( 241296 ) 2024/12/29 16:27:22 0 00 なぜ新幹線マナーは話題になりがちなのか?(写真:TETSUYA氏/PIXTA)
行楽・帰省シーズンに欠かせないのが、新幹線をめぐるトラブルだ。今度の年末年始も、あらゆるイザコザが予想される。
SNSでも、これまで多様なケースが話題になってきた。そこでネットメディア編集者の視点から、どんなパターンがあるかを考えつつ、新幹線の「マナー論争」が盛り上がる理由を考察してみよう。
■乗客トラブルの事例
新幹線をめぐる乗客トラブルは、よくSNS上でも話題になる。ときには被害に遭った、巻き込まれた当事者みずからの投稿もあり、公共交通機関におけるマナーのあり方を考えさせられる。そこで今回は、いくつか事例を振り返ってみよう。
2022年12月上旬、声優・野沢雅子さんのモノマネで知られる、お笑いコンビ「アイデンティティ」田島直弥さんによる投稿が話題になった。新幹線の3列シートで、一番窓側に座っていたところ、中央と通路側の乗客がテーブルを広げて、カードゲームを始めたという。
田島さんが通路に出るには、いったんカードを片付けて、テーブルをしまってもらわなければならない。そのもどかしさから、田島さんは「どれぐらいでゲーム終わりますか…?」「トイレ行けねぇぇぇー」「プレッシャ~」などと嘆いた。
必要な券を持たず、座席を利用するケースも、しばしば問題視される。同年には、東海道新幹線で停電による大幅遅延が発生。その際には、メンタリストのDaiGoさんが、グリーン券を持たない乗客に対して、「車掌さんがグリーンのデッキには入るなって言ってるのに全員無視」などと苦言を呈した。
指定席をめぐっては、朝日新聞で2012年に掲載された投書が、今も思い出される。年末に乗った投稿者が、指定券を持たないまま指定席へ行くと、とある座席に子犬入りのバスケットが。飼い主に声をかけるも、「指定席を買っている」と言われ断念した。
やむなく自由席へ行くと、子どもが座っている座席があった。親に空いているか聞くと、親は仕方なく子どもをひざに乗せるのだった。投稿者は複雑な心境になったとまとめているが、掲載当時はむしろ、読者から「複雑な読後感を覚えた」という反応が相次いだ。
■なぜ新幹線マナーは話題になりがちなのか
また、よく注目されるのが、「座席での食事」だ。つい先日は、お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村亮さんが、「新幹線では臭いが強い食物を食べたらダメなの?」と問いかけて注目を集めた。
亮さんは以前、豚まんを食べた際、近くにいる乗客から「舌打ち」された経験を明かしつつ、「今更だが別に良くない? 俺は隣で嫌いなパクチーを食べてても何とも思わない。今、カレー煎餅を開けたい」と投稿。
最終的に車内では食べず、自宅に持ち帰りつつ、「配慮が本当の正義ならば、ルールや法律にした方が良い」との疑問を投げかけた。
今回の本題である「なぜ新幹線マナーは話題になりがちなのか」を考えたときに、この亮さんの着眼点は重要なポイントだ。鉄道会社側が明文化しているルールと、乗客間による暗黙のマナーが混在していることが、トラブルの温床となっているのではないか。
当然ながらルールは守らなければならない。先に出した例で言えば、「グリーン券を持たなければ、グリーン車に入れない」は、決まりごとに分類される。一方で、「カードゲームのように通行を大きく妨げる行為をやってはならない」などと明文化されているわけではない。
ちなみに亮さんの件は、厳密にはNGになる可能性もある。JR東海の旅客営業規則では、車内に持ち込めない品として、「不潔又は臭気のため、他の旅客に迷惑をかけるおそれがあるもの」(第307条)が挙げられている。
ただ「臭気」の定義は、人それぞれだ。運用実務を考えれば、食べ物、それも駅構内で販売されているものであれば、(少なくとも現場では)黙認される可能性が高いだろう。
■鉄道ネタはマナー論争に参加しやすい
