( 237119 )  2024/12/21 18:04:26  
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日産とホンダが経営統合に向けて協議を始める報道があり、背景には自動車業界が大きな構造転換に直面している事実がある。

日産自動車の利益が急減し、2024年4-9月期の連結決算では純利益が大幅に減少したことが明らかになった。

日産は9000人規模の人員削減や世界生産能力の削減などの構造改革を迫られ、株価も急落している。

自動車業界全体でEVへの移行や自動運転の進展が大きな変化をもたらし、経営に新たな課題をもたらしている。

経営統合が問題の解決になるかは疑問であり、更なる大規模な社内改革が必要とされている。

(要約)

( 237121 )  2024/12/21 18:04:26  
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日産・内田社長(左)とホンダ・三部社長  by Gettyimages 

 

日産とホンダとの経営統合に向けての交渉が始まると報道された。しかし、前途は容易でない。この背後には、自動車生産が100年に一度の構造転換に直面しているという事実があるからだ。 

 

日産自動車とホンダが、経営統合に向けた協議を始めると報道された。将来は、三菱自動車が合流することも視野に入れるとされる。 

 

経営統合の背後には、日産の利益急減がある。 

 

2024年4~9月期の連結決算では、純利益が前年同期比で93.5%減の192億円と、大幅に減少した。 

 

北米の営業利益は、2414億円からマイナス41億円へと赤字に転落。決算発表翌日の11月8日には、株価が年初来の安値となった。 

 

抜本的な構造改革を迫られ、従業員の1割弱に当たる9000人規模の人員削減や、世界生産能力の2割減に踏み切らざるを得なくなった。 

 

日産の株価は、2018年の5月頃から急激に落ち込んでいる。その結果、時価総額は98.9億ドルで世界第1675位。日本で第110位にまで落ち込んだ。 

 

日本の自動車メーカーの中では、時価総額がスズキ(222.8億ドル、世界第871位)やスバル(121.9億ドル、世界第1429位)にも抜かれている(2024年12月19日の値)。 

 

内田社長は、業績不振の原因として、「新商品をタイムリーに出すことができなかった。電気自動車(EV)を重視し、北米市場にハイブリッドカー(HEV)を投入できていなかった」ことを挙げた。 

 

確かに、そうした面はあったのだろう。しかし、もっと構造的な問題があったとしか考えようがない。 

 

事実、為替レートは、2022年以降、歴史的な円安だ。これによって、円表示の売り上げ高は大幅に増加し、したがって営業利益も増加して当然だ。実際、製造業全体では、歴史的な水準の利益を記録している。 

 

そうした中で、利益が落ち込むのだから、日産がいかに深刻な問題を抱えているかがよく分かる。 

 

 

日産が抱える問題の背後には、自動車産業が直面している2つの大きな変化がある。 

 

第1は、エンジン車からEVへの移行だ。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の新車販売に占めるEVの比率は、2035年には50%以上になる。 

 

第2は、自動運転だ。 

 

ガソリン車からEVへの転換が必要なのは、地球温暖化対策として必要だからだ(中国の場合には、給油システムを広い国土に整備することが困難であることや、原油を国内で産出しないことも、EV転換の大きな理由になっている)。 

 

これは、社会全体の立場から見て必要なことである。しかし、個人の立場から見れば、そのメリットは感じられない。だから、EVには補助や規制が必要になる。そのため、EVの普及は、政策によって大きな影響を受ける。 

 

それに対して、自動運転車のメリットは、個人の立場から見ても明らかだ。前回述べたように、免許証なしで利用できること、自分が使わない時にタクシーとして運用できるのは、大きなメリットだ。安全性が確保できれば、国の政策とは無関係に確実に増加する。そして社会構造を変えていく。 

 

前項で述べた変化によって、自動車製造の構造が、現在のものとは一変する。これは、「100年に1度の変革」と言われる。 

 

