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中国の中央経済工作会議が2024年12月11日から12日まで北京で開かれ、習近平国家主席が出席して重要演説を行った。

会議では金融政策の緩和や消費を重視した政策が発表され、住宅在庫のリノベーションなどの施策が取られた。

しかし、これらの経済対策の効果はまだ乏しく、中国政府は消費や内需を重視しつつも、社会経済の統制を優先している。

中国経済は不良債権や民間企業の自由な発想不足など、様々な課題に直面しており、楽観的な見方は早計とされている。

(要約)

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中国の中央経済工作会議が2024年12月11日から12日まで北京で開かれた。習近平共産党総書記・国家主席・中央軍事委主席が出席し、重要演説を行った。(2024年12月13日) - 写真=中国通信/時事通信フォト 

 

■ようやく中国政府が動いた 

 

 12月前半、中国本土と香港の株式市場で、中国政府の政策期待が高まり株価が反発する場面があった。政府と中央銀行(中国人民銀行)が、株価維持策(PKO、公的な資金による株価買い支え)を徹底する期待も株価上昇を後押しした。一方、中国の長期金利は低下し、人民元の対ドル為替レートの下落は一段と鮮明化した。 

 

 12月11日、12日に政府が開催した“中央経済工作会議”は、景気刺激のため金融政策を中立から緩和に転換した。これは14年ぶりの方針変更だ。今回の措置は、中国政府が景気悪化への危機感を鮮明化した証左ともいえる。 

 

 今回の中央経済工作会議はこれまでの生産拡充を重視する政策と違って、低迷が続く消費を重視した内容も発表した。ただ、今回の措置でも、中国経済の“ヒト、モノ、カネ”の再配分を促進し、新しい需要創出を促進する具体的な方策はあまり見られない。その点は、従来の政策と根本的な違いは大きくはないようだ。 

 

■在庫大量のマンションをリノベ→格安で販売 

 

 2025年1月以降、米国のトランプ次期政権は対中引き締め策を徹底するだろう。それは、中国経済にとってマイナスに作用するはずだ。中国経済が、すぐに自律的な回復に向かうことは難しいだろう。むしろ、中国政府の社会経済への統制の引き締めで、海外へ資金や人の流出が加速する恐れもあるとみられる。 

 

 9月下旬以降、中国政府は金融緩和、財政出動の拡大を矢継ぎ早に発表した。それに伴い、中国人民銀行は利下げや資金供給を拡大した。財政政策では、国債・地方債の発行を増やした。市中の金利を引き下げて、金融・財政を総動員して資金供給枠を拡大したのである。 

 

 その措置の主な狙いは不動産などの投資喚起だろう。地方政府は、過剰なマンションなどの在庫を買い入れ、リノベーションを行い低所得層に格安で販売する。それによって、政府は不動産分野の景況感改善を狙ったとみられる。 

 

 かつて不動産関連分野は、中国のGDP(国内総生産)の30%近くを占めた。不動産市況の悪化が止まれば、生産や投資は持ち直し雇用と所得の機会は増えると考えたのだろう。 

 

 

■経済対策の効果はまだ乏しい 

 

 中国人民銀行は、大手の国有銀行などに対して融資を増やすよう指示もした。地方政府のマンション在庫買い入れ資金増加、デベロッパーの資金繰りサポートなどを企図した。金融政策からは、本土株などの下落を食い止めるための措置(PKO)も打った。 

 

 しかし、12月前半までに発表した主要経済指標を見る限り、一連の経済対策の効果は必ずしも明確ではない。代表的なデータは消費者物価指数だ。11月、CPIは前年同月比0.2%上昇した。豚肉などが値上がりする一方、自動車などの耐久財の価格は依然として下落傾向だ。 

 

 2022年4月、上海ロックダウンをきっかけに、中国の消費者心理を表す消費者信頼感指数は停滞している。新築住宅価格は前年同月の水準を下回り続けている。改革開放以降、中国では、マイホームを手に入れたいと思う人が増えた。それによって、不動産バブルの膨張により過度な価格上昇期待も高まり、家計の貯蓄は不動産分野に流入した。 

 

■ゼロコロナ政策への不信感が尾を引いている 

 

 2020年8月以降、不動産バブルが崩壊し住宅価格の下落が鮮明になると、債務返済を急がざるを得ない家計は増えた。その後の強引なゼロコロナ政策は、政策不信感を高めたようだ。そうしたマイナスの影響がなかなか払拭できない。 

 

