( 243759 )  2025/01/03 16:43:41  
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若者のアルコール離れやアルハラ意識の高まる現代において、一気飲みするショットが人気となっている理由について、高度数のアルコールを一気飲む従来のショット文化とは異なる新しいタイプのドリンクやショットカクテルが好まれていることが一因である。

特に「クライナー ファイグリング」などのアルコール度数が低く、味のバリエーションが豊富な商品が支持されている。

さらに、店の売り上げの観点からもショットは優れた商品であり、飲み会がより特別なものとなる傾向があるため、ショットで乾杯する文化が広まっている。

近年は小規模な飲食店や普通の居酒屋でも独自のショットメニューを提供する取り組みが見られ、ショット文化が促進されている。

(要約)

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飲む人・飲まない人も各自のペースで酒席を楽しもうという機運が高まっている今の時代、全員で高度数のアルコールを一気飲みするショットが、なぜ広がっているのだろうか(写真:vershinin89/PIXTA) 

 

 ショットグラスに注いだ高度数のアルコールを皆で一斉に煽る「ショット」という飲み方。 

 

 昔からクラブやパーティなど若者が集まるシーンの遊びとして親しまれていたが、「若者のアルコール離れ」やアルハラに対する意識も高まる現代において、そうした習慣は時代に合わず衰退していくように思われる。 

 

 しかし、実際には若者の中でショットは廃れるどころか、近年、にわかに盛り上がっているのを筆者は感じている。 

 

■アルコール離れの若者、なぜショットは人気に?  

 

 飲食業界のBtoBメディアの編集長として、特に居酒屋を年間300件リサーチする筆者だが、コロナ禍の影響が落ち着き始めた頃から居酒屋のドリンクのメニュー表に「ショット」や「テキーラ」の文字を頻繁に見るようになった。 

 

 昭和から平成、令和にかけて、酒の飲み方に対する意識は大きく変化している。お酒の強要や一気飲みなど、いわゆるアルハラに対する目もずいぶんと厳しくなった。 

 

 アサヒビールは「その日の気分やシーンに合わせて、ひとりひとりが自由にドリンクを選ぶ新しいライフスタイル」であるという「スマドリ」を提唱している。 

 

 大手ビールメーカーですら「無理して飲まないで」というメッセージを発する時代だ。 

 

 このように飲む人・飲まない人も各自のペースで酒席を楽しもうという機運が高まっている今の時代、にもかかわらず、全員で高度数のアルコールを一気飲みするショットが、なぜ広がっているのだろうか。 

 

■ショットのイメージを覆すニュータイプのドリンクが人気 

 

 今の若者の「ショット遊び」ブームの牽引役のひとつは「クライナー ファイグリング」(通称クライナー)だろう。 

 

 「クライナー」は1992年ドイツ発祥のボトル入りショットカクテル。日本には2017年に上陸し、クラブやバーなどでショット用に提供され始め、じわじわと知名度を上げている。 

 

 従来のショットは、テキーラやジン、ウォッカ、さらに「パリピ酒」と呼ばれるコカレロやイエーガーなど、アルコール度数は30~40度ほどのスピリッツを30mlのショットグラスに注ぎ、皆で同じものを一気に飲み干す。 

 

 「クライナー」はそれと異なる点がいくつもある。 

 

 

 まずカラフルでキャッチーなパッケージが目を引き、可愛らしい見た目はSNS映えしそうだ。さらに20mlのミニチュアボトルに入っており、従来のショットグラスが30mlであることを考えるとやや少ない。 

 

 アルコール度数は20度で、やはり先述の酒と比べると低め。何より味のバリエーションも幅広く、フルーツ系、ミント系、クリーム系など女性にも好まれそうなものも。正直、従来のショットはどぎつい飲み口が多いことを考えると斬新だ。 

 

 さらに、これだけ種類があればどれにするか「選ぶ楽しさ」もある。自分の「推し色」を持つなど多様性を重んじるZ世代にマッチする商品なのかもしれない。 

 

