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2024年7月の調査によると、生活保護受給者は約201万人であり、その中には物価高などの理由で生活保護を受ける人が増加している。

生活保護は最低生活費を保障するが、実際には生活保護から抜け出せない人もいる。

介護や働き盛りでの収入低下が原因で生活保護を受ける事例が示され、生活保護から抜け出せない理由や改善策が紹介されている。

(要約)

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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

2024年7月の調査によると、「生活保護」受給者は約201万人。物価高をはじめ、さまざまな理由から生活保護を利用する人が増加している現状があります。「最低生活費」が保障されることから、生活保護の申請が通れば社会復帰がスムーズになるイメージがあるかもしれませんが、実際には「一刻も早く抜け出したいが、生活保護依存から抜け出せない」という人も少なくないようです。50代単身女性の事例から、生活保護のしくみと抜け出せない理由、改善策について、株式会社FAMOREの山原美起子CFPが解説します。  

 

生活保護といえば、メディア等で悪質な不正受給ばかりがクローズアップされたことで、「問題のある制度」として認識されている人も多いのではないでしょうか。「人気芸人の母親が生活保護を受給しているのはおかしい」という十数年前のニュースを記憶している人もいるでしょう。 

 

しかし、「貧困」は深刻な社会問題であり、決して他人事ではありません。 

 

厚生労働省が2024年5月に行った調査によると、生活保護受給者の数は約201万人。その内訳をみると、年金生活の高齢者が半数を占めます※。 

※ 出所:厚生労働省「生活保護受給者数等の推移等」 

 

「働かずに楽をしている」というイメージを持っている人もいるかもしれませんが、実際には「一刻も早く生活保護生活から脱却したい」と願いながら懸命に働いているにもかかわらず、なかなか抜け出せないという人も多いのです。 

 

京子さん(仮名・52歳)は現在、パートをしながら生活保護を受給しています。「就職氷河期と就職活動の時期が重なり、大学卒業後に正社員になれなかったことが悪夢の始まりでした」と京子さんは振り返ります。京子さんは派遣社員としてキャリアをスタートさせました。 

 

その後、細々とした給料で職場を転々としながら働いていた京子さん。低賃金の非正規雇用という立場ではあったものの、贅沢をする習慣もなく、日々の生活に困ることはありませんでした。しかし、まとまった貯蓄はなく、リスクに備えた保険加入などはしていませんでした。 

 

そんな生活を続けていた京子さんですが、大きな問題が発生したのは39歳のときです。父が認知症になり、介護が必要となったのです。 

 

母はすでに他界していたため、高齢者施設に入所させることも考えましたが、「お金もあまりないし、これまでひとりぼっちにさせていたから、せめてもの親孝行になれば」と、京子さんは仕事を辞め、父の介護に専念することを決断しました。 

 

「派遣は半年ごとに契約更新だったんです。いつ切られるかビクビクする生活はやっぱり苦しかったし、同世代とどんどんキャリアや収入の差が開いていく現実から逃げたいという、現実逃避の面も強かったかもしれませんね」。 

 

その後、8年という長い介護生活が終わったとき、京子さんの貯金は底をついていました。その結果、唯一の収入源だった父の年金が途絶えると、あっという間に生活は困窮していきます。長年父につきっきりの生活で、京子さん自身の健康面にも不安があったことから、父の死後もフルタイムで働くことができず、まずは短時間勤務のパートを始めました。しかし、それだけでは生活費を賄うだけの収入を得ることはできません。 

 

 

そんな折、京子さんはひどい腹痛に襲われ、職場で倒れてしまいました。 

 

病院に運ばれ診察を受けた結果、「子宮内膜症」を患っていることが判明。「出血がひどいので入院を」という医師に、京子さんは涙を流して訴えます。 

 

「そんな……、これ以上パートを休んだら生活ができません。入院費も払えません」。 

 

すると、病院勤務のケースワーカーから、次のように声をかけられました。「とはいえ、入院しなくては治療に時間がかかりますし、痛くてお辛いでしょう。お困りでしたら、『生活保護を受給する』という選択肢がありますよ」。 

 

「でも私は働いているし、生活保護をもらう資格がないはずです。それに、生活保護をもらってるなんて周囲に知られたら、ずるいって陰口を叩かれてしまう……」。 

 

「生活保護」という言葉に拒絶反応を示す京子さんでしたが、ケースワーカーが丁寧に説明するうち、最終的には「ひとりでどうにかするしかない、できないことは我慢するしかないと思っていたけど、わたし、この制度に頼ってもいいんですね」と納得。自分の置かれている現状を受け入れ、次のように言いました。 

 

「生活保護、申請します。よろしくお願いします」。 

 

「生活保護制度」は、日本国憲法第25条に保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」の保障と、自立の助長を目的に整備されているものです。 

 

生活保護を受給する条件は、厚生労働省が定める「最低生活費」よりも収入が少ないこと。そのため、京子さんのように働いていても、収入が最低生活費を下回っていれば受給することが可能です。この場合、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給されます。 

