( 236544 )  2024/12/20 18:51:29  
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都心のタワーマンションが人気であり、タワーマンションの将来に対する懐疑的な見方を示している。

不動産のプロである牧野知弘氏は、タワーマンションには地歴がないことや管理・維持の難しさ、災害リスクなどを指摘している。

特に晴海フラッグという大規模なマンション群に関して、転売や投資行動による問題が表面化しており、将来の運命が危ぶまれていると述べている。

不動産への金銭投資が生活やコミュニティとのつながりを顧みずに行われていることを問題視している。

(要約)

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巨大マンション群「晴海フラッグ」=東京都中央区(写真:共同通信社) 

 

 不動産市場で絶大な人気を誇る都心のタワーマンション。新築分譲価格は1億円超えもザラで、いまや現代版「富の象徴」とも言える状況だ。だが「何か儲かりそう」と安易に飛びつくと、大きな落とし穴が待っていることも。住まいとして、資産としてのタワマンに未来はあるか?  30年以上にわたり業界に身を置く不動産のプロが、タワマンの真実を読み解く。 

 

 ※本稿は『家が買えない』(牧野知弘著、ハヤカワ新書)より一部抜粋・再編集したものです。 

 

 (牧野 知弘:オラガ総研代表、不動産事業プロデューサー) 

 

■ エリートサラリーマンは団地を買い求めた 

 

 本書では、団地は造成され始めた当時、庶民にとって「憧れ」の住居だったことを紹介している。この団地に近いところが、現代のタワマンにはある。昭和40年代に団地を買い求めたエリートサラリーマンの姿が、現代のパワーカップルなどが「富の象徴」としてタワマンを購入する姿と重なるのだ。 

 

 また、戦後の都市圏近郊における住宅ニーズの急増が団地を生み、近年の都心居住ニーズの高まりがタワマンを生んだという、それぞれの時代的な背景があるが、団地が並ぶニュータウンも、タワマンが乱立する湾岸エリアも、ともに社会的な要請に応じて人工造成された街である点に共通項がある。 

 

 もちろん、オールドタウン化する郊外ニュータウンに比べて、タワマンが立つエリアは現代の居住ニーズに応えるべく選ばれているため、今は活気がある。先ほどのマンションは立地次第という面でも、とりわけタワマンは価値が高いとされる。 

 

 だが、果たして今後もその人気は続くであろうか。 

 

■ タワマン人気に懐疑的なワケとは?  

 

 私がその将来性に疑問を感じるのは、こうした街には「地歴」が存在しないからである。 

 

 地歴とは土地の歴史のことである。土地にもいろいろな背景があり、人々が繰り返し居住してきた土地もあれば、森や林、川べり、沼地などあまり居住に適さなかったところもある。 

 

 その土地がこれまでどのような姿であったかを知ることは、実は不動産を見るにあたってとても大切なポイントだ。 

 

 高度経済成長期から平成初期にかけて郊外で造成された新興住宅地には、かつて人々が住んだ地歴がなかった。もともと人が住んでいなかったのには、それ相応の地理的な理由があるはずだが、台地を切り崩して樹木を切り倒し、沼地を土砂で埋める、コンクリートで固める、など人為的な作業を加えたうえで、住宅地としてデビューさせたわけだ。 

 

■ ニュータウンは「ふるさと」と感じづらい 

 

 地歴のなかった土地に「人が住む」という新たなページが加えられた結果、「一代限り」の街としてその多くが衰退への道をたどっていることは、本書で述べている通りだ。 

 

 街としての持続可能性は、一代では結論が出ない。その地で育った子どもたちが、街に対してどれだけの愛着/プラウドを感じるかにかかっているからだ。残念なことに、そこで育ったはずの多くの子どもにとって、自分が大人になって「ふるさと」と感じることができるような存在になりえていないニュータウンが大半だ。 

 

 地歴があり、様々な年齢構成の人々が暮らす街で育つ場合とは異なり、彼らは同質性の高い住民が一斉に集住する街で育っている。街のごく一部、周囲にいる自分と同じような年齢、家族構成の人々としか関わってこなかったせいで、街自体には愛着が湧きにくい側面もある。 

 

 翻って、現代のタワマンエリアはどうであろうか。 

 

 

■ 目の前に海があるからといって泳げるわけでもない 

 

 埋立地の工場や倉庫跡地などに建設されたものが多く、もともと住宅地として形成されてきたわけではないため、ただ建物が林立しているだけの殺風景な風情が広がっているように映る。 

 

 とりわけ湾岸エリアは、居住環境としても優良とは言いがたく感じる。部屋からウォーターフロントを一望できるといっても次第にその景色には飽きてくるし、目の前に海があるからといって泳げるわけでもない。 

 

 それにもかかわらず、潮風を受けることで建物は傷みやすく、急造された公園の緑にもひしゃげたような樹木が多い。エリア内で中心となる店舗も、大手流通業者や不動産会社が用意した、どこでも見かけるテナントが入るようなショッピングモールだ。 

 

 おまけに、本章で見てきたマンションの管理・維持の問題は、タワマンにおいては低層マンションの比ではない。そもそも修繕費用がより嵩むうえ、高階層と低階層の住民の間で入居時点から意識はバラバラだ。 

 

 災害リスクについても、埋立地の多くでは地震発生による津波の危険性が高いことはもちろん、たとえ建物自体の安全性は確保されても、周辺地帯の液状化が起こることは東日本大震災発生時において証明済みだ。 

 

 エレベーターが停止し、40階まで階段の上り下りで死にそうになっただとか、ゲリラ豪雨による洪水で電気室が浸水したなど、タワマンにまつわる危険性の指摘は枚挙にいとまがない。 

