( 244316 ) 2025/01/04 17:39:52 0 00 2024年はSNSの影響力が増大し、既存のマスメディアが「オールドメディア」とされた(撮影:今井康一)
新年を迎えると、これからの1年を展望する番組や記事が増えるのだが、筆者の視点から言えば、そのメディアこそ「変革が問われる年となる」と考えている。
2024年は、オールドメディアに対する不信が噴出し、ソーシャルメディア、すなわちSNSの存在感が大きくなった年だった。
以前からそうした傾向は見られたのだが、2024年、東京都知事選での石丸伸二氏の善戦、さらには兵庫県知事選における斎藤元彦知事の再選により、SNSの力は世論を動かし、選挙結果まで左右する影響力を持つに至ったことが示された。日本に限って言えば、これは過去には見られなかった現象だ。
一方で、テレビや新聞などの、いわゆるオールドメディアへの不信感も、以前に増して強くなっていった。
2025年はこのトレンドがさらに加速するだけでなく、オールドメディア、SNSの両方の変革が否応なしに迫られる年になると考えられる。
■2025年に起こること
1年前を振り返ると、元日早々に能登半島地震が発生した。さらにその翌日の1月2日、羽田空港で日本航空516便と海上保安庁機が衝突事故を起こし、海保機の乗員5人が死亡、日本航空機の乗客14人がけがをした。
2025年に予定されている大きな出来事を見ると、1月にアメリカ・トランプ大統領の就任、4月は「Expo 2025大阪・関西万博」開幕、7月には第27回参議院議員選挙などがある。
昨年10月、石破首相は就任早々、「食べ方が汚い」「外交マナーがなっていない」など、身だしなみや立ち居振る舞いが批判され、SNSで炎上状態となった。今年はそれらに加えて、政治的な言動や手腕もネタにされ、叩かれることにもなるだろう。
今年は、トランプ政権誕生で政治的な議論が世界的に活発化することが予想されるし、日本では参院選もある。政治の話題が大いに盛り上がることが予想される。
昨年11月の兵庫県知事選では、SNSで斎藤氏の応援が盛り上がった。SNS上では、斎藤知事のパワハラ・おねだり疑惑は「既得権益層に陥れられた」という論調が形成され、マスメディアの報道は「偏向している」と叩かれた。
NHKの出口調査では、「投票する際に何を最も参考にしたか」という質問に対し、最も高かったのがSNS・動画共有サイト(30%)で、新聞(24%)、テレビ(24%)を上回った。また、10代、20代の若者層の多くは斎藤氏に投票したことも判明している。
その後、斎藤知事の選挙運動を請け負ったとされるPR会社の社長がSNSでの選挙戦略をnoteに書いて物議をかもし、公職選挙法違反の疑惑が浮上した。
この選挙で「オールドメディアは信用できない」「SNSで得られる情報は真実」という論調も出てきた。しかしながら、ふたを開けると、SNSが真実を伝えているとも限らなければ、偏向していることも多いことが露呈している。
今年は大きな政治的イベントがあるだけに、オールドメディアとSNSが抱える問題は、さらに顕在化していくだろう。
■オールドメディアは「大企業の圧力」で偏向する?
