( 244201 ) 2025/01/04 15:33:31 0 00 石破茂首相
少数与党で初めての臨時国会を乗り切った石破茂首相。10月の総裁選以降、支持率は厳しい数字が続き、自民党内での基盤も盤石とはいえず、当初から短命政権に終わる可能性も指摘されてきた。そうした状況のなか、「案外と“長持ち”するのでは」との見方が出ているという。カギは野党の動きにあるようだ。どういうことなのか、政治ジャーナリストの安積明子氏に聞いた。
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「今国会では与野党が、侃々諤々の議論を行いました。まさに熟議の国会、それにふさわしいものになったのではないかと感じているところでございます」
第216回臨時国会最終日の12月24日、石破茂首相は首相官邸で会見を開き、27日間の臨時国会を総括した。
17日に成立した補正予算では、立憲民主党の要求によって能登半島の復興支援金を積み上げ、28年振りに修正可決した。林芳正内閣官房長官は24日の会見で、「党派を超えて優れた方策を取り入れるべく工夫していくことが重要だ」とこれを評価したが、修正を加えた立憲民主党は、補正予算案に反対した。
■「石破首相では参院選は戦えない」のはずが……
9月の総裁選に当選したとたん、株価が大きく下落し、石破政権が発足当時の内閣支持率も低かった。10月の衆院選で自民党が獲得したのは、56議席減の191議席に留まった。2005年の郵政民営化選挙以来、衆議院では比較第一党が単独で過半数を占めていたが、このたびは200議席すら届かなかった。
しかも自民党と連立を組む公明党も、32議席から24議席と8議席も減らし、与党で過半数を割り込んだ。「政治とカネ」の問題に縛られた自民党に引っ張られる形で、公明党は「常勝関西」の大阪で4選挙区全てで敗退し、9月に就任したばかりの石井啓一代表(当時)も落選した。
「これでは石破政権は来年までもたない」とも言われていた。「内閣支持率が低いままでは、自民党は参院選が戦えない」というのがその理由だ。
だがここにきて、「石破政権は意外ともつのではないか」との声が上がりつつある。
なぜか――。
理由は、148議席の立憲民主党、38議席の日本維新の会、28議席の国民民主党という野党の存在だ。
この3党の代表は、旧民主党の流れをくむという共通点がある。立憲民主党の野田佳彦代表は民主党政権で首相に就任し、日本維新の会の前原誠司共同代表も民主党と民進党の代表を務めた。国民民主党の玉木雄一郎代表(2025年3月3日まで役職停止)は2016年の民進党代表選に出馬して落選したものの、希望の党から派生した旧国民民主党の代表に就任した。
なお、野田氏と前原氏は松下政経塾の先輩と後輩で、ともに1993年の衆院選で初当選した。「非自民・非共産の大きなかたまり(政治勢力)を作る」という点でも、2人の思惑は一致する。
■「政権交代こそ、最大の政治改革」
一方で故・大平正芳首相の後継を自負する玉木氏は、岸田文雄政権時の自民党に接近し、2022年度本予算案に賛成した。当時、国民民主党の代表代行だった前原氏はこうした姿勢に反発し、23年末に同党を離れた。
こうした背景を持つ3人が、「石破自民」を揺さぶっている。立憲民主党は今年10月の衆院選で「政権交代こそ、最大の政治改革」を掲げ、自民党に対決姿勢を示している。
しかし立憲民主党は単独では過半数にほど遠く、政権を奪取するためには他の野党と組む必要がある。日本維新の会共同代表の前原氏は、9月に野田氏が立憲民主党の代表選に当選した時、「薩長同盟」を仄めかしたことがあるが、吉村洋文代表は大の立憲嫌いで有名だ。
衆院選で7議席から28議席と4倍になった国民民主党は、12月の世論調査で支持率が野党第一党の立憲民主党を凌駕。その勢いで与党に「103万円の壁」の突破を迫り、「123万円」まで引き出した。
だが自民党税調のインナーの壁は厚く、国民民主党が主張する「178万円への引き上げ」については協議の段階に留まっており、具体化にはまだ遠い。
こうした微妙な関係を、石破自民はうまく利用している。国民民主党との「103万円の壁」交渉が難航した12月19日、自公は日本維新の会と教育分野をテーマにした政調会長らの会議が発足。日本維新の会が主張する高校の教育無償化などの政策を議論していくことを決定した。国民民主党に対する事実上の揺さぶりと見られている。
24日に閉会した臨時国会は、政策活動費の廃止を含む政治改革関連法や13.9兆円の補正予算などを可決したが、企業献金・団体献金禁止問題や公職選挙法改正については次期通常国会に先送りとなった。本予算案の審議とともに、7月に予定される参院選を目指して、各政党間のさらに熾烈な駆け引きが行われるはずだ。
実際に公明党と国民民主党は、政治資金をチェックする第三者機関を設置する法案を共同提出し、12月24日に成立させた。年明けからは具体的な制度設計について作業チームを設け、検討することを決定している。
これは「自民党抜き」の動きに見えるが、実際には国民民主党を他の野党から引き離す効果がある。その先に来年夏の参院選が控えているのはもちろんだ。
■「一緒になって選挙というつもりは全くない」
10月の衆院選の結果を参考に読売新聞が行った試算では、参院選「1人区」は野党が一本化すれば、与党は15勝17敗と負け越す結果が出ている。立憲民主党の野田代表は11月7日に日本外国特派員協会で講演し、「『1人区』で(自公以外の野党が)協力すれば、劇的な変化が起こせる」と野党共闘に意欲的だ。
しかし「対決より解決」を標榜する国民民主党は、党勢が広がりを見せており、これに乗ることはないだろう。また日本維新の会の吉村代表は12月10日、「1人区」について予備選で野党を1本化するという考えには同調したものの、「(立憲民主党と)一緒になって選挙というつもりは全くない」と協力には消極的だ。
野党がバラバラになれば、少数与党は救われる。実際に石破首相自身は派閥を持たず、安倍派という最大派閥が消えてしまった自民党で、第4派閥だった旧岸田派と派閥を持たない菅義偉元首相の支持を得て決選投票で勝利した。「少数派ゆえの優位性」については、すでに経験済みといえるだろう。
石破首相は11月29日、臨時国会の所信表明演説で故・石橋湛山首相の施政方針演説を2度までも引用したが、その趣旨を12月24日の会見で、本稿冒頭のように説明した。
国会で野党がそれぞれ議論を交わし、その差を鮮明にすればするほど、政権の延命に繋がるのだ。来年の通常国会がいっそう「熟議の国会」となることを、石破首相が一番願っているに違いない。
(政治ジャーナリスト・安積明子)
安積明子
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