 「クライナー」にはこうした従来のショットとは違うことから「ネクストパリピ酒」との呼び声も高い。 

 

 「クライナー」の日本への輸入卸および国内での販売事業はシトラムが担っているが、ゲームセンターやカラオケなどのエンターテインメントビジネスを展開するGENDAがそのポテンシャルに着目し、2024年6月、同社の全株式の取得を発表したことでも話題になった。 

 

■ショット文化を促進する商品が次々登場 

 

 最近は「クライナー」のような量販品のみならず、小規模な飲食店が独自のショットメニューをラインナップする事例もちらほら出てきた。 

 

 しかも、いかにもショットで乾杯をしそうなパリピが集まるクラブ的な店ではなく、もっと普通の人が集まるような落ち着いた店に、こだわりのショットカクテルが用意され始めているのだ。 

 

 池尻大橋にある若者に人気のバー「LOBBY」では、オリジナルのショットカクテルをラインナップし、「ショットで乾杯」の文化を提案している。 

 

 やはり味わいにこだわりがあるようで、ガツンと強いもの、爽やかなもの、デザート感覚で飲めるものなど4種類のバリエーションを用意し、従来のショットとはひと味違う点をアピールしている。 

 

 ビストロや和食の店などを展開する気鋭の飲食グループが12月に五反田にオープンしたばかりの洋風居酒屋「タロウヤマダ」にも、メニュー表の先頭にショットカクテルがあった。 

 

 「柚子ドロップ」と「グラスホッパー」など3種類あり、やはりフレーバーにバリエーションを持たせることはマストのようだ。 

 

 

 店の売り上げを考えてもショットは優秀な商品。一瞬で飲み終わるため単価アップに貢献しやすく、原価高騰が叫ばれる中、今後、ショットを充実させる店は増えていくと筆者は予想する。 

 

 コロナ禍以降、飲み会はより「特別なもの」になっている。以前まではなんの気なしに飲みに行っていた人も、緊急事態宣言に伴う時短営業や休業により、飲み会から足が遠のいた。 

 

 飲みに行かない生活に慣れてしまった人たちは、以前のように気軽に飲みに行くことが減り「本当に行きたい飲み会」だけを厳選するようになった。せっかく行くなら、特別な会にしたい。家庭では味わえない料理や酒を楽しみ、同席する友人と有意義な時間を過ごしたい。 

 

 その結果広まったのが「ショットで乾杯」の文化だろう。 

 

 仲間と集まり、ショットをあおる。そこで生まれる一体感や高揚感は外食ならではの体験だ。「LOBBY」のInstagramでも、ショットの乾杯をすることでよいバイブスが流れ、友達との仲が深まると説明されていた。 

 

■夜のお店の非日常なパーティ感が普通の居酒屋にも侵食 

 

 最近では「テキーラ観覧車」なるパーティアイテムも登場。観覧車を模したもので、酒を注いだショットグラスを乗せてクルクル回せる。 

 

 これが若い人向けの居酒屋などで用意されているのを見かけるようになった。どうやら、もともとキャバクラやホストクラブから広まったアイテムらしい。 

 

 ショットと同時にシャンパンボトルを置く居酒屋、特に個人経営の店で増えている。決して頻繁にオーダーされるものではないが、主に店主の知り合いなどがオープン記念のご祝儀代わりに開けたいときのために置かれていることが多い。 

 

 また、スタッフの誕生日や店の周年など記念日に常連がボトルを入れて皆で乾杯することもある。この「シャンパンを入れる」も、もともと夜のお店の文化に近い。こうした夜の世界の非日常なパーティ感が、普通の居酒屋にも侵食しているのを感じている。 

 

 ショットのような、一見すると前時代的な体験も今の時代は逆に貴重なものとして若者にはとらえられている。ただし、飲めない人への配慮や、各人の好みやペースに合わせられるなど現代的にバージョンアップされているのがキモだ。 

 

大関 まなみ :フードスタジアム編集長/飲食トレンドを発信する人 

 

 

 
 

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