( 237769 )  2024/12/22 17:19:48  
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国民民主党は「手取りを増やす。

」というスローガンで共感を集め、躍進した。

2021年の「今年の漢字」は「金」で、物価高やお金の不足が身近な金回りの問題として浮かび上がった。

現代の生活や社会の変化を記録する作家、日野百草氏が、労働者や中小事業者が直面している生活不安についてレポートしている。

 

 

現役世代の手取りが減少し続ける現状や、厚生年金や年金などの社会保険料が増え続けている状況が語られている。

特に、所得税の「103万円の壁」や「106万円の壁」などの問題が取り上げられ、政府の対応や現役世代の苦境が指摘されている。

高齢者向けの年金と医療費の増額が続くなか、現役世代は疲弊しており、社会保障制度の見直しや現金給付といった対策が求められている。

 

 

中小企業や個人事業主も、厚生年金や社会保険料の負担が重く、現状に不満を持っていることが述べられている。

政府と経営者の意見の対立や、国民の生活向上に対する優先順位の低下が、現役世代への影響をもたらしていることが指摘されている。

(要約)

( 237771 )  2024/12/22 17:19:48  
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衆院選で国民民主党は「手取りを増やす。」というスローガンなどが共感を集め躍進した。9月、記者会見で次期衆院選の重点政策を発表する玉木雄一郎代表(時事通信フォト) 

 

 12月の風物詩として恒例となった「今年の漢字」は「金」と発表された。五輪イヤーだったので、普通ならば「金メダル」を多くの人が連想してもよさそうなものだが、2024年に限っては、物価高などで「お金がない」というような、身近な金回りのことを思い浮かべた人が多いのではないだろうか。いわゆる「103万円の壁」が撤廃されたとしても自公案は123万円で178万円を要求している国民民主と隔たりがある上に、先に実現しそうな106万円の壁撤廃で手取り増が帳消しになりそうないま、人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が労働者、中小事業者が直面する生活不安についてレポートする。 

 

 * * * 

「一般サラリーマンは何をしても手取りが減るのが現実なんじゃないですか。多少の昇給では減るいっぽうですよ」 

 

 都内の大手企業に勤める40代男性、共稼ぎの妻と子ども二人のいわゆる「パワーカップル」だが、使えるお金が減り続けていることを実感していると話す。 

 

「社会保険料に所得税、住民税だって馬鹿にならない。給与明細なんて見たくなくなる」 

 

 この国でずっと言われ続けている「手取り減」問題。筆者は2023年に『「使えるお金が減っている」昇給しても苦しい中間層世帯が生き残るために決断したこと』を書いたが、現在も多くの現役世代の「使えるお金」は減り続けるいっぽうだ。 

 

「夫婦二人でフルタイムでも、周りが思うよりずっと使えるお金は少ないです。たいした節税もできないまま、取られるばかりのサラリーマンはみなそうじゃないですか?」 

 

 国税庁の「民間給与実態統計調査」によると平均給与は2021年から微増だがそれも数%、これでは世界的な物価高に追いつかない。 

 

 さらに、この国ではそれ以上に現役世代が負担する社会保険料が上がり続けている。40歳を超えると介護保険料も徴収される。雇用保険料もコロナ禍による「雇用調整助成金」の財源枯渇の影響もあり引き上げとなった。 

 

 各業界の健康保険組合(総合健保)もまた瀕死の状態だ。とくに「2022年危機」と呼ばれた団塊世代の75歳到達によって財政悪化が急速に進んでいる。年収や加入健保にもよるが、その負担額がとんでもない数字になる人もいるだろう。 

 

 

 なにしろ現在の現役世代、健康保険と年金、介護を合わせた保険料率は30%に迫るとされ(健康保険組合連合会・2023年度)、とくに高齢者のための前期高齢者財政調整制度および後期高齢者医療制度など、現役世代が丸抱えしなければならなくなっている。 

 

〈高齢者医療を社会全体で支える観点に立って、75歳以上について現役世代からの支援金と公費で約9割 を賄うとともに、65歳~74歳について保険者間の財政調整を行う仕組みを設けている〉※厚生労働省 

