( 240774 )  2024/12/28 15:48:44  
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自由な働き方が広がり、フリーランスの人口が増加している現代。

会社で働いているが、将来的にはフリーランスとして挑戦したいと考える人もいるかもしれない。

しかし、現在の健康保険をフリーランスの国民健康保険に切り替えると保険料が1割以上も徴収され、過去の収入に基づいて算出されるため、不公平な要素が多いことが指摘されている。

保険料の限度額が上昇しており、フリーランスや自営業者などは収入が安定しないため、支払いが途中で厳しくなることもある。

健康保険料の仕組みに見直しが必要との提案もあり、国保制度が問題だとする声もある。

従業員と比べて、フリーランスや自営業者には不公平さがあり、保険料が高い一方、受けられるサービスは限定的であることが浮き彫りになっている。

(要約)

( 240776 )  2024/12/28 15:48:44  
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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

 働き方の自由度が広がり、フリーランス人口が増えている昨今。今は会社勤めをしているけど、いずれはフリーランスとして腕を試したいと思っている人も多いかも知れない。だが、気をつけた方がいい。いまの健康保険をフリーランスの国保に切り替えたとき、きっと愕然とするはずだ。なんと年収の1割超が、保険料として徴収されてしますのだ。それどころか、保険料の限度額は年々上昇。老後の年金支給額が違うのはもちろんのこと、社保加入の会社員と比較した場合にあまりにも不公平な点が多いことを指摘する。本稿は、笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!保険料を下げる10のこと』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。 

 

● 所得640万円で国保料88万円!? こんなに取られたらやっていけない 

 

 いま国保に加入している者の生の声をお伝えしたい。はっきり言って泣き言だ。だが本当に保険料が高い。低所得者はもちろん、年収1000万円以下は所得の1割以上の保険料を支払っているわけだから、誰にとっても重すぎる負担なのだ。 

 

 2021年度の筆者の国保料は約88万円だった。その国保料は前年(2020年)の所得約640万円(年収は890万円)をもとに算出されている。 

 

 その前はどうだったかというと、2020年度の国保料は約48万円で、その前年(2019年)の所得は約338万円(年収は560万円)。高いと思ったはずだが、10回払いで月々4万8000円を何とか支払っていた。48万円の国保料を支払う時は、年収890万円を得ていた年だったからというのも大きい。 

 

 特にフリーランスをはじめ自営業者は、今年の収入を来年も得られる保証はどこにもない。 

 

 保険料を安定的に徴収するためにも、せめて「前年度の収入をもとに国保料を算定する」仕組みを見直す必要があるのではないかと思う。翌年の収入の目処がたちにくいのだから、該当する年度から引かれるほうがいい。 

 

 税理士の服部修氏(服部会計事務所代表)も、「国保料も所得税のように源泉徴収を取り入れるべきです」という。私であれば出版社から原稿料が振り込まれる際、源泉徴収としてあらかじめ10%の所得税が引かれる。それに1%プラスして国保料を引くのだ。最終的な増減は翌年の確定申告で調整すればいいだろう。「それにしても……」と、自身も国保に加入する服部氏が続ける。 

 

● 国保料の限度額は年々上昇 払えない人が続出 

 

 「国保料の限度額は年々上昇していますが、所得の高い人にとってもこれ以上は限界です。所得の2割3割などを占めるようになれば払えない人がさらに続出します」 

 

 私は3年前、支払いが厳しいと感じた時に打てる手はないのかと、居住地である都内区役所の国保を扱う窓口を訪ねた。国保料の決定通知書を見せ、今年はやや少ない収入となりそうだが、この状態で減額の措置はあるかとたずねると、区の職員は首を横にふる。 

 

 「ありません。通常、国保料の減免は直近3ヵ月の収入や家賃の金額などトータルで判定しますが、生活保護を受けられるかどうかというほど困窮している世帯が対象になります」 

 

 私は納得がいかなかった。 

 

 毎年本を出版しているが、そのまるまる1冊分の原稿料が国保に消えていくのだ。 

 

 

 その思いを伝えると、区の職員は同情をこめてうなずく。 

 

 「以前は住民税と同じように、お支払いになった生命保険などを差し引き、ひとり親控除なども行った所得に対し、国保料を算定していました。しかしそうなると、ご家族が多い方が優位になってしまうという考えから、現在は基礎控除のみを行った所得で国保料を計算しています」 

 

 国保料の計算法については、現在ほとんどの自治体が「総所得金額?基礎控除(43万円)」を算定基礎額としている。そのため扶養控除や社会保険料控除などが国保料には考慮されていない。だからよほど高所得者で、国保料の上限額(106万円)を支払ってもびくともしない人でない限り、一般的に国保料は住民税より高くなる。 

 

● 「もう国保の制度が破綻しているんです」 区の職員は小さな声で言った 

 

 その高い国保料が今後下がることはないのだろうか。 

 

 2020年のコロナ禍では医療機関を受診する人が大幅に減り、手術の延期も多数行われた。2020年と2021年の全体の医療費は大きく減ったはずである。それは翌年度以降の国保料の減額として反映されないのだろうか?しかし、これに対しても、区の職員が申し訳なさそうに首を横にふった。 

 

 「現在は都道府県単位で考える形ですので、たとえある区の医療費が減っていても、ほかの区がそうでもなければ東京都全体として保険料を安くすることはできません。また、国保は保険料だけでは運営できませんから一般会計からも補填しています。これはいってみれば、企業にお勤めの被用者保険に入っている方の住民税をもらって、国保を支援しているような形です。公平性を考えると、国保は国保の中だけで解決しなければなりません。ですから医療費が減ったからといってすぐ国保料を下げるというわけにはいかず……」 

 

