( 238219 )  2024/12/23 17:07:52  
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北陸新幹線の与党整備委員会が小浜・京都ルートの年内詳細ルート決定を断念した。

京都府市が地下水や環境への懸念を示したことが理由。

次のスケジュールは未定で、環境アセスメントを重視し、進捗を慎重に見守る必要があると指摘されている。

(要約)

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北陸新幹線(画像:写真AC) 

 

 北陸新幹線の与党整備委員会が小浜・京都ルートの年内詳細ルート決定を断念した。京都府市が地下水など環境への影響に懸念を示したためで、計画の行方が見通せなくなっている。 

 

「地下水への影響や残土処理などに対する地元の懸念が強いので、まずは不安解消を優先する。『急がば回れ』で懸念払しょくに努めたほうが、結果的に着工が早まる」 

 

北陸新幹線の与党整備委員会が開かれた12月20日、西田昌司委員長が会議終了後に国会内で記者会見し、目標としてきた小浜・京都ルートの年内詳細ルート決定を断念することを明らかにした。 

 

 与党整備委員会は年内に京都市内の駅設置候補3案を1案に絞り、2025年に環境アセスメント(開発プロジェクトや政策を実施する前に、その計画が自然環境や地域社会に与える影響を評価するプロセス)を済ませて年度末に当たる2026年3月ごろの着工を目指していた。 

 

 しかし、13日の会合で西脇隆俊京都府知事、松井孝治京都市長からトンネル工事の環境への影響や膨大になると予想される地元負担などで強い懸念を指摘された。 

 

北陸新幹線京都駅周辺のルート案(画像:国土交通省) 

 

 これを受け、この日の会合では京都市内3案のうち、下京区の京都駅地下に東西方向に設置する 

 

「東西案」 

 

を最も環境への懸念が強いとして外し、詳細ルート決定を年明けに先送りすることを決めた。国の2025年度当初予算への新規着工費計上も見送り、2025年度中の着工を断念している。今後は 

 

・京都駅地下に南北方向に設置する「南北案」 

・京都駅から西へ約5km離れた南区の桂川駅付近の地下に置く「桂川案」 

 

の二者択一となるが、西田委員長は新たな着工目標について 

 

「あえて目標は考えていない。できるだけ早く」 

 

と述べるにとどめた。ただ、 

 

・石川県で高まっている「米原ルート」 

・京都府議の一部から出ている「舞鶴ルート」 

 

への変更については 

 

「小浜・京都ルートに決定した際、比較検討した結果、速達性など利便性で小浜・京都ルートに劣ると判断した。与党が再検討する必要はない」 

 

とし、小浜・京都ルート推進の姿勢に変わりない考えをあらためて強調している。 

 

 整備委員会は地元への説明として、説明会などで科学的知見に基づいた資料に基づいて懸念解消に努めるとともに、動画などでわかりやすく事業内容を広報することも検討するという。 

 

 

京都盆地の地形図(画像:Batholith) 

 

 今後のスケジュールは地元への説明で京都府市の同意を得られると判断したあとで、詳細ルートを決定し、環境アセスメントの手続きを進めるとみられる。だが、環境アセスメントは準備書を作成した段階で京都府知事の意見が入る。 

 

「見切り発車」 

 

で強行などすれば、厳しい意見が出ることになりかねない。 

 

 個別の問題で京都府市の同意を得るのも難題だ。最たる問題が地下水への影響だろう。京都市がある京都盆地には琵琶湖の約8割に達する大量の水があることが、楠見晴重関西大元学長の調査でわかっている。推計された地下水量は200億t以上になる。 

 

 水の出口は府南部に位置する八幡市の男山と大山崎町の天王山の間だけ。京都盆地の地下が 

 

「巨大な水がめ」 

 

になっているわけだ。地下水は深い層と浅い層にわかれて北から南へ流れ、酒造で有名な京都市伏見区まで続く。この水が酒造だけでなく、 

 

・染色 

・京料理 

・茶道 

 

など京都を支えてきた産業、文化に利用されてきた。 

 

ヒ素の病理(画像:ボーケン品質評価機構) 

 

 京都市内を通るトンネル工事は、深さ40mより深い大深度地下でシールド工法を取る。鉄道建設・運輸施設整備支援機構が地下水への影響を解析したところ、地下水位低下が予測されなかった。京都市がシールド工法で整備した市営地下鉄東西線の二条駅(中京区)~太秦天神川駅(右京区)間も、周辺井戸への影響がほとんどなかったとしている。しかし、専門家のなかには 

 

「掘ってみないとわからない」 

 

と指摘する声がある。岡山大学の西垣誠名誉教授は2020年、地下水学会誌に寄稿した「トンネル施工における地下水環境保全」で過去に湧水流量が多いと予測され、ルート調整した事例があることを報告している。 

 

 シールド工法は基本的に水を通さない構造で、地下水への影響が小さいとされるが、懸念を解消する説明ができるのだろうか。説明の仕方によっては反対住民らの反発を招き、混乱を助長することも考えられる。 

 

 このほか、京都府環境影響評価専門委員の試算で少なく見積もって10tダンプ160万台の880万立方メートルとされる残土処理、南丹市など山岳トンネル区間約80kgの残土に含まれる 

 

「ヒ素」 

 

など、住民の不安をかき立てる問題が残る。 

 

 

京都仏教会のウェブサイト(画像:京都仏教会) 

 

 京都府内の反対の動きはさらに加速している。そのひとつが宗派を超えた京都府内約1100か寺が加盟し、地域に強い影響力を持つ京都仏教会の反対だ。小浜・京都ルートを 

 

「地下水脈の途絶などの問題を軽視している。自然を敬いながら共存すべきだという仏教の教えとかけ離れた『千年の愚行』だ」 

 

と批判し、西脇知事に計画再考を求める要望書を提出した。西脇知事は定例記者会見で 

 

「地下水をはじめとする施工上の課題に対し、きちんと検討を加えたうえで慎重な調査と丁寧な説明に努めてほしい」 

 

と述べた。京都市総合政策室は 

 

「松井市長が伝えた懸念に対し、どう対応するのか見ていきたい」 

 

としている。京都府議会は自民、公明、府民クラブの3会派が提出した国に説明責任を求める意見書を可決した。 

 

 京都府市や反対住民は国や整備委員会の動きを注視している。十分な説明責任を果たし、京都府市や反対住民を納得させられなければ、膠着状態が長期化しかねない。瀬戸際に立たされた国や整備委員会はどう出るのだろうか。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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