 

 こうした高齢者医療への拠出金に耐えられず解散や合併する健保組合もあり、その減少数は2010年度から数えても100組合を超える。また大手企業の中には単一健康保険組合(単一健保)と呼ばれる自社とそのグループなどによる健保組合を運営している企業もあり、おおむね社員の負担は少ないとされるが、それすら赤字に転落、保険料率を上げないと維持できない状態の健保組合が多数である。こちらもOBの数が多すぎる、つまり高齢者、ということになる。 

 

「高齢者批判じゃなくて現実ですよ。他人のために、自分たちの使えるお金が減って構わない人なんていないでしょう」 

 

 国民健康保険はさらに厳しく滞納は約200万世帯にのぼる。調査による上下はあるが全世帯数の10%以上が完納できていない状況かつ国保のみは基本的に収入の少ない世帯も多いため一定収入以上ある現役世代に負担してもらうしかない。 

 

 国民年金の保険料も2024年度は1万6980円で前年度から460円の引き上げとなった。前年度までの2年間で90円引き下げられたとはいえ、それが帳消しのかたちとなった。 

 

 とにかく年金受給者が多すぎる。それはこれからも増え続け、現役世代は減り続ける。 

 

「いっそ積み立てにして欲しいですよ。私たちの世代なんていつもらえるか、支給70歳からとか、下手をすれば80歳とか、信用できません」 

 

 そうなるかどうかはともかく日本は賦課方式なので世代間扶養や所得の再分配的な性格を持つ公的年金だが、シンガポールなどは公的年金ではないが中央積立基金と呼ばれる社会保障貯蓄制度で積立方式が採用されている。新興小国だからこその制度で自助の性格が強い。少し乱暴なたとえだが、義務づけられた個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)のみを年金として積み立て、それを政府が管理するといったところか。 

 

 

 日本では現実的ではないが、こうした方式を望む現役世代は少なくないとされる。 

 

「私たちが高齢者になった時、現在の高齢者のような厚遇を受けられると思えないです。正直な気持ちです」 

 

 こうした意見は世代間対立を煽ると批判する向きもあるが、彼の言う通り現実問題として現在の高齢者と現役世代との逆格差もまた現実である。いわゆる「シルバー民主主義」は60代以上の年代別投票率が70%超えなのに対して40代が50%代、30代は40%代、20代に至っては30%代と選挙に行かない人のほうが多い(総務省)。当然、政治は高齢者に向けたものになる。 

 

 先の衆院選でこれまでにない現役世代による政治運動がSNSなどで活発になったのもこの危機感にある。それでも選挙に行かない現役世代のほうが多くても意識そのものは変りつつある。というか、本当に現役世代の引かれるお金が増え続け、使えるお金が減り続けている。それがずっと続いているからみんな怒っている。 

 

 いっぽう、中間層とされる年収460万円前後(国税庁民間給与実態統計調査・令和5年分)、とくに子育て世帯となるとさらに厳しさは増す。使えるお金の減る分は多くがパートで補っている。 

 

 北関東、パートの妻と未就学の子どもひとりの世帯を持つ40代中小企業勤務の男性が語る。 

 

「事情があるのでフルタイムで妻は働けません。子どもも小さいですし、女性の正規職も少ない土地です。だから103万円の壁引き上げには期待していますが、106万円の壁とかもでてきて何がなにやら」 

 

 散々メディアで説明されているが「103万円の壁」とは基礎控除と給与所得控除を合わせて103万円の年収を超えると所得税が発生するので働き控えをしてしまう、控えざるをえない、ゆえに178万円まで所得税の基礎控除などを引き上げて欲しいという訴えである。これを主張し続けた国民民主党躍進の一因ともなったが、蓋を開けてみれば政権与党である自公は財源を損なう恐れがあるとして所得税の控除額を現在の103万円から123万円にとどめる案を示した。 

 

