( 239866 ) 2024/12/26 17:56:52 0 00 昨今のサウナは、消費者を楽しませるというプロ意識のもとで、娯楽性・エンタメ性が真面目に追求された場所になった。公共の浴場である銭湯に付随した場所だった時代を経て、もはや単体で成り立つ空間に変わったのだ(写真:maroke/PIXTA)
デフレが終わり、あらゆるものが高くなっていく東京。企業は訪日客に目を向け、金のない日本人は“静かに排除”されつつある。この狂った街を、我々はどう生き抜けばいいのか? 新著『ニセコ化するニッポン』が話題を集める、“今一番、東京に詳しい”気鋭の都市ジャーナリストによる短期集中連載。
ひところ、「サウナブーム」なる言葉が各種メディアをにぎわせた。
きっかけは2019年にテレビ放送された「サ道」の影響。このドラマの人気を背景に、都市部を中心にサウナの数が爆増し、「サウナ→水風呂→外気浴」の、いわゆる「ととのう」プロセスが一般に浸透した。
実際、この「温冷浴(「ととのう」プロセスのこと)」を知っている人の数は、2018年で50.3%だったのに対し、2023年には79.5%と大幅に上昇。月に4回以上サウナに行く人は、2023年で推定で約219万人にのぼる(日本サウナ総研のデータによる)。
その人気はコロナ禍で一度低迷したものの、じわじわと復調傾向を見せており、2026年にはコロナ禍前と同レベルの水準までに業界が復活するのではないか、という予測がある。
いずれにしても、サウナがアツい業界であることは間違いない。
しかし、私が気になっているのは、こうして沸騰するサウナ業界の裏側で進む「ある変化」である。それが、ひっそりとした「高齢者の排除」だ。
■高温・低温の「二極化」が高齢者を排除?
そう考えるようになったのは、サウナーである私の担当編集が述べていた実体験からである。
「私が通っていた都内某所のある銭湯は、もともと地域住民に愛される老舗の銭湯でした。ところが、以前からのサウナ人気でサウナ待ちの列ができるようになり、その後、大規模な改装がありました。
すると、6人しか入れなかったサ室が20人弱入れるようになり、20分に一度オートロウリュがされる熱々の空間に。水風呂もチラーが効いてキンキンになり、休憩室には常に扇風機が回っている……という、『ととのう』ための場所になったんです。
その結果、若いサウナーと外国人が訪れる場所になって、昼から夜まで満員になっていて、オリジナルのTシャツとかも売って経営的には儲かってそうなのですが、地域のお年寄りがすっかりいなくなってしまったんです。
ゆっくりできる雰囲気じゃなくなってしまったし、あの熱々のサウナ、キンキンの水風呂は、サウナ好きであってもお年寄りにはキツいですよね」
■日本で進む「ととのい至上主義」
2019年のブーム以後、特にフィンランド式の本格的なサウナが増えた。温めた石の上に水をかけてサウナ内の温度を上昇させる「ロウリュ」や、そこで生まれた熱波をタオルなどであおいで循環させる「アウフグース」がサウナにおいて一般的になってきたのだ。
「ととのう」ためにさまざまな工夫を凝らす、いわば「ととのい至上主義」が本格的に構築されてくる。
中でも、一部のサウナーから支持されているのが「できるだけ高温のサウナに耐えて、できるだけ低温の水風呂に耐えるほど気持ちいい」という考え方だ。
実際、サウナ検索サイトである「サウナイキタイ」で調べると、一般に「高温サウナ」といわれる100度以上のサウナを有する施設は2120件あって、全体掲載数1万4089件のうち15%を占めている。
ちなみにサウナの発祥国であるフィンランドでのサウナの温度は70~80度で、サウナ文化研究家のこばやしあやなによれば、日本のサウナを目の当たりにしたフィンランド人は「サウナ室が高温低湿すぎて、ロウリュ本来の心地よさが楽しめない」と困惑するという((誤解だらけ? 「フィンランド式サウナ」意外な真実/東洋経済オンライン・2023年5月31日)。
担当編集行きつけのサウナで起こった変化も、まさに「高温・低温二極化減少によるととのい至上主義」の最たる例だろう。
しかし、その結果として「地域のお年寄り」がいなくなった。実際、極端な温度変化がある昨今のサウナは、高齢者にとっては体の心配が必然的に出てくる。
最近話題の「ヒートショック」の危険性も上がる……かは、その人のサウナの利用スタイルにもよるだろうが、安全に配慮して入っても、肌は痛くなるだろう。
地域の高齢者が集い、なんとなく時を過ごす場所であったサウナは、その本格化に伴ってひっそりと高齢者を「排除」し始めたのである。
こうした変化は、「サウナー」に向けた「選択と集中」の結果だろう。
