( 240654 )  2024/12/28 06:26:07  
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FRBが利下げを行い、米国の金利の動向が円安に影響を与えることについて、アナリストの窪園博俊氏が解説した。

米国ではインフレが起き、FRBが積極的な利上げを行っていたが、インフレが落ち着いたため利下げに転じた。

日本では米国の金利の動向が円安に繋がり、企業や家計に好影響をもたらすが、トランプ政権の政策によって再び問題が生じる可能性もある。

円安は過去には日本経済に利益をもたらしたが、製造業の海外移転や輸入品の高騰によってその効果が薄れている。

円高になれば生活コストが軽減され、住宅ローンなどにも好影響がある。

ただし、トランプ政権の政策がインフレを再燃させた場合、FRBの利下げが限定的になり、円安の修正も制限される可能性がある。

(要約)

( 240656 )  2024/12/28 06:26:07  
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写真:アフロ 

 

米国の中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)は9月に利下げ路線に転換、11月、12月にも追加で利下げが行われました。この影響で円安が修正されて、日本の物価高が緩和されると期待されています。ただ、年明けに発足するトランプ政権の対応次第では、日本は再び物価高の苦境に追い込まれる可能性があり注意が必要でしょう。なぜ海を隔てた米国の金利が日本の物価に影響を与えるのか、米金利はトランプ政権でどうなるのか、世界経済に詳しい時事通信社解説委員の窪園博俊氏に解説してもらいました。 

 

 米国の中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)が利下げ路線に転じました。米国ではコロナ禍から抜け出す際、かなり激しいインフレが起きました。これを抑制するため、FRBは積極的な利上げを行いました。そして、やっとインフレが落ち着き、利下げできる環境になりました。 

 

【図解】米国の政策金利の推移 

 

 少し詳しくコロナ前後の米経済・物価と金融政策の対応を解説します。2020年にコロナ禍が始まり、その翌21年から米国の経済は回復基調となりました。このときに世界的な需要の回復から原油相場が上昇。さらに22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻で原油価格の上昇に弾みがつきました。日本も原油高で物価が上がりましたが、脱コロナの早かった米国は先行して物価が高騰しました。こうして発生したインフレを抑えるのは中央銀行の重要な仕事です。FRBはインフレ抑制のため、積極的な利上げを実行し、米国の政策金利は急速に上昇しました。 

 

 コロナ禍に見舞われた際、FRBは打撃を受けた経済を支えるために政策金利をゼロ%近くまで下げました。しかし、前述のように一気に進行したインフレに対応するため、22年に大幅に政策金利を引き上げました。政策金利は23年に5.25~5.50%のピークに達し、その状態でインフレの沈静化を見守りました。インフレは(日本も同様ですが)消費者物価指数で測ります。FRBは目標とする消費者物価指数の前年同期比上昇率を「2%」に設定しています(日本の中央銀行である日銀も同じ水準です)。今年に入って消費者物価指数の上昇率は目標の2%に接近。FRBは利下げしても大丈夫だろう、と判断して政策金利を引き下げ始めました。 

 

 

2024年7月、対ドル円相場が161円台後半に下落し、37年半ぶりの円安水準を更新した(写真:アフロ) 

 

 こうした米金利の低下は、為替市場での円安修正につながり、日本の多くの企業や家計に好影響をもたらします。ここからは、そのメカニズムについて、やや詳しく解説していきます。為替市場では様々なことが相場を動かす材料になります。その中でも、大きな材料の一つとなるのが、各国の金融政策の動向です。為替市場では、22年から円安が加速しましたが、その主な理由になったのが、米国と日本の金融政策の動向でした。両者の政策運営で大きな違いが生じたことが対ドルでの円安を招きました。 

 

 前述のように22年に米国ではFRBがインフレ抑制で大幅に金利を引き上げましたが、一方で日銀は、マイナス金利や国債買い入れなどで構成する「大規模緩和」を維持しました。これにより、日米間で大きな金利差が生じました。日本で低金利が続く一方、米国の金利が大きく切り上がったのです。為替市場では、金利の低い通貨を売り、金利の高い通貨を買って、「利ザヤを稼ぐ」という取引手法があります。「キャリートレード」と言います。22年は日米金利差の急拡大で、円を売ってドルを買う「キャリートレード」が活発化しました。これを受け、同年初めに1ドル=115円前後だった円の対ドル相場は年後半に150円近くに下落しました。 

 

【図解】2022年のドル・円の為替チャート 

 