 この税金「103万円の壁」の178万円引き上げで働ける時間が増え、実質的な減税にもつながると期待されたが自公は123万円を主張、それどころか社会保険「106万円の壁」のほうがあっさり撤廃になりそうな話になってしまった。 

 

「パートで厚生年金を払うって、手取りも減るってことですよね、どうしてこんなことに」 

 

 これまで厚生年金は「企業規模要件」の従業員51人以上、週20時間以上、月額8万8000円以上の年収換算「106万円以上」の賃金を受け取る労働者(学生除く)が対象だったが、今回の了承で賃金要件が撤廃されて週20時間以上働けば原則、厚生年金の加入対象者になる。個人事業所も5人以上いれば2029年を目処に加入対象とする方向で調整されている。 

 

 

 先の高齢者の著しい増加と現役世代の減少、そして将来的な年金問題への対応とされるが200万人が新たに扶養から外れるなどで厚生年金を払うことになり、やはり手取りは減ってしまう。先に「103万円の壁」を中心とした現役世代のための見直しありきのはずが「106万円の壁」のほうがあっさり撤廃の方向となってしまった。それどころか自公は「103万円の壁」引き上げについて178万円でなく123万円に抑えたいという。 

 

 高齢者の年金と医療は膨大で増え続けるばかり、誰でも彼でも給与から差っ引ける厚生年金できっちり徴収したい。自公の裏にある財務省および厚生労働省、一般国民を敵に回しても試験で受かっただけで選挙のない自分たちは怖くない、だから財源は減らしたくないということか。 

 

 これについては経営側も深刻だ。都内コンビニチェーンのフランチャイズオーナーが話す。 

 

「どれだけ猶予を貰えるかにもよるが、雇う数をさらに減らすか、それこそ週20時間以内で働いてくれる人やスポットで入ってくれる人を増やすしかない。言うほど簡単なことじゃない。中小零細の店舗はどこもそうだと思う」 

 

 それこそ働き控えを防ぐ方策が働き控えになる本末転倒な話になりかねないが、スキマバイト系はますます需要が増えそうだ。除外される学生アルバイトもさらに争奪戦となるだろう。厚労省は保険料の一部の肩代わりなどを検討中だが中小零細では厳しいことが予想される。この対策としての「キャリアアップ助成金」はすでにあるが受給要件の証明も難しく、助成金そのもののルールも複雑なため現状でも経営側の不満は大きい。 

 

 そもそも「失われた30年」いや40年近くなるとされる失政の尻拭いといった感のある「手取り減」そして「使えるお金が減っている」に対する「103万円の壁」、そしてやぶ蛇の「106万円の壁」問題。肝心の時給も物価上昇ほどには上がらず、「どうせ言っても文句だけ」と現役世代が打ち出の小槌になってしまっている。税金を国民から搾り取ることばかりに固執して国民生活の向上に対する優先順位を下げた結果が、この国の現役世代を苦しめている。「いくら取っても文句は言えないし隠せない」現役世代が打ち出の小槌になってしまっている。もう振ってもろくに出て来ないくらい疲弊しているというのに。 

 

 SNSを使った令和の一揆に大敗の自民党とその尻尾の公明党、にも関わらず「106万円の壁撤去」はすんなり了承で「103万円の壁」は「目指す」(だいたいこれに騙されてきた)であった。そして言葉通りに彼らは「123万円」で確かに「目指す」だけの姿勢であった。「誠意を見せたつもり」と自民党の宮沢洋一税制調査会長は発言したが、これは一般国民に対する煽りのつもりか。いよいよ次の選挙で自公政権が倒れかねないこと、それほどまでに現役世代の怒りを買っていることを彼らは理解しているのだろうか。 

 

 中間層の手取りはますます減り、会社に勤めているだけでは満足に使えるお金がなくなってゆく悪循環――令和の年貢は五公五民、実質的には六公四民とか言われているが「胡麻の油と現役世代は絞れば絞るほど出るものなり」も限界に思う。そもそも、そんな幕府は倒れたのだから。 

 

 日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。日本ペンクラブ広報委員会委員。 

 

  

 

 

 
 

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