( 237991 ) 2024/12/23 05:04:11 0 00 必要な電力をどう確保していくか。写真はイメージ(写真:rizal arifiyanto/Shutterstock.com)
政府の審議会で発電コストの試算が示された。メディアが報道しているが、どうもトンチンカンな記事が多い。資料をきちんと読めば、電気代を下げるためには、原子力と火力の活用しかなく、再エネの大量導入やアンモニア発電など、いま政府が「グリーントランスフォーメーション」で推進している「グリーン」電力は、ことごとく電気代の高騰につながることがよく分かる。
(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
■ 安価な火力発電の比率を下げることは正しいのか?
試算の概要は政府資料「基本政策分科会に対する発電コスト検証に関する報告」において、2つの図にまとめられている。
下図(本記事では「図1」とする)は、2040年に運転開始するという発電所を想定して、その発電コストを比較したものだ。
さて、いま一番安い発電方法は何だろうか?
図1で原子力を見ると、燃料費はキロワットアワーあたり1.9円となっている。止まっている原子力発電所を動かすのに必要な費用はほぼこれだけだ。新設ではなく、すでに建設済みの原子力発電を再稼働する場合は1.9円である。これは断然安い。
次いで、火力発電の利用である。現状で火力発電は合計で発電量の69.8%を占めるが、これを3~4割程度に下げるという方針が、第7次エネルギー基本計画(案)として審議会で示された。
だがこれは愚かしいことだ。
なぜなら、石炭火力発電の燃料費は4.2円に過ぎないからだ。つまり、既存の石炭火力発電所を維持し、利用し続けることが、既存原発の再稼働に次いで2番目に安い。
■ 火力は「CO2対策費用」なる“重税”で高コストに
もっとも、このキロワットアワーあたり4.2円という石炭火力発電所の燃料費は、図1には入っていない。同じ資料の78ページに出てくる数字だ。政府担当者が、安いことがバレるのを嫌がったのだろうか。姑息である。
石炭に次いで安いのがLNG火力である。LNG火力の燃料費は図1では8.1円となっている。だがこれはガス価格が高い場合で、資料の79ページを見ると6.0円という数字もある。この数字をベースにすると、既存のLNG火力発電所を維持し、利用し続けることが、6.0円で3番目に安い。
なお、上述したように資料78および79ページに出てくる、石炭で4.2円、LNGで6.0円という燃料費は、いずれも国際エネルギー機関(IEA)の「表明公約シナリオ」によるものだ。つまり既存の諸国政府が表明した公約に基づく予測である。仮に世界全体で2050年に本当に脱炭素するというなら、石炭価格もLNG価格も暴落するので、これよりもはるかに安くなる。
さて、2040年に運転開始するという発電所を想定した図1を見るとLNG火力も石炭火力もずいぶんとトータルのコストが高く見えるが、これにはトリックがある。
「CO2対策費用」なるものが大きく上乗せされている。これは、CO2に対して重税を課した場合のコストということだ。本当のコストはといえば、それを差し引いたものだから、LNG火力で言えば19.2円マイナス7.1円で12.1円である。燃料費が上述のように6.0円なら発電コストは10.0円まで下がる。
同じように計算すると、石炭火力の発電コストは8.7円となる。
つまり、2040年の新設発電所で一番安いものは図1には示されておらず、本当は石炭火力が8.7円で一番安い。そしてLNG火力は10.0円で二番目に安い。
図1の右側には、LNG火力以外に、水素だとか、アンモニアだとか、CCS付などがいくつも並んでいる。
だがこれらのうち、CO2排出を少なくする技術(図中の「CO2対策費」が少ないもの)の発電コストは、いずれも高い。水素発電はキロワットアワーあたり29.9円、アンモニア発電は23.1円、CCS付LNG火力は19.2円、CCS付石炭火力は27.6円などとなっている。
■ 不安定な太陽光や風力にかかるコストは軽視できない
付け加えると、これらのプラントは、まだ一度も建設されたことがないから、机上計算の段階である。実際に建設し運用すると、コストは膨らむのが普通だから、これでも楽観的な数字である。
太陽光発電や風力発電などはどうかと言えば、図1では太陽光発電は事業用が8.5円、家庭用が10.2円、風力発電は陸上で15.3円、洋上で14.8円となっていて、安いように見える。
ただし図1の数字には、太陽光発電と風力発電の出力が不安定であることは考慮されていない。
現在、日本の変動再エネ(太陽光発電と風力発電)の容量(キロワット)は、全電力の約3割である。発電量(キロワットアワー)で見れば約1割に過ぎないが、太陽任せ・風任せなので、容量(キロワット)はたくさん必要になるからだ。
そして、晴天時には一斉に発電するので、太陽光発電が過剰となり、出力抑制をするなどの事態が全国で起きている。そのため蓄電池を設置し、発電が過剰になった時には充電をするなどして対応しているが、蓄電池の費用はもちろん、充放電でロスが生じることでも費用が発生する。このようにして、発電コストは実際には高くなる。
変動再エネが不安定であることを考慮に入れ、それを電気として利用するために電力系統に統合する費用を考慮した発電コストが、今回は、次のように示された(本記事では「図2」とする)。
今回、政府が審議会で示したエネルギー基本計画案では、発電量での再エネ比率を4割程度から5割程度に上げるとしている。1割程度は既存の水力発電だから、残りの3割程度から4割程度は変動性再エネとなる。変動性再エネの発電量は全体の1割に過ぎない現状でも、容量は全体の3割もあるので、計画通りになると変動性再エネ電源の容量は電力全体の6割を超える。
すると図2を見るならばCケースに相当し、太陽光(事業用)はキロワットアワーあたり36.9円、陸上風力は25.2円、洋上風力は23.9円となる。
なお図2のタイトルに統合コスト「の一部」と書いてあるように、これでも送電線の建設などの費用がまだ算入されていないから、実際には洋上風力などの統合コストはもっと高くなる。
■ 中国は石炭、米国は天然ガスがなお主力
図2について補足すると、LNG火力発電のコストが高くなっているのは上述のように「CO2対策費」が含まれているためであり、本当のコストはもっと安い。
以上をまとめると、図3となる。これでも「グリーン」電力には相当に甘い数字だが、それでも、安い順番は(1)既存の原子力・火力発電所の活用、(2)原子力・火力発電所の新設、(3)再エネ、CCS、アンモニア発電などの「グリーン」電源、であることは明白だ。
海外に目を向ければ、中国は安価な石炭火力発電所が主力である。米国はこれまた安価な天然ガス火力発電が主力である。
これに対して、日本はバカ高い「グリーン」電源を「主力化する」というのが第7次エネルギー基本計画(案)で示された日本政府の方針だ。これでは産業は競争できず空洞化し、また国民はますます窮乏化する一方である。
杉山 大志
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