( 237821 ) 2024/12/22 18:05:16 0 00 取材:KKT熊本県民テレビ
熊本県で子ども2人を育てていた女性どうしのカップルが今年、海外へ移り住んだ。移住先は女性のうち1人の母国であるカナダだ。
日本で子育てをしていたものの、同性婚の法律のない日本で2人は“ふうふ”として認められず、親子関係も保障されないからだ。家庭では笑顔が絶えず、子どもは2人の母親のことを「マミー」と「母さん」と呼ぶ。それでも4人は“家族”ではないのだろうか。「老後は大好きな日本で過ごしたい」。日本での同性婚の法制化を望む同性カップルの願いだ。(取材・文:KKT熊本県民テレビ 記者 藤木紫苑)
松本さんの両親と七五三参り
熊本県出身の松本くみさん(49)は、英語教師として熊本で働いていたカナダ人女性のノックさん(46)と出会い仲を深めた。人生のパートナーは“この人しかいない”と固く誓った2人は付き合って4年ほど経った2007年、同性婚が法制化(2005年に施行)されているノックさんの母国・カナダで結婚し、女性どうしの“ふうふ”となった。
しばらくカナダで暮らしたが、子どもを育てたいという気持ちがあった2人は、松本さんが精子提供を受けて出産をすることを選択した。自分の生まれ育った熊本で両親に近いところで子育てをしたいと願った松本さんは、帰国を決意。ノックさんも再び日本での仕事を得て家族そろって熊本に暮らすことになった。
カナダからオンラインでのインタビューを受ける松本くみさん
2011年に長男・りゅうさん(13)、2013年には長女・みかさん(11)が生まれた。松本さんの親族、近しい友人たちは、はじめは驚きやその選択に葛藤していたものの女性2人で子育てすることを受け入れてくれた。子どもたちはおじいちゃん、おばあちゃんにも愛情を受けながら素直に育っていった。しかし、子どもたちの就学時期になり松本さんは周囲にどのように説明していいのか悩んだという。
松本くみさん 「田舎だし、周りからは『偏見があるから言わない方がいいよ』と言われて。関係が近ければ近い人ほどみんな言いました。」
堂々と過ごしたいと日ごろから考えていただけに、親しい人たちからの反応に不安を覚えるようになった。次第に、「子どもがいじめられるんだったら、周りには言えない」と思うようになったという。同性間で子育てをしてはいけないと言われているように感じ、松本さんは、「その時が一番つらかった」と振り返る。
左ノックさん 右松本くみさん 長女・みかさんの小学校の入学式
その時期に松本さんを救った人がいた。松本さんがスタッフとして加わるLGBTQ+研修会で出会った熊本県内の小学校の校長を務める女性だった。松本さんは、「子どもがいじめられるかもしれないから、周囲に明かせない」と悩みを打ち明けた。すると校長は「子どもには絶対に隠し事をしたり、させたりしないでください」と言われたのだ。その言葉は松本さんにとって「目からウロコ」だった。
子どもたちには生まれてきたことに自信を持って生きてほしい。それ以降、松本さんは保育園や小学校の先生・保護者、そして自分の子どもたち自身にも真実を包み隠さず、丁寧に伝えていくようにした。
保護者参観やPTA活動にはノックさんと2人で参加し、“顔の見える関係”になれるよう心がけた。松本さんは「普通だったらしなくてもいい努力が多かったかもしれない」と、当時の子育ての緊張感を振り返るも、すべてが子どもたちのために過ごした「楽しい時間だった」と噛みしめるように明るく答えた。
長男・りゅうさんを抱くノックさんと松本くみさん
2人の努力の甲斐もあって、子どもたちは熊本でたくさんの友達ができた。しかし、松本さんの心の奥にはずっと不安が残っていた。ノックさんの在留資格の問題だ。
同性婚が認められているカナダでは法的な“ふうふ”として認められているため松本さんはカナダの永住権を得られ、子どもたちは血のつながりのないノックさんとも親子関係が認められている。しかし、同性婚に関する法律のない日本ではノックさんは、松本さんと子ども2人にとって他人なのだ。
松本くみさん 「もどかしかった。彼女は就業ビザで日本に滞在していたので、一定程度額以上の仕事を得てビザを更新し続けないと日本にいられないから」。
