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千葉県佐倉市のユーカリが丘は、ユニークな開発戦略によりオールドタウン化を避け、持続的な成長を続けている。

デベロッパーの山万は売り切りではなく成長管理型のビジネスモデルを採用し、長期的な街づくりを実施している。

モノレールの導入や環境への配慮、老人養護施設のリニューアルなど、独自の取り組みを行っている。

こうした取り組みにより、多様な世代が楽しめる街となり、家族が戻ってくることも実現している。

(要約)

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千葉県佐倉市の「ユーカリが丘」を背に走る新交通システム(AGT)(写真:HiLens/イメージマート) 

 

 高度経済成長を背景に都市部郊外で開発されたニュータウン。開発から50年近くが経ち、ニュータウンのオールドタウン化が深刻な課題になっているケースも珍しくないようだ。そんな中、デベロッパーによる異例の戦略でいまも持続可能な成長を続けているニュータウンがあるという。30年以上にわたり業界に身を置く不動産のプロが、その成長の謎を読み解く。 

 

 ※本稿は『家が買えない』(牧野知弘著、ハヤカワ新書)より一部抜粋・再編集したものです。 

 

 (牧野 知弘:オラガ総研代表、不動産事業プロデューサー) 

 

■ なぜ「ユーカリが丘」はオールドタウン化しないのか?  

 

 本書で解説しているように、1970年代に建設された都市部郊外のニュータウンの多くは、一代限りの街となり活力を失っていく状況に陥っているが、なかには奇跡的に今でも成長を遂げている街もある。千葉県佐倉市にある「ユーカリが丘」だ。 

 

 ユーカリが丘住宅地は1971年に、デベロッパーの山万(やままん)によって開発が始められた。山万という会社は、大阪の繊維問屋から1964年に東京に本社を移転したあと、住宅開発分譲業に進出したという変わり種のデベロッパーだ。 

 

 山万が1979年から分譲をスタートさせたユーカリが丘は、その開発手法のユニークさにより、今に続く成功につながっている。多くの自治体や民間宅地開発業者は、開発して分譲したら終わりの「売り切り」型のビジネスモデルとなっているのに対し、山万は「成長管理」型とでも言うべきビジネスモデルを構築したのだ。 

 

■ 山万のユニークな開発戦略とは?  

 

 山万は一斉に開発を進めずに、常にその後の開発余地を残しておきながら、長期にわたって住宅を少しずつ開発・分譲してきた。新規住宅分譲は年間200戸程度に抑え、分譲地全体の年齢構成や街の発展の度合いに目を配りながら、街そのものの運営をしていくスタイルだ。 

 

 こうして毎年少しずつ、宅地分譲、戸建て分譲にマンション分譲を組み合わせて計画的に街づくりを進めてきた結果、この街の人口は年々増加し、今では人口1万8943人、8100世帯(2024年4月時点)を擁する一大タウンに成長している。分譲終了から数年が人口のピークで、以降は衰退の一途をたどる他のニュータウンとは異なり、ユーカリが丘は持続可能性を持つ驚異のニュータウンなのだ。 

 

■ 2016年にはイオンタウンが新たにオープン 

 

 分譲開始から40年近く経った2016年6月にイオンタウンが新たにオープンしていることも、この街の持続的な成長を示す証拠だ。年齢構成としても、エリア内の子ども(0歳から9歳)の人口が2011年に1298人だったところから、2020年には1808人と、なんと39%もの高い伸びを示しており、ここ数年の新規購入者のプロフィールを見ても、30代の若いファミリー層が中心になっている。 

 

 山万のすごさは、単に住宅を小出しに分譲しているだけではなく、街としてどういう機能が必要になるか、街の成長とともに考え、行政でなければできないような事業展開をしていることにある。エリア内に、総合子育て支援センター、保育所、老人保健施設、グループホーム、温浴施設、映画館、ホテルなどひとしきりそろえているが、それだけではない。 

 

 

■ 異例中の異例、運輸省が難色を示した 

 

 最寄りのユーカリが丘駅からは、京成電鉄を利用して東京都心まで50分ほどかかる。普通のデベロッパーが分譲していれば、その住民たちは市営のバスや乗用車などで駅にアクセスし、そこから電車通勤することになるが、山万は住宅エリア内を循環するモノレール(自動案内軌条式旅客輸送システム/AGT)「山万ユーカリが丘線」を自前で敷設し、駅から各住戸への利便性を向上させた。 

 

 デベロッパーがモノレールという鉄道を持つことは異例中の異例だ。敷設にあたっては当時の運輸省が難色を示したというが、82年の開業以来、人身事故もなく住民の足として定着している。 

 

 また、当初は佐倉市が市営バスを運行する意向を示したが、環境問題を理由に山万はこの申し出を断ったという。 

 

 そのうえでモノレールの補助交通機能として、早稲田大学や昭和飛行機工業などと共同で日本初の非接触充電型電気コミュニティバス「ここらら号」の運行も開始している(2020年より「こあらバス」に移行)。売り切り型の開発なら、そもそも交通網を整備することなど思いもつかないだろう。山万の街づくりにかける本気度がうかがえる。 

 

 山万の街づくりは環境への配慮を大きなテーマにしており、近年では街中に電気自動車やバイク用の給電スタンドを設置し、電気自動車のカーシェアリングにも早くから取り組んでいるほか、分譲する戸建て住宅に太陽光発電パネルを実装している。 

 

■ 一度は街を出た子が、家族を持って帰ってくる 

 

 老若男女みんなが楽しめる街にするのが彼らの目的だ。人生にはいろいろなステージがあって、そのステージごとに住みたい家、環境は変わってくるはずだ。こうしたニーズに対して山万は、「ハッピーサークルシステム」というシステムを採用する。 

 

 戸建て住宅からエリア内の老人養護施設に移り住む高齢者の家を買い取り、リニューアルしたうえで若い世代に再販売することで、街の中でライフサイクルが起こる仕組みだ。その結果、この街で育って社会人になり、一度は街を出た子どもたちが、家族を持って再び街に帰ってくるようになったという。世代をまたいで同じ街に暮らせるシステムを自ら築くのが、ユーカリが丘で山万が実施しているタウンマネジメントなのだ。 

 

 千葉県佐倉市と言えば、都心居住が進んだ結果、都内への通勤圏としては残念ながら、今では「限界立地」とも言えるところになっている。現に佐倉市自体はここ数年で人口が減少に向かう地区が増え始め、大規模金融緩和後、同じ千葉県内の市川市や流山市、船橋市などの地価が上昇基調を強めているなかでも地価動向はさえない。 

 

 だが、山万ではそんな状況を顧みず、人が暮らす住宅を単純な「資産価値」でとらえずに、住宅街としての「利用価値」「住み心地」を重視し、街の新陳代謝を自ら仕掛けることで持続可能性を追求している。 

 

 当初は、山万がこうした街づくりを行っていることを、多くのデベロッパーは批判的に見るか、「変わったことをやる会社」程度にしか評価していなかったという。 

 

 「トレンド」だとサステナビリティ(持続可能性)を今さら掲げる大手デベロッパーとは、そもそもの価値観からして異なることを強烈に体現している街づくりと言えるだろう。 

 

牧野 知弘 

 

 

 
 

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