 

なお、最低生活費は地域や年齢、世帯の人数などによって異なり、毎年厚生労働省が算定します。申請の結果、大阪市内在住、52歳・単身の京子さんには毎月約11万円が支給されることが決まりました。 

 

生活保護を受給しているあいだは、国民健康保険の対象となるサービスはすべて自己負担なく受けることができます(医療扶助)。したがって、入院費についても、京子さんはお金を気にすることなく過ごすことができました。 

 

医療扶助のほかにも、住宅扶助や生活扶助など、生活保護には8つの扶助があります。治療経過も順調で、「頼ってよかった」と国の手厚いサポートにありがたさを感じる京子さんです。 

 

「退院したらまた働くし、すぐに生活保護から抜け出せるはず」と思っていた京子さんでしたが、そう簡単にはいきませんでした。お米を買うことすらままならず、売れ残りで半額になったお弁当を探す日々。「『なんのために生きてるんだろう』って、次第に虚無感に苛まれるようになりました」と振り返ります。 

 

京子さんだけでなく、就労しながらも生活保護を抜け出せないと悩んでいる人は少なくありません。主な理由として、下記のようなものが挙げられます。 

 

1.収入増加による支給額の減額 

 

生活保護は最低限の生活を保障するために支給されるものですから、就労によって一定の収入があると、支給額が減額されます。無理して働いても生活が楽になる実感がなく、「働いても働かなくても同じでは……」と、継続的な就労への意欲が薄れる原因となっています。 

 

2.家賃の負担 

 

家賃の高い地域で住宅扶助を受けている場合、家賃が一定の基準を超えた分は自己負担となり、生活を圧迫します。 

 

収入の安定しない京子さんにとって継続した家賃の捻出は難しく、生活保護への依存から抜け出すことができません。 

 

3.国民健康保険料の負担 

 

生活保護を受けていると、先述したように国民健康保険料の支払いが免除されているため、医療費の負担がありません。しかし、生活保護を脱却した場合は、所得に応じて国民健康保険料が発生します。 

 

生活が安定しないうちは経済的負担が大きく、健康面に不安のある京子さんには自立への大きな障壁となっています。 

 

4.精神的・社会的なハードル 

 

生活保護を受けていることで自己評価が低くなり、社会とのつながりを持つことが困難になることがあります。 

 

介護生活で引きこもりがちだった京子さんは出かけるための洋服や靴を持っておらず、気がつけば肌はボロボロ、髪もボサボサの状態となっていました。就職のための面接はおろか、友人に会う勇気も持てなかったようです。 

 

上記のような要因が複合的に絡み合い、生活保護から抜け出すことを困難にしています。自立に向けた支援がより充実し、収入増加が生活改善につながる環境が整えばいいのですが、現実にはその道のりが長く険しいことが多いのです。 

 

 

就職氷河期や介護などが原因で、働き盛りの時期に資産形成が思うようにいかなかった京子さんですが、仮に、京子さんが生活保護から脱却できた場合、その後のマネープランはどのように立てていけばいいのでしょうか。 

 

1. 今後の生活費を試算する 

 

まずは目先の生活だけでなく、老後まで見越した生活に必要な資金を明確に把握することが大切です。生活費や医療費、介護費用などを見積もり、その金額をもとに資産形成計画を立てるといいでしょう。 

 

2. スキルアップと仕事の安定 

 

収入源確保のために、資格取得をはじめとしたスキルアップを検討することも重要です。たとえばハローワークでは、再就職に向けた「職業訓練プログラム」があります。 

 

京子さんの場合は、介護経験を活かしてホームヘルパーの資格を取得するといった選択肢が考えられるでしょう。自身の経験や得意なことからできる仕事の幅を広げることは、より安定した収入を得る大きな助けになります。 

 

3.早期に貯蓄・投資を開始する 

 

資産形成が不十分な場合でも諦めず、できるだけ早く貯蓄を始め、ある程度貯蓄できたら資産運用を始めることをおすすめします。NISAをはじめ、少額でも税制優遇を受けられる制度を活用するとよいでしょう。 

 

単身女性の生活設計は孤独になりがち…周囲を頼り、心身ともに充実した暮らしへ 

 

誰しも予期しない困難が訪れることがあります。生活保護は、生活困窮者に向けて法的に保障された権利であり、決して恥じるものではありません。本来受給すべき人が受給できていない実態を指摘されていることからも、今後の課題として社会的な誤解や偏見を解消するための取り組みが不可欠です。 

 

また、京子さんのように単身で生活している場合、生活保護を受けながらの生活設計は孤独になりがちです。精神的な安定を得るためには、親族や友人とのつながりを持ち続け、定期的に専門家に相談するなど長期的な視野でコツコツと準備を進めることが、心身ともに充実した生活を手に入れるためのカギといえます。 

 

山原 美起子 

株式会社FAMORE 

ファイナンシャル・プランナー 

 

 

 
 

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