 日銀では、23年春に総裁が黒田東彦氏(元財務官)から学者出身の植田和男氏に交代しました。植田総裁率いる新体制(植田体制)は「大規模緩和」を徐々に修正。24年春にマイナス金利を解除しました。ただ、上げ幅はわずかで、夏前に162円近くまで円安が進んでしまいます(参考図、24年のドル円動向)。この円安に対し、為替政策を所管する政府(財務省)・日銀は円買い・ドル売り介入を実施。また、日銀は7月末に追加利上げに踏み切り、円安阻止に動きます。さらに、米利下げが濃厚となり、9月に140円近くまで円高方向に揺り戻しました。 

 

【図解】2024年のドル・円の為替チャート 

 

 その後、再び円安に振れましたが、FRBの利下げが続けば、改めて「金利差からのドル買い・円売りにはブレーキがかかる」(大手邦銀)とみられます。日銀も「ゆっくりとしたペースで利上げを続ける」(銀行系証券アナリスト)と予想され、拡大した日米間の金利差は着実に縮小します。円売り・ドル買いの「キャリートレード」は巻き戻され、円買い・ドル売りに傾く可能性が高いと見込まれます。これに伴い、為替の流れは円安から円高へと転換すると予想されます。そして、円高への揺り戻しは、多くの企業や家計に恩恵をもたらすのは間違いないでしょう。 

 

 

 かつて円安は日本経済にとって良いことでした。輸出立国だった日本の製品が国際市場で割安となり、売れ行きが良くなるからです。輸出が増えて国内の生産も増加。製造業の収益は改善し、働く人の給料が増えて家計は潤います。製造業を中心とした好況が日本全体に広がる、という波及がみられました。しかし、製造業は1990年代後半からグローバル化への対応で生産拠点を海外にシフトさせます。これに伴って日本からの製品輸出は減少傾向となりました。10年ほど前から、それまで黒字基調だった貿易収支は赤字に転落するようになりました。 

 

 日本からの製品輸出が減った以上、円安によって輸出・生産が増える、という構図にはなりにくい状況です。工場の海外移転により製造業で働く人も減りました。経済産業省などがまとめた「ものづくり白書」によると、93年に製造業で働く人は1530万人いましたが、22年は1044万人に減っています。円安になったとしても、輸出・生産が増え、家計が潤う、というメカニズムは起きにくいのです。むしろ、家計の大半は円安による輸入品の高騰で生活が苦しくなりました。 

 

写真:アフロ 

 

 日本は資源国ではありません。石油や食料の大半は輸入に頼っています。急速な円安はガソリンや食料品などの高騰につながりました。消費者物価指数の前年同期比上昇率は2%台ですが、みなさんがスーパーやコンビニなどでの買い物で感じる物価上昇率はもっと大幅に高いでしょう。それだけ生活が圧迫されたのです。実際、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(四半期ごとに実施。10月公表分)では、円安が進行した22年から「暮らし向きD.I.」の悪化が顕著です。円高になれば、物価高は軽減し、「暮らし向きD.I.」は改善すると見込まれます。 

 

 さらに、円高に振れると「日銀の利上げペースが一段と緩慢になる」(シンクタンクのアナリスト)というメリットもあります。物価高が緩和されるので、日銀は急いで利上げする必要はなくなります。このことは住宅ローンを抱えた家庭には朗報です。政策金利は比較的低位で安定し、住宅ローン金利の上昇も限定的となりそうです。借り入れの多い中小企業も返済負担がどんどん重くなることはないでしょう。 

 

 

 まとめると、米国の利下げが進むことは、為替市場で円安の流れが円高に転換、物価高が緩和され、金利上昇も抑制される、というメリットがあるのです。ただし、この好ましいシナリオは、トランプ政権の政策対応によってメリットが薄くなるリスクがあることには注意が必要です。なぜならば、保護主義者のトランプ次期大統領は中国などからの輸入品に大幅な関税をかけようとしています。また、移民流入も規制する考えです。いずれの施策も「米国のインフレ圧力を高める恐れがある」(同)と懸念されます。 

 

写真:アフロ 

 

 インフレ再燃のリスクが高まると、FRBの利下げは限定的となります。そうなると、日米金利差はさほど縮小せず、円安の修正も限られます。現在の水準からそれほど円高にならなければ、物価も顕著には下がらず、暮らし向きの改善を実感しにくい恐れがあります。トランプ政権の経済政策における舵取り次第では、生活が楽になるかもしれない一方で、逆に苦しくなる恐れもあります。米国の金利動向が、日本の物価や金利に対しても、大きな影響があることは念頭に置いたほうがいいでしょう。 

 

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