( 241251 ) 2024/12/29 15:34:26 0 00 Photo by Getty Images
手術やカテーテル治療で失敗を繰り返す外科医の姿をリアルに描き、話題となったマンガ『脳外科医 竹田くん』。その「モデル」とされる医師の松井宏樹被告(46歳)が12月27日、業務上過失傷害の罪で在宅起訴された。
松井被告は、2019年7月から2021年8月まで兵庫県赤穂市にある赤穂市民病院の脳神経外科に勤務し、着任から半年あまりで8件の医療事故に関与。そのうち、脊柱管狭窄症の手術を受け、ドリルに神経を巻き込まれて下半身が不自由になったAさん(女性・当時74歳)とその家族が、松井被告を刑事告訴していた。
「週刊現代」「現代ビジネス」では2024年春以降、松井被告の治療・執刀を受けた患者やその家族、病院関係者への取材を続けてきた。
前編【あの『脳外科医 竹田くん』モデル医師、ついに「実名顔出し報道」へ…!「ドリルで神経を切断された」患者家族が明かす「手術前の異様な言動」】に続いて、事件の詳細を報じる。
Aさんの手術では松井被告が主に執刀し、ベテランのB医師が助手を務める予定だった。ところが手術が始まったとたん、松井被告は「この手術は初めてなので自信がない」などと言い出した。そのため、2ヵ所あった患部のひとつをまずB医師が執刀して手本を見せ、松井被告に引き継いだという。
それからほどなく、悲劇は起きた。松井被告がドリルで骨を切削していたとき、刃が脊髄の一部を巻き込んでしまったのだ。手術中の記録映像には、刃先に白っぽい神経が絡みつく痛ましいようすが映っていた。
Aさんの娘は本誌の取材に、こう語った。
「手術は昼すぎには終わると聞かされていましたが、ミスの処理のためか、母が病棟へ戻ってきたのは19時半すぎでした。病院側から、何が起きているのか説明は全くありませんでした」
手術を終えて出てきた松井被告は憔悴し、Aさんの娘にこう説明した。
「手術中に問題が起こりました。ドリルの先端が硬膜(脊髄を覆う膜)に当たってしまい、神経が飛び出したので、もとに戻したのです。現段階では神経が切れたかどうか、後遺障害が残るかどうかわかりません」
手術の後、Aさんは両足に重度の麻痺が残り、自力での排尿・排便も難しくなったほか、断続的に続く神経性の激痛にも苦しめられるようになってしまった。
しかしその後、松井被告はAさんや家族に対して「リハビリをすればよくなる可能性はある」などと説明。その一方で、手術に関する病院内の説明会では「もともとかなり(Aさんの)神経が傷んでいたわけだから、(障害を負ったのは)手術とは関係ない」などと、自身の過失を否定するようなことを口にしていたという。
Aさんとその家族が、松井被告に対して決定的な違和感を抱いたのは、手術から3ヵ月あまりが経った2020年5月初めのことだった。松井被告が「うちの看護師には、面倒な患者(Aさんのこと)の世話をさせて申し訳ないと思っている。早く退院してほしいという気持ちもある」と言い放ったというのだ。
Aさんと家族は、前述のように松井被告を刑事告訴しただけでなく、2021年8月には、松井被告と病院を経営する赤穂市を相手取って約1億1500万円の損害賠償を求める民事訴訟を提起しており、現在も係争中である。
2024年9月4日には、この民事訴訟の証人尋問が神戸地方裁判所姫路支部で行われ、松井被告が出廷した。このとき松井被告は、「B先生から、『何をちんたらやっとんねん、そんなことやってたら日が暮れてまうやろ。スチールバーに変えろ』と言われました」「医師は徒弟制度ですから、逆らうことはできなかった」などと語り、事故の責任は自分ではなくB医師にあると主張した。
さらには「SNS、『脳外科医 竹田くん』というウェブ漫画で風評が起きています。殺人鬼とか、とんでもない医者、などです。『脳外科医 竹田くん』は事実無根です」「脳外科医としては、メスを置いたつもりでいます」とも語っている。
2020年4月に赤穂市民病院がまとめた一連の事故に関する報告書、また地元紙「赤穂民報」などの報道によると、松井被告はAさんを執刀した翌月にも75歳男性の脳腫瘍の手術、84歳女性の脳梗塞のカテーテル治療を担当したが、これらの患者はともに術後に重い脳梗塞や脳出血を起こし、亡くなった。この時点で合計8件もの医療事故に関与していた被告は、病院から「手術・カテーテルなどの侵襲的(患者の体を傷つける)治療の中止」を指示された。
松井被告は2021年8月に赤穂市民病院を依願退職し、大阪市の医誠会病院(現・医誠会国際総合病院)に勤務し始めた。しかしそこでも、搬送された当時90歳の新型コロナ患者が透析を受けられず死亡したことに関与したとして、患者の遺族が病院を相手取り、2024年2月に約4960万円の損害賠償を請求する民事訴訟を起こしている。
さらに松井被告自身も、2021年と2023年には、前述した赤穂市民病院の元上司であるB医師から「長時間叱責されるパワハラや、殴られたり、病院の階段から突き落とされたりする暴行を受けた」などとして、B医師を刑事・民事の双方で訴えた(刑事は不起訴)。
その後、松井被告は医誠会病院も退職し、2023年6月から吹田市にある吹田徳洲会病院の救急部門に移り、現在も勤務している。しかし吹田徳洲会病院でも、救急搬送された患者の傷の縫合ミス、症状・病状データの取り違えなどのミスを頻発させたという。
この顛末は2024年5月、「週刊現代」が同病院救急部門スタッフの内部告発にもとづいて詳細に報じている。詳しくは【「指に針を突き刺して…」決死の内部告発!『脳外科医 竹田くん』のモデル医師が吹田徳洲会病院で「デタラメ診療」連発、院内は大混乱】をお読みいただきたい。
写真:現代ビジネス
なお今回、徳洲会本部の広報担当者は本誌の電話取材に対してこう答えた。
「今後開かれる裁判の推移を注視していきます。現段階では、これ以上のことはお話しできません。(吹田徳洲会病院の)院長は『松井医師を見守り、一人前の医師に育てていく』と言っていて、その言葉を信じていくしかありません。最終的な判断、結論が出た段階で正式にコメントいたします」
医療事故はミスの立証や証拠集め、医学的論証などのハードルが高いことから、民事訴訟においても原告側の勝率はわずか20%前後とされ、また医師が刑事責任を問われるケースも少ない。
松井被告の事件がこうした現状に一石を投じることになるのか、今後の裁判の展開が注目される。
【詳しくはこちら】『あの『脳外科医 竹田くん』モデルの外科医、ついに「実名顔出し報道」へ…!「ドリルで神経を切断された」患者家族が明かす「手術前の異様な言動」』
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