( 239779 )  2024/12/26 16:14:45  
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政治ジャーナリストの青山和弘が、政界や専門家を招いて行う「政治の見方」で、石破内閣の官房長官を務める林芳正氏を迎えて、「税の議論」について取り上げた。

基礎控除の引き上げや暫定税率廃止など、税制改革に関する議論が行われている中で、林氏は最低賃金の上昇分や将来の財政赤字への対策などについて言及し、各党の交渉や議論の重要性を強調した。

(要約)

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世間で注目を集めている「税の議論」について、林芳正氏に考えを聞いた 

 

政治ジャーナリストの青山和弘が政党や各界の論客をゲストに招き、日本の政治を深掘りする「青山和弘の政治の見方」。今回はゲストに石破内閣の官房長官を務める林芳正・衆議院議員を迎え、国民が注目する「税の議論」について直撃した。 

※記事の内容は東洋経済の解説動画シリーズ「青山和弘の政治の見方」の下記の動画から前編の一部を抜粋したものです。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。 

 

■基礎控除とはいったい何か 

 

 青山和弘(以下、青山):まずは総選挙後の政権運営について伺います。大きな焦点だったのは、補正予算を成立させることでした。国民民主党の賛成を得るために「103万円の壁」の見直しが行われ、税制調査会で123万円まで引き上げることになりました。もともと税調のインナーで、税についても詳しい林さんとしては、この結果をどう受け止めていますか?  

 

 林芳正(以下、林):基礎控除とはいったい何か。それは、こういうものは生活に最低限必要だから、その分は所得から差し引きましょうというものです。今般の与党の大綱の考え方は、デフレの間は物価がそんなに上がっていなかったけど状況が変わり、ちゃんと計算をすると今回上げた分くらいは調整が必要だろうと、自公の間で合意できた結果だと思います。 

 

 青山:一方で国民民主党の主張は、物価上昇分ではなく最低賃金の上昇分に合わせて178万円まで上げるべきだ、というものです。この考えをどう評価していますか?  

 

 林:なぜ最低賃金でスライドさせるべきなのか、私自身が説明を直接聞いたわけではないのですが、税調のころの私の理解でいえば、基礎控除の性格からして、物価上昇分に合わせてスライドさせるというのが中心になる考え方ではないかと思います。 

 

■来年度予算の可決という「次の山」に向けて 

 

 青山:国民民主党の考え方は、基礎控除は憲法で保障されている「最低限の生活」を営むためのものということで、金額が決められていると。そもそも103万円も当時の最低賃金の額から算出された数字なので、最低賃金が上がった分控除の額も上げていくのが筋だろうと。 

 

 林:そうですね。実は過去に基礎控除の額を動かしたことがありますが、その際は物価を基準にして行っています。だから、それにならってやっていくというのが今回の与党の考え方だと理解しています。 

 

 

 青山:今後も協議を継続するということで、おそらく次の山は来年度予算の衆議院での可決というタイミングになってくると思います。 

 

 林:基礎控除と給与所得控除については今お話ししたとおりですが、一方でアルバイトをしている大学生のお子さんがいらっしゃる場合。現行ではお子さんの所得が103万円を超えると親の控除がなくなってしまいますが、これを150万円まで引き上げることなどについては国民民主党を含めた3党で合意ができています。 

 

 残りの部分についても、幹事長間で引き続き協議することになっています。 

 

 青山:官房長官という立場でお話しいただくのはなかなか難しいかもしれませんが、本予算について国民民主党に賛成してもらうには、交渉の中でお互いの妥協点を見つけなければなりません。となると、123万円からさらに上げていく必要もあると思います。 

 

 1つの考え方として、物価のスライドでもいわゆる消費者物価ではなく、生活必需品に絞った物価はさらに上がっているので、そちらを採用して123万円よりもう少し上げる、という考え方もできると思うのですが、そういう交渉はありうるでしょうか。 

 

 林:今から交渉が継続していくということですから、当然あらゆる角度からの交渉を3党間で行っていくのだろうと思います。 

 

■税収が落ちる分はどうするのか 

 

 青山:一方で、ガソリン税の暫定税率廃止についても幹事長間で合意しています。これも年間の税収が1.5兆円と、かなり大きいものです。暫定の名のもと50年続いてきてた税率ですが、林さんとしても、そろそろ撤廃もありかなとお考えですか?  

 

 林:これは毎年の予算で補助金を出すというのとはちょっと違い、今まで暫定税率に応じてずっと歳入があったものであるわけです。暫定税率をなくせば、これが入ってこなくなる。財政赤字を減らして健全化していこうという大きな流れがある中で、毎年の税収が落ちるならその分をどうするのかという議論は必要で、税調でもつねに行ってきました。 

 

 

 暫定税率が最初にできたとき、もともとは道路向けの特定財源でした。それを一般財源化するとき、実は谷垣(禎一)さんが税調の座長で、私が事務局長で、かなり苦労しながら進めたのを覚えています。 

 

 今まで使い道がカチッと決まっていたものを一般財源化したのですが、道路の需要がその分なくなったわけではありません。今回もそういうところをどうするのか、考えながら議論されるべきだろうと思います。 

 

 青山:今でも貴重な財源の1つだと。 

 

 林:そうですね。このお金はもう要らなくなった、という税は、たぶんないでしょう。毎年財政赤字で、毎年国債を発行して予算が編成されているので、これは結局将来世代の負担になっていく。その財政の再建にずっと取り組んできて、なんとか来年プライマリーバランスが黒字になるかもしれないというところまで、長い道のりで来ました。 

 

 財政黒字でお金が余っているからこれくらいのマイナスは問題ないよね、という状況では、決してない。これは根底に据えて議論しなければならないことだと思っています。 

 

■「有事」を想定した余力も必要 

 

 青山:国民民主党などは「今はデフレからの脱却のときだから、今こそ減税で国民生活に対する補填をして、景気を刺激するべきだ」といった主張をしています。この訴えには、林さんも賛同されますか?  

 

 林:今も将来も、デフレからの脱却はとても大事なテーマですし、われわれもずっと取り組んできています。ただ一方で、財政の話はつねに考えていかないと、例えばコロナ禍のような「有事」のときに、しっかりとした対策をするのにはお金が要ります。 

 

 能登半島地震含め、災害も頻発しています。そうすると、財政の余力というのはあったほうがいいと、私は思います。そういう議論は予算委員会でも、国民民主党はもちろん、各党でされています。補正予算に関しても「なぜこんなに大きな予算にするんだ」と指摘されるくらいです。 

 

 この点は各党でコンセンサスがあると思いますし、総論はみんな賛成なんですよ。一方で各党、「自分たちとしてはこれをやりたい」というものに関しては、何としてもやらなきゃいけないとなる。これをどう調整するかが、まさに税調で議論してきたことです。 

 

 各党「これが必要だ」と、それぞれおっしゃる。でも全部足して大赤字、というわけにはいかない。財政についてはつねに考える必要があります。 

 

 アメリカが財政再建をやろうとしたときに、「Pay-as-you-go原則」(新規の施策や制度変更で経費を増やしたり減税を行ったりする場合、ほかの経費の削減や増税などの措置をセットで行わなければならないとする制度)が掲げられました。われわれもつねにそういうことを頭に置いておかなければならないと思います。 

 

青山 和弘 :政治ジャーナリスト、青山学院大学客員研究員 

 

 

 
 

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