サウナは、なんとなく行く場所ではなく、「目的」を持って行く人のための場所になった。温浴専門コンサルタントの望月義尚は「昔のサウナーはマッサージ、アカスリ、ビール、寝る……そういうことも含めて施設全体に目的がありました。一方で、今のサウナーはサウナ・水風呂・外気浴という『サウナ体験そのもの』に非常に特化した目的があります」と述べている。
そんな「選択と集中」が別の形で現れているのが、サウナの料金だ。
特にサウナを楽しむために作られたサウナ専門店では、その値段が3000円前後のことも多く、ふらりと行く値段ではなくなってきている。
例えば、サウナーの聖地ともいわれる池袋の「かるまる」は通常料金が3480円。赤坂の「サウナ東京」は土日の場合、1時間で2400円、2時間だと3100円だ(平日はそれぞれ500円ずつ安い)。
また、コロナ禍以後流行り始めている「個室サウナ」については、より値段が高く、その先駆けともいえる「ソロサウナtune」は1時間4000円、ラグジュアリーサウナの「KUDOCHI」は1室1時間6000円である。
施設料金だけでなく、それに伴う出費も増えているらしい。
サウナ王としても知られる温浴コンサルタントの太田広はインタビューの中で「実際にサウナ客は、お風呂目的の人と比べて3倍近くお金を使う傾向があります」と、新R25のインタビューで述べている(「『こうやってハマってもらうんです』温浴業界最強コンサルタントが明かす“儲かるサウナのウラ側”」/2018年11月3日)。
サウナによって交感神経が活発になり、食べ物や飲み物への渇望が生まれるから、そうした需要が生まれるらしいのだ。
知らず知らずのうちに、生物レベルでお金を使ってしまう……と聞くと、サウナに疎い人からすれば、「怖い」という感想も出るかもしれない。
■すでに「価格が安くなれば行きたい」層も出現?
いずれにしても、サウナの料金は上昇しつつある。こうした流れによってサウナは、そうした価格に耐えられる人、あるいは「その価格でも行こう」と思う人にのみ向けられた施設になっている。
実際、サウナ実態調査での「どうすればサウナに行きたいか」という質問では、非サウナーの23%が「金銭的余裕があれば行きたい」「価格が安くなれば行きたい」と「価格」を理由にサウナに行っていないことが明らかになっている。
現状では、こうした「価格設定」がコアな客層の選択を果たしているのだ。
そうして、サウナには「ある程度お金を持っている若い人」がたくさん集まることになる。担当編集が行く銭湯のように、昼から夜までサウナで激混み、なんてことも出てくる。そうして若い人が集まれば、さらに高齢者も減ってくるだろう。
■テーマパーク化するサウナのスゴさ
こうした流れを見ていて思うのは、サウナの「テーマパーク化」だ。
若いサウナーたちを徹底的に満足させる環境が生み出され、サウナが変化してきている。もちろん、私はこの流れを否定しているわけではない。というか、その進化はすごいことになっている。
例えば、先ほども紹介したが、赤坂にある「サウナ東京」はすごい。メインとなる「蒸喜乱舞」では、自動制御システムにより、サウンド、照明、オートロウリュがもっとも効果的な形で制御されている。
さらにもう一つの「手酌蒸気」というサウナは、本場フィンランドから取り寄せられたケロという木材がふんだんに使用され、ロウリュは自分の手で石に水をかけるフィンランド式。まるでフィンランドにやってきたかのよう。
サウナから出ると待っているのは、畳敷きのベッドのようなものが並ぶ休憩スペース。サウナーの血液ともいえるオロポ(オロナミンCとポカリスエットを混ぜたドリンク)はもちろん、オロカル(オロナミンCとカルピスを合わせたドリンク)や、フィンランドのサウナアルコールドリンク「ロンケロ」を和風アレンジした「和ロンケロ」など、サウナーのためのメニューが揃う。
また、温浴コンサルタントの太田広は、自身がコンサルタントする温浴施設のサウナにおいて、0.1度単位でサウナの温度を調節していると述べ、「『サウナ』『水風呂』『不感温度バイブラ』の絶妙な温度調整、そしてサウナを出たあとの「食事」で利用客がハマる流れを完璧につくっている施設は、客が離れません」と、前出のインタビューで語っている。
ディズニーランドが完璧な環境構築で夢の世界を演出しているのと同じように、サウナーたちは、知らず知らずのうちに彼らがもっとも満足する環境を与えられ、ハマっていく。昨今のサウナは、消費者を楽しませるというプロ意識のもとで、娯楽性・エンタメ性が真面目に追求された場所になった。これが、私がサウナがテーマパーク化していると述べる理由である。
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