 

 都心通勤に便利という点についても、いつまでも人はオフィスに通勤して働くのだろうか。 

 

 オフィスに行って仕事をするスタイルがなくなってしまえば、海風が強く、ベランダに飾った草花もすぐに枯れてしまう殺風景な湾岸エリアに、人は好んで暮らしたりするのだろうか。 

 

 一度建てられた建物は、長きにわたってその地に立ち続ける。タワマンが「金融商品化」している様子は本書前半で詳しく見たが、そうした投資ニーズに支えられたタワマンエリアが、新たな住宅地として地歴を刻んでいけるとは到底私には思えない。 

 

 

■ 「晴海フラッグ」で勃発したマネーゲーム 

 

 「晴海フラッグ」と呼ばれる分譲・賃貸マンションが、東京五輪選手村跡地に建設されている。選手宿舎から一般住戸へのリニューアル工事が完成した17棟の物件引き渡しが、2024年初めから3月末にかけて行われた。 

 

 晴海フラッグは、五輪選手村跡地に分譲19棟4145戸、賃貸4棟1487戸に加え、商業施設や介護住宅、保育施設などを併設した、いわば一つの街をつくるような意欲的な開発プロジェクトだ。五輪レガシーとしての価値が見込めること、希少な都心立地にもかかわらず販売価格が周辺時価の3割ほど安いことから、最高で266倍もの高倍率の住戸が出現するほどの大変な人気となった。 

 

 自治体の公共地やURなどが絡む不動産物件では、マンションの分譲にあたって投機的な動きを防ぐために、通常は「一定期間の転売禁止」「不動産業者など法人による購入禁止」「業者を介在させたサブリース(転貸)の禁止」などを課すのが一般的だ。しかし、晴海フラッグについては何の制限も設けられなかったため、それが購入熱をエスカレートさせた。 

 

 業者による転売を狙ったまとめ買いや、個人による投資用の取得をもくろむ動きが激しくなり、自らの住まいとして購入しようとする人を押しのける形となった。 

 

■ 分譲価格8100万円→転売価格1.5億円 

 

 結果として、物件引き渡しと同時に取得した部屋を即転売しようとする動きが見られ、マンション中古サイトに相次いで物件が掲載されることになる。ある棟の3LDK、27坪(90m2 

)の部屋は、1億5000万円(坪555万円)で売り出されていた。分譲価格は8100万円(坪300万円)程度だったので、売却できれば7000万円の売却益となる。 不動産価格は高騰が続いているので、もう少し待ってから売却して、より儲けを出そうと考える投資心理もある。賃貸募集をしている物件も、分譲引き渡し直後に100件を超え、月額賃料は30万円台を中心にして、高層階や海を臨む部屋では40万円から60万円台をつける。まさにマネーゲームと言える状態だ。こうした事象を指して、「晴海フラッグは資産価値がある」との評が下されている。 

 

 だが、晴海フラッグの今後はどうだろうか。たしかに都心ではなかなか見かけない広さの住宅を坪300万円で手に入れ、ずっと住み続けられるのならば悪くないかもしれない。とはいえ、さすがに坪555万円、27坪で1億5000万円の中古住宅が続々サイトに出てくる状況にいたると、これについてくる需要がどれほど見込めるのかは疑問だ。 

 

 また、しょせんは投資用物件だと言っても、マネーゲームはいつまでも続かない。購入価格が坪300万円であれば、賃貸料から考えて利回りは6%程度になるが、550万円ともなると利回りは3.27%にまで落ち込む。管理費や修繕積立金の負担を含めれば利回りはさらに下がる。 

 

 借り手にとっても月額30万円も40万円も出すなら、都内の四谷や小石川あたりの物件だって十分借りることができるので、話題が去れば冷静になってくる。現にすでに、賃貸に出している部屋になかなか客がつかないとのぼやきが出ているという。 

 

 

■ 「何か儲かりそう」大金を不動産に注ぎ込むニッポン 

 

 2024年3月、私は同年に開催されるパリ五輪の選手村を見学する機会があった。同地でも東京都同様に、選手村で活用した建物はマンションとして一般に分譲される予定だ。パリの場合はリニューアルなどはせずにそのまま売却されるようで、すでに販売が始まっていた。晴海に似た微妙な立地で、価格は市価より2、3割安いというのも同様だ。 

 

 だが、私が担当者に晴海の実情を告げたうえで、「パリではどうか」と聞くと、担当者は首をかしげて「そのような動きはまったくない、倍率も高くない」と言い切った。転売規制もサブリース規制も何もないのに、パリでは個人がマンションに投資して儲けようなどという動きはほとんどないのだと言う。 

 

 国民性の違いと言えばそれまでかもしれないが、パリでは古いアパルトマンに人気がある。それに対して、日本人は相も変わらぬ不動産神話を信じ、儲かりそうだと晴海フラッグに殺到している。 

 

 晴海フラッグに見られるような狂奔は、いったいいつまで続くのだろうか。フランス人ではないが、住宅は生活するための効用を得るものであって、金儲けの手段ではない。こうした浅ましい発想にいつまでしがみつくのだろうか。 

 

 金儲けのためとして自分のライフスタイルや価値観を真剣に顧みることもなく、将来に対する限りなく不確かな楽観を抱えて、「みんなが買っているから」「何か儲かりそうだから」という曖昧な理由で大金を不動産に注ぎ込む。そうした行為を続ける限り、住宅に対する真の愛着は育まれず、自分が住む街に誇りを持つことは到底できないであろう。 

 

牧野 知弘 

 

 

 
 

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