 中国政府は、若年層の失業者の増加を食い止めなければならない。中国政府が一党独裁の体制を維持するため、党指導部の政策運営が社会の安定・安心に重要であることを示す必要がある。 

 

 12月の中央経済工作会議からも、そうした意図は確認できる。そのために、政策の効果として資金供給を増やし投資をかさ上げし、大手国有企業を中心に生産能力を拡充しようとしている。政府は金融政策を14年ぶりに“適度に緩和的”とし、財政赤字の上振れも容認した。 

 

 9月の総合経済対策などと比較すると、消費を重視したとの見方はあるが、基本的には既存の生産体制を拡充し、経済全体を強力にする方針と考えられる。主な政策として、不動産分野で住宅在庫の買い入れ資金枠を拡大するとみられる。 

 

 

■対中関税を強める“トランプリスク”も 

 

 EVなど“新エネルギー車”の購入補助、減税、産業補助策などを延長・拡充する可能性も高い。今回、政府は人工知能(AI)など先端技術の実用化を重視する方針も示した。それは、生産年齢人口の減少への対応としても重要だ。 

 

 中央経済工作会議は、今後の米中対立などへの備えとして、消費などの内需を重視せざるを得なかった。トランプ氏は、中国に高関税を賦課する考えを示した。他の主要先進国と中国の貿易摩擦が激化する恐れもある。いずれも半導体など先端分野の製造技術が十分ではない中国にとって打撃だ。 

 

 中国政府は、そうしたショックを緩和する一方策として、消費喚起を示したと考えられる。ただ、政府関係者の発言を見る限り、投資牽引型から消費牽引型へ中国経済構造の転換を目指しているとは言いづらい。 

 

■日本のバブル崩壊以上の悲劇が起きる 

 

 金融と財政政策の緩和は資産価格の下支えに重要だ。リスク資産である株価の維持は、“理財商品”と呼ばれる高利回りの投資商品の破綻抑制や、銀行の新規融資実行のサポートにもなる。投資を積み増し、安価なモノ・サービスの供給を増やす。それにより消費を喚起し、5%前後の経済成長を実現するとしている。そうした政策は、来年以降の中国政府の基本的な経済運営指針と考えられる。 

 

 中央経済工作会議の結果から、中国は市場の価格発見機能より、政府による社会経済の統制を重視しているようだ。その発想で、世界第2位の経済規模の中国景気の本格的な回復を目指すことは難しいだろう。 

 

 1990年台初頭、わが国では不良債権問題が顕在化した。残念ながら、不良債権処理は遅れ、1997年、金融システム不安が発生し経済はデフレに陥った。市場の価格発見機能は停滞し、社会経済全体でリスクをとる心理は収縮した。それによって、企業は、人々の欲するモノやサービス(新しい需要)を生み出すことができなくなった。そのため、わが国の経済は長期の停滞に陥った。 

 

 中国経済は、わが国以上に厳しい状況に陥る可能性がある。このところ、中国はわが国の対中20%を上回るようなハイペースでわが国から工作機械を買い求めた。足許は10%前後かつ不安定だ。 

 

 

■民間企業の自由よりも社会統制を優先している 

 

 中国政府の産業政策などで、国内の工作機械メーカーの製造技術が高まっている可能性はある。ただ、先端半導体などの歩留まり向上の遅れなど、今のところ、中国の製造技術は十分ではないとみられる。 

 

 人工知能の実用化などを目指す中国にとって、依然としてわが国の技術力は必要だろう。わが国の中国向け工作機械受注の伸び悩みは、中国企業経営者のマインド悪化を示唆する。過剰生産能力問題、デフレ懸念の高まり、米国の関税や対中強硬策への不安もあり、投資よりコストカットを優先する企業は増加傾向とみられる。そうした状況は社会心理を悪化させ、不動産価格の下落もあり個人消費の回復が遅れている。 

 

 中国経済の本格的な回復には、需要不足の克服が欠かせない。そのためには、個人や企業経営者の自由な発想が重要だ。しかし、中国政府には、民間企業の自由な発想を促す意図はあまり見られない。むしろ、社会統制への意図が強いようだ。 

 

 そうした状況を考えると、2025年の年初以降も、景気の長期停滞懸念は高まり戸籍制度に紐づいた社会保障制度の懸念が高まる恐れもある。政策期待への過剰な期待は禁物だろう。中国経済の先行きを楽観するのは早計とみる。 

 

 

 

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真壁 昭夫(まかべ・あきお) 

多摩大学特別招聘教授 

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。 

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多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫 

 

 

 
 

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