いつビザが切れてしまって子どもを残して一人で国外退去になるのか…。周囲にも認められ、笑顔の絶えない暮らしの中には、常に家族がバラバラになる日が来るのではないかという恐怖が頭から離れることはなかった。
松本さんは「安心して家族4人で一緒に暮らしたい」。そして「人種や性についても多様な人たちに出会う機会を持ってほしい」と考えた。そして長男のりゅうさんが中学校に進学するのを機に、2024年春からカナダに移住した。移住して12月で半年になるが、ノックさんとの関係が「法律で認められている」ことが日々の安心につながっていると感じている。
子どもたちは現地の学校にも慣れ、友達もできたようだ。カナダの学校は出身地もさまざまで、セクシュアリティについてオープンに話している生徒や、教師もいる。りゅうさんと長女のみかさんも、「うちにはお母さんが2人だよ」と伝えている。
カナダに移住してからの食卓の様子
りゅうさんと、みかさんは2人のことをそれぞれ「マミー」と「母さん」と呼んでいる。松本さんの「子どもたちに隠し事をしない」という考えもあり、子どもは普段から思ったことを率直に伝えてくるが、なかでも松本さんが印象に残る言葉がある。
松本くみさん 「『幸せ。生まれてよかったよ。ありがとう』と言ってくれます。例えば、ピザを作って、マミーが生地を作って、私がトッピングを作って。すごくおいしかったんですけど…。そんなときに『お母さん2人でよかった』と」。何よりうれしい言葉の反面、同性カップルにとってそれは当たり前ではないという日本の現状に違和感を抱いた。
同性婚の法制度のない日本では同性カップルの生殖補助医療に高いハードルがある。精子提供による人工授精などの生殖補助医療の法整備に向けて議員連盟での議論が進む中で今、対象が婚姻関係にある「夫婦」に限定され、同性カップルや単身の女性が対象から排除される可能性が出てきている。
松本くみさん 「お父さん、お父さん。お母さん、お母さんでもシングルでも、子どもを愛し、子どもが幸せに育つのであれば関係ないことだと思う。愛情が一番だから」
松本さんは、LGBTQ+の当事者であっても子育てをできる環境を日本で整えてほしいと訴える。
長女・みかさんが首相に書いた手紙
2023年に同性婚の法制化を求める団体が企画した、当事者の声を国会に届けるイベントがあった。みかさんは、岸田首相(当時)に宛てて手紙を書いた。
長女・みかさんが首相に宛てた手紙(一部抜粋) 「私は同性婚を認めてくれないから『お母さんたち結婚できてないじゃん』と言われたことがあります。ちょっとだけ泣きそうになりました。ただ性が同じだと結婚できないのでしょうか。学校の先生も近所の人も認めてます。認めてくれたらみんなにっこりしますよ!」
日本が大好きな家族4人
松本さんとノックさんは「老後は大好きな日本で暮らしたい」と考えている。ただ、日本で同性婚が認められなければ、ノックさんのビザの不安が残ったまま。「私たちが“ふうふ”じゃない、子どもたちと家族じゃない、というのなら私たちの人権をなんだと思っているだろう、と思います」。松本さんは、悔しさを滲ませる。
いつか大好きな日本で、家族みんなで心からの笑顔で過ごしたい。どんな人も愛する人とともに生きられる日本であってほしいと願いながら松本さん家族のカナダでの生活は続く。
KKT熊本県民テレビ報道部記者・藤木紫苑
「生まれてきてよかった」。子どもたちが日常的に発する言葉からは“望まれて生まれてきた”という自信や、法的に認められないというハードルを乗り超えて自分たちを育てている「マミー」と「母さん」への愛を感じる。もし、日本で同性婚が認められるならば、こうした幸せを築くことに躊躇せず踏み出せる人たちも増えるのだろうか。少なくとも、現状では日本が大好きなのに日本では生活することが選択できない人たちがいることを忘れてはならないと思う。
※この記事は、熊本県民テレビとYahoo!ニュースの共同連携企画です。
KKT熊本県民テレビ・藤木紫苑
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