( 243741 ) 2025/01/03 16:19:09 0 00 創立75年を迎えた老舗バレエ団でも、華麗な公演の裏には「厳しいお金との戦い」があるという…。(画像:谷桃子バレエ団公式YouTubeチャンネルより)
創立75年を迎えた谷桃子バレエ団――。長年、美しい公演で見る人を魅了する老舗だが、その裏では「厳しい金銭事情」との戦いも…。知られざる「バレエ団とお金の話」を、谷桃子バレエ団を追い続ける映像ディレクターの渡邊永人氏の新刊『 崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった 』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
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「国から助成金が降りませんでした……」
30秒ほどの沈黙の後、「わかりました」と髙部先生が力無く答えた。
新人ダンサー入団から1ヶ月。間借りしている梅ヶ丘のバレエスタジオの2階の応接間で、髙部先生以下「ミストレス」と呼ばれる先生たち(他のスポーツでいうコーチのような立場)合計7人がそこにいた。
指導陣が集まって行っていたのは、3ヶ月後に本番を控えた8月公演『くるみ割り人形』の配役決め会議だった。バレエの公演は、主役から脇役を含めれば数十もの役があり、それゆえ今回入団した新人たちにも十分出番のチャンスがある。
そんな重要な会議を撮影していた時にかかってきた一本の電話が、その場を凍り付かせた。電話の相手は、僕の会社に動画撮影のオファーをしてきたバレエ団の運営担当者だった。
そもそも髙部先生は、芸術監督としてバレエ作品のクオリティ面の全責任を負っているが、いわゆるお金まわり、経営面に関しては、運営会社に一任している。その運営会社の担当者から「助成金が降りませんでした」と何の前触れもなく連絡が来たのだ。突然のことで、僕にはそれがどういう意味を持つのかよくわからなかった。
そもそも、バレエ公演を開催するためにはとんでもない額のお金がかかるという。
会場費に始まり、華やかな舞台装置や衣装、そして欠かせないのが音楽を演奏するオーケストラだ。
「すべて合わせると少なくとも3000万から4000万円はかかります。会場によってはそれ以上になることもあります」
桁違いの金額に目を剝いた。そんなに大きな額をどうやって賄うというのか。驚く僕とは対照的に、髙部先生は淡々と続ける。
「一番大きいのは文化庁、要するに国からの助成金です。大体1公演につき2000万円くらいで申請します。ただ、全額助成金が降りることは、そうそうありません。もし1000万円が助成金で降りたとしたら、残りの3000万円はスポンサーを探したり、寄付金で賄ったりします」
正直に言うと、僕らの払っている税金がバレエ公演に使われていると知って、驚くとともになぜだか複雑な気持ちになった。
「仮にチケットが全席売れたとしても、それでも助成金が必要なんですか?」
「チケット代だけですべて賄えるということはまずないです」
なんと、てっきりチケットが売れないから助成金が必要なのかと思っていたが、そもそもチケットが全部売れても、じゅうぶんには回収できない。それがバレエ公演のビジネスモデルだというのだ。
「他のバレエ団も同じような感じですか?」
「そうですね。ほとんどのバレエ団がそうやって助成金を申請して、バレエ公演を行います。例外を言うなら、新国立劇場バレエ団。ここはそもそも国が運営している新国立劇場所属のバレエ団なので、助成金をわざわざ申請せずとも公演が出来ます。ダンサーたちは国に雇われた公務員のようなものなので、国から固定給も出ます」
国から給料が支払われる日本唯一の国立劇場所属のバレエ団。そんなものが日本にも存在するということに驚いたが、髙部先生は続ける。
「もう一つ、助成金を必要としないバレエ団があります。熊川哲也さんが作ったKバレエカンパニーというバレエ団です。熊川哲也さんはご存知でしょう?」
熊川哲也。確かにバレエ初心者の僕でもその名前は知っていた。
渡邊 永人
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