新幹線のマナー論争が盛り上がる理由としては、「鉄道ネタはファン層が厚い」こともある。一部ファンの中には、強い正義感から、異論に対して攻撃的な姿勢をとる人もいる。もちろん良識的なファンが大多数なのだが、SNS上では「目立つ人」の声が拡散されやすい傾向がある。
そこにファン以外の「あるある」が掛け合わされる。鉄道やバス、飛行機などの公共交通機関で移動した経験は、あらゆる人にあるだろう。誰にでもシチュエーションが思い出されることから、「もし自分の身に降りかかったら」と想起しやすい点も、マナー論争に参加しやすいポイントだ。
また、トラブルに巻き込まれた人が、投稿したくなる要素もある。多くの乗客は「移動そのもの」よりも、むしろ「到着地での用事」を重視している。そのため、旅行者は「ワクワクを邪魔された」、出張者は「仕事に集中できなかった」と感じるのではないか。
そもそも、数時間にわたり同じ空間で、赤の他人と過ごすこと自体がストレスになる。殺気立っていれば、そのぶん周囲の環境が気になるものだ。普段なら無視できることでも、とりわけ強く気になってしまう。
加えて、ルール自体の変更が混乱を招いている側面もある。2023年末から東海道・山陽新幹線「のぞみ」は、ゴールデンウィークとお盆、年末年始に全車指定席となった。
シーズン内でも、普通車デッキなどの立席利用であれば自由席券で乗車できるが、通常のような自由席車両はない。列車が動いて、初めて知った……なんて人が出てきてもおかしくない。
■ルールそのものが複雑化
公共交通機関では、荷物トラブルもある。ここ数年で、新たに登場したのが「特大荷物スペース(コーナー)」だ。東海道・山陽・九州・西九州の各新幹線では、これらの空間が付いた専用座席を事前予約する必要がある。
この新サービスは2023年5月に導入されたが、まだ完全周知には至っていないようだ。SNSを見ると、「予約していたが、誰かが勝手に置いていた」といった投稿は少なくない。
昨今では大きなスーツケースを引く旅行者を見かける機会も増えた。そのぶん荷物を置きたい旅行者も多いのだろうが、正当な権利を持つ予約者が怒るのは当然だ。
このように、インバウンド需要の高まりや、働き方改革などを背景に、ルールそのものが複雑化しつつある。今後さらなる改定によって、よりトラブルが起きやすくなる可能性も否定できない。それは同時に、自分自身がトラブルを起こす側になりかねないことも意味する。
ひとたびトラブルを起こせば、すぐさま現代社会では、世界中のさらし者になり得る。たとえ、あなたの肖像権が侵害されていたとしても、「正義」の前ではSNS投稿を止められない。そしてメディアが「報道」の体をとって、さらに拡散される。行き着く先は、社会的な死だ。
■「今の常識と非常識」を認識しておく
そうならないように、善良な乗客として重要なのは、いかに最新動向にアップデートできるかだろう。最新のルールと、昨今のマナーの風潮をキャッチアップし続けることが、あらぬ炎上の予防策になる。
時代の変化にあらがおうとすると、そこには論争が生まれる。コンビニで酒やタバコを買った際に、タッチパネルで年齢確認を求められるようになって久しいが、いまなお「かたくなに拒否する年配者」が話題になる。
たしかに「前は違ったのに」と言いたくなるシチュエーションは、日常でよくある。筆者もとあるスーパーで、焼酎の「割り材」をセルフレジで買うたび、ノンアルコールなのに、店員の確認が必要になるのが釈然としない。しかしながら、それはその店における今のルールなのだ。
時代に合わせた変化には、それなりのストレスが伴う。しかし、新たな常識となった価値観と対立して、孤軍奮闘していく方が、長期的に見れば、よりストレスの度合いは大きいはず。早いタイミングで「今の常識と非常識」を認識しておいて損はないだろう。
城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
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