( 238834 )  2024/12/24 18:14:48  
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アメリカのバイデン大統領は日本製鉄によるUSスチール買収に反対しており、この件について政治的な意見が分かれています。

日本のメディアは買収阻止を懸念する声が多く、一方で日本政府は海外からの投資を促進する方針を取っており、企業買収に関する方針を変えてきています。

将来の日本企業の買収提案として、テスラによるトヨタの買収があり得るとの意見もあります。

(要約)

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テスラが「トヨタ」を狙っている…? photo by gettyimages 

 

日本製鉄によるUSスチール買収についてアメリカのバイデン大統領は、公式に反対の意見を表明しています。 

 

この買収、もともとはUSスチールの方から言い出したもので、日本製鉄の技術力を移管することで競争力が高まり業績が回復することを狙ったものでした。 

 

この買収がうまくいかなかった場合は、USスチールは製鉄所の閉鎖と従業員のリストラを計画しています。買収が成立したほうが当事者にとっては良い結果になるのですが、それを政治が反対するのには理由があります。 

 

USスチールのライバル企業がペンシルバニア州にあって、この企業がUSスチールの競争力が向上すると業績が悪化することを懸念しているのです。そしてペンシルバニア州が大統領選挙の激戦州であったことから民主党・共和党両党ともUSスチールの買収に反対していたのです。USスチールの買収に反対したのはトランプ大統領の方が先でした。 

 

さて、読者の皆さんはこのアメリカ政府による買収阻止に賛成ですか? 

 

それとも反対ですか? 

 

日本のメディアの報道のトーンは、買収阻止を懸念するものが多いように感じます。フェアなビジネス慣行を重視するのであれば、日本製鉄の買収は認められるべきだという意見が多数派に感じられるのです。 

 

日本政府はここ十年ほどの間に企業買収に関する方針を大きく変えてきました。 

 

海外からの投資を促進することが目的です。日本の大企業に対してはまず株式の持ち合いを解消し、つぎにガバナンスの改革を進めました。海外の投資家の意見が経営に反映されやすくなる土壌を整えてきたのです。 

 

そして近年は日本企業の買収についてもフェアである方向に方針が修正されています。象徴的な話として海外からの投資のガイドラインでは「敵対的買収」という言葉が使われないようになりました。 

 

これに関連する具体例が、カナダのアリマンタシュオン・クシュタール社によるセブン&アイの買収提案です。 

 

以前であれば敵対的買収提案とでも呼ぶべきものではありますが、新しいガイドラインの下、セブン&アイでは経営陣が頭から買収提案を否定するのではなく、独立した社外取締役のグループによってこの提案を検討するようなプロセスが実行されています。 

 

 

豊田章男は、もしテスラから買収提案をうけたら防げるだろうか?Photo/gettyimages 

 

さて、これまでの歴史の中で日本の大企業が買収されるのは、ほぼほぼ経営がうまくいかずに海外企業に再建をお願いしなければならなくなるようなケースが主流でした。 

 

1999年に日産がルノーの傘下に入ったのは、日本の経済史に残る大事件でした。その後、シャープに東芝といった具合で、日本の有名企業が外資へと変わっていくのですが、きっかけはどれも経営不振でした。 

 

ところが現在では、海外の投資家による日本の優良企業をターゲットにしたいわゆる敵対的買収が起きやすくなっています。円安が進行していることに加えて、株価が欧米企業と比べれば相対的に低いのです。その状況で先述したように海外投資家が投資をしやすいように制度を改革してきたのですから、これから先、セブン&アイ以外の日本企業においても望まない買収提案が発表されるケースは増加するでしょう。 

 

これから起きるかもしれない最も驚くべきケースとして、どのような買収提案が考えられるでしょうか? 私は2025年に現実的に起きる可能性があると想定されるケースの中では、テスラによるトヨタの買収提案があるかもしれないと考えています。 

 

突拍子もない話に聞こえるでしょうか? 

 

テスラから見れば、2025年に世界のビッグ5の一角を買収するのは戦略的には理にかなっています。トヨタ、GM、フォード、VW、ステランティスのどれかを買収して子会社するという考え方です。 

 

理由は3つあります。まず時価総額の差が大きくなったこと。テスラの時価総額は直近で約230兆円で、時価総額42兆円のトヨタを買収することなど容易い規模の差があります。 

 

2つめに、買収が成立すればテスラが自動車業界の中で一気に生産量トップになれます。直近ではビッグ5は年間1000万台前後の生産力および販売力を持っている一方で、テスラの年間販売台数はここ2年連続で180万台程度と伸びが止まっています。 

 

買収はその格差を一気に超える手段になります。 

 

そして3つめの理由は、買収によりマルチパスウェイが手に入ります。脱炭素時代の主力がEVに移行すればテスラにとってはベストですが、そうではなくプラグインハイブリッドが主流になる可能性がありますし、2030年代には水素という可能性も考える必要があります。その過渡期にはHVも必要だと考えると、安価な買収でそのすべてが手に入るという可能性はテスラにとっては魅力的でしょう。 

 

さて、そのようなことを想定しながら頭の中で次のようなシミュレーションを考えてみてください。 

 

 

トランプ次期大統領は、イーロン・マスクを「政府効率化省」のトップに起用するという Photo/gettyimages 

 

2025年の年初、トランプ新大統領が誕生してまもなく石破首相との間の会談で日本製鉄の問題が話題になったとしましょう。 

 

日本からはこの投資の意義を説明したうえで、日米が同盟国であることを前提に両国は国益を超えて協力すべきだし、過度に自由経済の原則に介入しないほうがいいとアピールするとします。 

 

そこでサプライズな対応があります。 

 

トランプ大統領は日本の主張に大きくうなずき、同盟国同士は買収に政治介入をしない原則を私も確認したと言い出し、バイデン前大統領が決めた日本製鉄阻止に関する決定をすべて無効にすると約束してくれるのです。 

 

日本政府の代表団はきょとんとしながら、日本製鉄のUSスチール買収が前進したことに安堵を覚えるでしょう。一方でホワイトハウスではトランプ大統領の腹心となったイーロン・マスクが笑みを浮かべているかもしれません。 

 

「これで日本政府は逆のケースを拒否できなくなった」と……。 

 

果たして、テスラがトヨタを狙った場合、本当に買収されてしまうのでしょうか。 

 

シミュレーションのつづきは、後編『テスラが「トヨタを買収しよう」と言ったとき、イーロン・マスクとトランプを日本政府は本当に止められるのだろうか…?』でじっくりとお伝えします。 

 

鈴木 貴博(経営戦略コンサルタント) 

 

 

 
 

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