減するリストラ計画を発表した。リストラに伴う特別損失を計上するとみられるため、当期純利益の見通しは「未定」と事実上下方修正した。この規模のリストラを行えば、数千億円規模の特損を計上し、当期赤字に転落する可能性が高い。
決算発表の翌11月8日には、日産の株価は年初来安値を更新して385円となり、時価総額が1兆4300億円程度にまで落ちた。日本の自動車会社の時価総額ランキングでは、1位トヨタ、2位ホンダ、3位スズキ、4位スバル、5位いすゞ自動車に次いで6位となった。規模ではトヨタ、ホンダ、日産が大手3社だが、企業価値の視点から見ると、日産はもはや「大手」とは言えない。
今回の極度の経営不振の背景にあるのは、こうした構造的な問題ばかりではない。筆者が複数の関係者を取材すると、「人災」的な一面も浮かび上がってきた。要は、危機感と能力に欠ける経営陣が、現場の持つ力を引き出せていないのだ。
「内田さんは『素早く決断すること』と『将来のビジョンを作ること』が特に苦手。率直に言って、自動車産業の大変革期に、社長が務まる器ではありません」
こう語るのは中堅幹部の一人だ。さらには、内田氏が社長を務める以前に部下だったOBも、「昔から、とにかく何も決めない人」と評する。
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内田氏が社長に就任したのは2019年12月。前任の西川廣人氏の辞任を受け、社外取締役ら6人で構成される指名委員会が、当時の専務で中国事業の責任者だった内田氏を新社長に選んだ。
だが、その選考プロセスについて、内情を知る元幹部は「当初、指名委員6人のうち内田氏を支持した人はゼロだった」と証言する。
その元幹部によると、6人中3人が関潤専務(当時)、2人が三菱自動車のアシュワニ・グプタCOO(同)、1人が山内康裕暫定CEO(同)を支持し、関氏が新社長に決まりかけた。ところが、当時日産の株式44%を保有していた、筆頭株主ルノーのスナール会長が難色を示し、いつの間にか内田氏が社長に選出されてしまったという。
ある別の元幹部は「スナール氏は、決断力に欠ける内田氏を操りやすいと見て、社長に据えようとしたのでしょう」と見る。
こうして社長に選ばれた内田氏は2019年12月2日、就任会見に臨むが、そこでもひと悶着あったという。
当時の日産も、ゴーン氏による無謀な拡大路線の余波で過剰生産能力に苦しみ、大リストラをしなければならない状況に追い込まれていた。そのため、ある役員が「社長就任挨拶では、社内の危機感を醸成するために、会社をゼロから作り直すと宣言し、過去を健全に否定した方がいい」と提言したのだが、内田氏は「私は過去を否定できない」と拒んだという。
以来5年が経つが、内田氏は未だに独自のカラーを出せていないように映る。社長就任後、すぐに始まった構造改革「日産NEXT」も、その内容のほとんどは社長候補だった関氏が中心になって策定したものだと言われている。現在の執行役員の顔ぶれも、ゴーン時代から大きく変わっていない。
さらに日産社内には、意思決定システムにも「ゴーン氏の影響」が色濃く残っているとの声がある。後編記事【株価低迷の日産はなぜ「ひとり負け」しているのか…?社員を苦しめる「ゴーン体制の負の遺産」の正体】に続く。
「週刊現代」2024年12月7・14日合併号より
井上 久男(ジャーナリスト)
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