 そして区の職員は小さな声で、「もう国保の制度が破綻しているんです」とつぶやいた。 

 

 私は労働意欲が失せていくようだった。働いても働いても、その分を保険料にとられていく。私も子どもも、1年間のうちそれぞれ数回しか病院を受診していない。窓口での支払いは3割自己負担でいつも3000円ほどだ。それなら10割負担でも1回につき1人1万円程度。この国民健康保険証を返したい、と真剣に思った。 

 

 「僕も行政の窓口で『国民健康保険証を返します』と言ったことがあります」 

 

 と、自営業の知人男性が言う。彼は現在の保険料の年間限度額を支払っている。やはり所得の1割を超えるようだ。 

 

 

● 「相互扶助、助け合いの仕組み」 という詭弁で課せられる保険料 

 

 「1年に1、2回しか病院に行っていないのに、保険料は月に約10万円の支払いでしょう。さすがに高いですよ。僕が保険証を返したい、自由診療がいいと言うと、窓口では『日本は皆保険制度ですから、保険証を返されても困ります。相互扶助、つまり助け合いの仕組みなんです』と繰り返し言われました」 

 

 「相互扶助、助け合い」――つまり、みんなで医療にかかれる体制をつくりましょう、ということだ。一見正しく感じるかもしれないが、実はこのような理論はおかしい。 

 

 佛教大学社会福祉学部准教授の長友薫輝氏も「よく誤解されるのですが、国保は“助け合い”で運営しているわけではありません」と述べる。 

 

 「例えばテレビコマーシャルでおなじみの民間保険は、サービスを受けたいのであれば保険料を納めなさいという保険原理ですよね。しかし国保を含む公的医療保険、年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険の5つは社会保険といわれ、個人への保険料だけでなく、事業主にも負担を求め、国が公費を投入し、運営に責任をもつ、国民に加入を義務づけるという面も持ち合わせます。これは自己責任や家族・地域の助け合いだけでは対応できない貧困、病気、失業などのさまざまな問題に対して、社会的施策で対応していきましょうということなのです。ですから加入者に“助け合い”ばかりを強調して過酷な負担を強いるのは、社会保険として考えた時に問題なのです」 

 

 問題だ。困っている。だがそうは言っても、加入者にはどうすることもできず、悔しい気持ちになる。 

 

● フリーや自営業者は 「ちょろまかす」権利がある? 

 

 組織から離れて個人事業主となった知人記者A氏も、「国保料が高い」と怒っている。 

 

 A氏は30代後半で企業を退職し、ある有名雑誌の専属記者となった。出版界で多く見られる「業務委託契約」で、A氏の場合なら毎週、編集部内で請け負えない取材執筆を担当する業務である。業務委託契約のメリットはA氏のケースだと毎月固定の収入を得られる上、自己裁量で仕事が進められる点、デメリットとしては個人事業主となるため健康保険は国保へ加入し、高額になりやすい点がある。 

 

 A氏の場合は、彼の妻が大手企業で正社員として働くという安定的な立場。だから夫を扶養に入れられないかと、妻は自身の勤務先に相談したという。「でもあっさりと却下された」と妻。A氏の年収(売上)は、およそ600万円。 

 

 

 確定申告では、そこから経費を引いて所得200万円と申告。それは扶養には入れないだろう。年収130万円を超えれば、社会保険に加入する義務が発生する。 

 

 「まあもう少し経費を盛れば(増せば)よかったのでしょうが」とA氏が笑う。600万円の収入を得ていて、経費によって200万の所得まで減らすのも十分“盛っている”と思うのだが……。口に出さなくても私の思いが伝わったようだ。A氏は「あのね、フリーは経費で(収入を)ちょろまかしているというけど、俺からすればちょろまかす権利があると思うね」と反論する。 

 

● 大手企業の会社員と比べると 不公平さはより顕著 

 

 「会社員は厚生年金が半分は事業主負担、健康保険だってそう。退職金に対しても課税の軽減措置がある。一方で、フリーのこちらは税優遇が一切ない、将来もらえる年金の額だって少ない。保険料は会社員と比べてほぼ倍の金額。それも会社員時代に加入していた社会保険が終わった、定年退職組が国保に加入して医療費を多く使うから、保険料が高くなる。なぜ国保だけ無職の高齢者と一緒のグループなのか。そういう不公平があるんだから、ちょろまかすぐらい許してやと思う」 

 

 大手企業の組合健保に加入する、A氏の妻に給与明細を見せてもらうと、なんと健康保険料が月額1万816円(編集部注/大手企業の場合、労使折半ではなく事業主負担が増額されることが多い)。この健康保険に子ども1人も扶養で加入している。しかも給付サービスを聞くと、驚きの内容だった。 

 

 「出産一時金が42万円(現在は50万円)に加算されて、60万円でした。もし何かで入院した場合、私でも家族でも1日5000円の給付があるようです。あと勤務先を通じて入る民間保険料が安くて、家族3人で1ヵ月3500円の保険料のため、加入しています。この民間保険でも、入院した場合1日5000円の給付がありますので、もし家族の誰かが入院したら、組合健保から5000円、その民間保険から5000円で合計1万円が入ります」(A氏妻) 

 

 「手厚いですね。人間ドックも受けられますか?」と私がたずねると、「はい無料で受けられます。しばらく受けてませんが……。そういえばあなた、ずいぶん健診を受けていないんじゃないの?」と妻は言葉の最後に、A氏のほうを見る。 

 

 「(病に)なったら……死ぬ時は死ぬから」 

 

 と、サバサバした口調のA氏。そして「高い国保料を払って、手取りが少なくなって、ろくなもん食えなかったら病気になるわな」と、諦めたように笑った。 

 

笹井恵里子 

 

 

 
 

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