日本の自動車産業が強かったのは、複雑な部品をうまく組み合わせるという「すり合わせ」技術の高度さによる。これには、日本型終身雇用制度の中で訓練された熟練工が大きく寄与した。 

 

ハイブリッドカーになると、動力系統が2つあるのでさらに複雑になり、すり合わせの重要性はさらにます。 

 

しかし、EVになると、事態は変わる。個々の部品は非常に重要だが、それらを組み立てることは、電気機器の組み立てと同じようなものになってしまう。だから、すり合わせは重要ではなくなるのだ。 

 

そして、自動運転になると、自動車製造の構造が現在のものとは一変する。必要とされるのは、機械工学の技術というよりは、AIの技術になるからだ。 

 

こうした変化に対応するため、大規模な社内改革が必要になる。いらなくなる人材や部署を整理し、必要な人材や部署を増強する必要がある。しかし、日本型経営では、こうした大改革ができない。 

 

では、こうした問題は、経営統合すれば解決できる問題だろうか? 

 

統合すれば、かえって重点車種の選択などの経営方針が混乱してしまうというような事態には陥らないだろうか? 

 

事実、半導体や液晶では、数社の該当部分を統合して国策会社が作られたが、成功したと評価できるものは1つもない。 

 

問題は統合で解決できるようなものではなく、もっと根源的なものだと考えざるを得ない。 

 

 

こうした問題に直面するのは、日本だけでない。ドイツの自動車企業も同じ問題に直面している。 

 

そして、ドイツの自動車会社の時価総額も大幅に減少している。メルセデス・ベンツの時価総額は602.4億ドルで、世界第324位だ。BMWの時価総額は504.1億ドルで、世界第389位。VWの株価は、2021年4月から急激に下落した。現時点の時価総額は465.2億ドルで、世界第418位だ。 

 

アメリカの伝統的自動車メーカーの没落ぶりも同様だ。GMの時価総額は550.0億ドルで、世界第354位。フォードの時価総額は385.1億ドルで、世界第529位。 

 

これらと比べると、テスラ(時価総額は1兆4120億ドルで、世界第8位)がいかに特別な存在かがよく分かる。 

 

なお、これらの中間に、トヨタ(時価総額が2278億ドルで、世界第45位)と中国の自動車メーカーBYD(時価総額が1088.9億ドルで、世界第154位)とシャオミ(時価総額が959.6億ドルで、世界第167位)がある。 

 

つまり、自動車の生産という事業は、これまでのように日本やドイツが得意だったものから大きく変わってきているのだ。 

 

日産・ホンダの統合協議が報道された18日の東京株式市場では、日産株がストップ高となった半面で、ホンダ株は年初来の最安値を更新した。日産の救済がホンダの負担になると解釈されたのだろう。 

 

日本の製造業が根底から改革されなければならない必要性が、ついに自動車産業にまで及んだと考えるべきではないだろうか? 

 

日産に対しては、EMS(電子機器の受託製造サービス)の世界最大手、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が出資の提案を行っていたという報道がある。それを阻止するために、ホンダとの提携を急いだというのだ(日本経済新聞、12月9日)。 

 

では、ホンファイは、なぜ日産を買収しようとしたのか? 

 

第一に、日産の持つ高い技術力を評価した。しかし、EVへの転換にあたっては、純粋な技術力だけではなく、すでに述べたような社内構造の大改革が必要となる。こうしたリストラは、日本型の組織人にはできないと考えたのだろう。 

 

そして、自分が買収すればできると踏んだのだろう。 

 

実は、電器産業が、同じような事態を経験した。IT革命によって、世界的な水平分業化が進み、ビジネスモデルの大改革が求められたのだ。 

 

それに失敗して経営危機に陥っていたシャープは、2016年4月に、ホンファイに買収された。 

 

電器産業が没落した後、自動車は日本の製造業の最後の望みだった。それがいま、ついに「終わりの始まり」を迎えようとしているのではあるまいか? 

 

野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授) 

 

 

 
 

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