( 238006 ) 2024/12/23 05:15:02 0 00 「あと1点足りず不合格になった生徒」の将来はどうなるのか(イメージ)
まもなく迎える受験シーズン。受験を乗り越え合格の喜びにひたる人がいる一方で、志望校へわずかに手が届かず悔し涙を流す人もいるだろう。その“わずか”で人生はどれほど変わるのだろうか。新刊『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』(筑摩書房)で、小学生(高学年)や中学生でもわかるような書き方で経済合理性について解き明かした作家・橘玲氏が、学歴が人生に与える影響について解説する(同書より一部抜粋して再構成)。
* * * 資格をもつ医者がすべて名医というわけではありませんが、そもそも資格がないと医者の仕事ができません。一流大学の卒業生がすべて仕事ができるわけではありませんが、大学を出ていないと入社試験すら受けられない会社もあります。
もちろん、学歴がなくても、実績を積み上げることで大きな成功を手にしたひとはたくさんいます。それでも、みんなと同じスタートラインに立てないと、回り道をすることになることは覚えておきましょう。
だったら、人生は学歴で決まってしまうのでしょうか。そんなことはありません。小さな失敗では人生は変わらないからです。
このことは、次のような調査で確かめられました。
アメリカは日本よりもさらにきびしい学歴社会で、大卒と高卒の生涯の収入は2倍もちがいます(日本では、高卒の生涯収入は大卒の7割程度)。
アメリカでも日本でも、ランク(偏差値)の高い大学のほうが、平均すれば収入も高くなる傾向があります。でもこれだけでは、一流大学がよい教育をしているからなのか、もともと優秀な学生が集まっているだけなのかがわかりません。
どちらが正しいかを調べるには、学力が同じで、学校がちがう生徒を探してきて、その将来を比べてみればいいのです。
アメリカでは、一流の私立高校は試験の点数を公開しているので、合格点ぎりぎりで入学できた生徒と、1点差で合格できなかった生徒を比較することができます。試験での1点のちがいは、実力ではなく、運がよかったか、悪かったかでしょう。つまり、まったく同じ学力の生徒が、運によって一流の高校か、その下のランクの高校かに分かれたのです。
では、この生徒たちの将来はどうなったのでしょうか。結果は「なんのちがいもない」でした。
1点足りなくて合格できなかった生徒たちも、合格した生徒たちと同じように、一流大学に進学して有名企業に就職し、同じくらいの収入を得ていたのです。
アメリカでは、一流大学から入学の許可が出ても、自分が勉強したい教科がないとか、別の大学に憧れの教授がいるとか、たんに家から遠いなどの理由で、入学を断る生徒がかなりいます。
これを利用すると、「一流大学に入学した生徒」と、「一流大学に入学できるのに、別の大学を選んだ生徒」という、能力は同じで、別の道に進んだ若者の将来を比較できます。
するとやはり、この2つのグループになんのちがいもなかったのです。入学できる能力がありながら一流大学に進学しなかった生徒も、一流大学の卒業生と同じように有名企業に就職し、同じくらいの収入を得ていました。
なぜこのようなことになるかというと、アメリカでは(そして日本でも)、一般に思われているよりも、会社は社員の学歴を気にしていないからでしょう。
学歴だけは立派でも、ぜんぜん仕事ができない社員がいることは、誰でも知っています。
入社してしばらくたてば、「あいつは思ったより仕事ができる」とか、「エリートのくせにぜんぜん使えないな」という評判が、会社のなかでつくられていきます。学歴よりも、一緒に働いた上司や先輩、同僚からの評判のほうが、ずっと正確に人的資本を予測できます。
このようにして、受験のような人生における「小さな失敗」は、最終的にはなんの影響も与えなくなるのでしょう。
※橘玲・著『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』を元に一部抜粋して再構成
【プロフィール】 橘玲(たちばな・あきら)/作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーに。2006年『永遠の旅行者』(幻冬舎)が第19回山本周五郎賞候補。『言ってはいけない─残酷すぎる真実』(新潮新書)で2017新書大賞受賞。著書に『「読まなくてもいい本」の読書案内』(ちくま文庫)、『テクノ・リバタリアン─世界を変える唯一の思想』(文春新書)、『スピリチュアルズ─「わたし」の謎』(幻冬舎文庫)、『DD(どっちもどっち)論「解決できない問題」には理由がある』(集英社)等多数。
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