オールドメディアとSNSは対立関係にある、あるいは代替関係にあるという意見も目立つのだが、相乗効果をもたらしたり、相互に補完し合ったりする側面ある。
オールドメディアの報道が一方的な場合もあるかもしれないが、裏を取れない情報や一般人のプライバシーに関することは報道しづらいという面もある。
斎藤知事を告発した元幹部に関する詳しい報道がされないのは、圧力や忖度によるものではなく、死者や遺族に対する配慮からだ。
三菱UFJ銀行の行員による10数億円の窃盗事件に関して、「テレビであまり報道されないのはおかしい」「少額の窃盗事件でも実名報道されるのに……」という声が出ており、SNSでは、それを「大企業の圧力によるもの」として批判する声も目立っていた。
しかし、テレビや新聞が実名を報道しないのは、刑事事件になっていないからで、企業の圧力やメディアの忖度があるからではない。
メディア報道に対する誤解から、SNSでは過度なメディア批判が巻き起こり、事実と異なる情報が拡散してしまうことも多い。そもそも、世の中には事実関係が不明なこと、わかっていても報道できないことは多々ある。その欠損部分をSNSが埋めているところはあるのだが、臆測やフェイク情報も多い。
ファクトチェック、すなわち真偽を確認・検証する役割は、今後もオールドメディアの重要な役割であり、存在意義でもある。問題なのは、そうしたメディアが収益を上げることが難しくなっている点にある。
■オールドメディアは規制に縛られている
自分で取材を行わず、SNSやインターネット、他のメディアの情報をそのまま取り上げて記事にする「こたつ記事」が氾濫している。昨年は、毎日新聞が芸能人の偽アカウントの情報に基づいたこたつ記事を配信して、フェイクニュースを拡散したことが問題になった。
こたつ記事の存在自体は必ずしも全否定すべきものではないが、規制をかけることは必要だ。フェイクニュースを流したり、他人の権利を侵害したりしたメディアには、重い罰則を課するといった措置も必要になるだろう。
SNSやネットメディアが実質的に無法状態にあるにもかかわらず、オールドメディアが規制に縛られている現状が健全とも言いがたい。メディア報道に関する規制は、法規制以外にも自主規制があるのだが、時代に合わない規制は変えていく必要がある。
例えば、選挙に関する報道の制約は、自主規制に負うところが大きい。公共放送であるNHKはさておき、民放各局は自主規制や中立性の大義名分にとらわれすぎることなく、独自の報道をすればよい。
7月の参院選でメディア報道に多少なりとも変革が起きるだろうか? オールドメディアの時代への対応力が問われることになるだろう。
コンプライアンスは重要だが、過度にそれに縛られて個性、独自性を失っていったのが、近年のマスメディアではないかと思う。マスメディアが「オールドメディア」という言われ方をしてしまうのは、技術の面だけではなく、メディアとしての態度の面も大きいように思える。
■2025年、SNSの勢いは「減速する」?
SNSの影響力は年々高まってきているが、昨年の兵庫県知事選でさらに存在価値が高まることになった。しかしながら、筆者としては、SNSの勢いは2025年には減速していくと見ている。
2023年にイーロン・マスク氏がTwitterを買収し、Xに名称変更して以来、海外では広告主の離反の動きが見られている。報道機関も、「偽情報の拡散を許している」としてイギリス「ガーディアン」などの有力紙が、X上での記事公開を中止する動きが見られている。
日本においても、昨年、著名人になりすましたSNS投資広告詐欺で、FacebookやInstagramを運営するメタ社が提訴されている。
過去の例を見ても、メディアが情報インフラとして定着していくには、規制やルールを整備して、健全化する必要がある。SNSは、すでに情報インフラと言える状態になっているにもかかわらず、依然として無秩序な状態のままに放置され続けている。
このままで行くと、Xで起き始めているような、広告主やメディアの離反が起き、利用者からも飽きられ、情報プラットフォームとしての魅力を失っていくのではないかと考えている。
昨年9月、ブラジルで、Xが偽情報を拡散するアカウントの規制に応じなかったとして、最高裁判所が同国内でのサービスを停止する命令を出している。11月にはオーストラリアで、 X、インスタグラム、TikTokなどのSNSについて、16歳未満の利用を禁止する法案が可決している。
日本ではさほどでもないが、海外の多くの国では、SNSが及ぼす悪影響が社会問題としてとらえられるようになっているのだ。
■日本でも「SNS離れ」が加速するか
一方、日本においては、SNSで受けた誹謗中傷に対し、これまで泣き寝入りすることが多かった。しかし、最近では法的措置を取る動きが目立ち始めている。このような潮流が加速していくと、日本でもSNSに対して規制をかける動きが出てくると思われる。
そうでないとしても、今後、広告主やユーザーが離反していく可能性も十分に考えられる。
昨年末、MIXI社が新たなSNSサービス「mixi2」を開始した。これがどの程度普及していくかは現時点では未知数だが、多くのSNSユーザーは、誹謗中傷、フェイクニュース、違法広告が飛び交う既存のSNSの世界に食傷気味になっているように思える。
2025年は、オールドメディアだけでなく、SNSをはじめとする“ニューメディア”も曲がり角を迎える年になると筆者は予想している。また、両者ともにその在り方を根本的に見直さない限り、健全なメディアの未来は拓けないだろう。
西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
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