( 245264 )  2025/01/06 16:43:12  
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自動化されているが使いにくいもののランキングサイトで、鉄道の指定席券売機が2位にランクインしていた。

鉄道の指定席券売機は若い人にも使いにくく、デジタル化の進展に伴い、窓口の閉鎖や営業時間の短縮が起こっている。

JR各社のデジタル手段は使いにくく、ネット予約においても複雑な手続きや入力が要求されており、窓口と変わらない手順がある。

近年の鉄道のデジタル化において本来の目的や利用者の視点が忘れられている面があるとして、利用者の利便性を重視する姿勢が求められている。

(要約)

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券売機(画像:写真AC) 

 

 インターネットで「自動化しているが使いにくいもの」というランキングサイトがあった。統計学的に整理されたデータかどうかはわからないが「音声ガイダンス(コールセンターなど)」「セルフレジ」「スマートフォン注文(飲食店など)」などが挙げられるなかで、鉄道の指定席券売機が2位にランクインしていた。 

 

「確実に人間(有人窓口)がやった方が早いだろあれw」 

「システムが一見さんお断りすぎる」 

 

というコメントが付いていた。おりしも今は年末年始、新幹線や特急など指定席の利用が急増する時期である。 

 

 筆者(上岡直見、交通専門家)は国鉄時代に全線乗りつくしも達成して、いわゆる「乗り鉄」だが、それでも最近のJR各社が提供するデジタル手段は使いにくくて閉口する。先日たまたまJR東日本の北陸新幹線を利用したが、駅では自動音声で、窓口以外の手段をできるだけ利用してほしいと繰り返していた。 

 

「窓口に並ばずゆっくりのんびりと年末年始のご旅行を」 

「できるだけ多くのお客様にスムースにご利用いただくために」 

「自動券売機ではさまざまなきっぷをお買い求めいただけます」 

 

というのだが、そういっておきながらいずれの案内も最後に 

 

「くわしくはホームページで」 

 

で終わってしまうのはいささか投げやりの印象を受ける。それがわかりにくいから窓口に行くのである。まして盆休や年末年始しか新幹線や特急を使わない人にとってハードルが高いのは当然だ。 

 

指定席券売機画面(画像:上岡直見) 

 

 前述のランキングサイトは、その性格や言葉づかいから回答者は若い人が多いと思われる。「有人窓口はデジタル化に順応できない高齢者のため」などという 

 

「例外処理」 

 

的な観点からの評価も聞かれる。指定席券売機は若い人にとっても使いにくい。実際のところ駅の有人窓口に並んでいるのは高齢者ばかりではなく若い人も多い。そもそも、待っている間にほとんどの人がスマートフォンをいじっているくらいだから、デジタル化に順応の問題ではないだろう。 

 

 指定席券売機で「さまざまなきっぷが購入できる」というが、実はそうでもない。上記の画像はJR東日本の某駅の指定席券売機である。東海道新幹線で東京から新大阪まで行き、そこから在来線のJR西日本の特急に乗り継ごうとして「新幹線 → 在来線特急のりつぎ」を選択したが、目的の指定券がどうしても出てこない。何回か試したあげく、券売機にはJR東日本の特急しか設定されていないことがわかった。 

 

 これは利用実態と乖離している。首都圏はJR東日本の営業エリアのなかで地理的に最も南寄りにある。国交省の「全国幹線旅客純流動調査」というデータをみると、首都圏の1都3県からJR東日本の営業エリア内の東北・上信越に向かう人が年間約3000万人に対して、JR東日本の営業エリア外の西方向に向かう人はそれよりずっと多く約4900万人である。 

 

「会社が別だから」 

 

という理由で利用実態に合わない制約を設けるのでは本末転倒ではないか。 

 

 JR東日本の「えきねっと」あるいはそれに相当する各社のインターネット予約システムでは全国の指定券が予約できるので、それを使えばよいという意見もあるだろう。しかし筆者の職場の若い人でもインターネット予約は使いにくくて困るといっている。 

 

 例えば「えきねっと」を開くと乗車駅 → 降車駅 → 月日 → 時間帯 → 人数(おとな・こども)、と入力して列車の検索に進み、きっぷ・座席の種類 → きっぷの種類 → 座席の種類(グリーン車など) → 割引の有無や種類 → 指定券のみか乗車券つきか、のように項目が多い。 

 

 その各項目ごとにも枝分かれがある場合もあり、その意味がわからないと行き詰まる。ひとつでも未入力項目があると「次へ」のボタンはグレイアウトして動けない。場合によっては「はじめからやり直す」になる。 

 

 ようやく次へ進むと「ユーザーID」「パスワード」を求められる。これをクリアして「座席の選択」を決定すると、 

 

お支払方法の選択 → クレジットカードのセキュリティコード入力 

 

でようやく完了する。ネット予約だからといって入力が必要な項目数は窓口と変わらないし、むしろオンライン決済のための項目が増える。 

 

 

掲示物(画像:上岡直見) 

 

 1990年代の後半にインターネットが登場したころ、ある経済学者が 

 

「近い将来にマルチメディア・システム(当時の呼び方)が構築されると、自宅のパソコンから航空券や宿泊が予約でき、航空券が宅配便で届き、クレジットカードによる支払手続きも自動的になされる」 

 

という予測を語っていた(中条潮『規制破壊』東洋経済新報社、1995年)。システム自体は今では当たりまえのこととして実現しているが、傑作なのはオンラインで予約しておきながら 

 

「航空券が宅配便で届く」 

 

である。ただしこれには笑い話にとどまらない要因がある。チケットの宅配はこの著者が利用者の心理を端的に代弁したともいえる。無形の情報だけの予約より現物のチケットが手元にあったほうが「安心」するし、日付・時刻・便名・席番など必要な利用情報を一見して確認できる便利さもあるからだ。 

 

 これは航空券を鉄道の指定券に置きかえても同じである。 

 

 東京駅の新幹線掲示板(上記画像)について、JR東日本とJR東海はデジタル化を進めているが、互換性のないシステムが原因で 

 

「使えません」 

「通れません」 

 

といった表示が目立つ。このような掲示があるのは、実際にトラブルが多いからだろう。利用者にとっては、かつて国鉄時代には全国共通だったものが、分割民営化後に各社の営業エリアを意識して使い分けなければならないのは不便に感じることもある。 

 

 国鉄分割民営化の際には、分割しても不便にはならないはずではなかったのか。 

 

東北新幹線からJR東海の東海道新幹線に乗りかえる改札口(画像:上岡直見) 

 

 次の画像はJR東日本の東北新幹線から、JR東海の東海道新幹線に乗りかえる改札口である。 

 

「EX-IC」とはJR東海のチケットレスシステムであるが、JR東日本側からは「通れません」という。1991(平成3)年6月には、それまで上野発着だった東北新幹線が東京駅までつながってハード的には利便性が大きく改善されたのに、それから30年以上経ってもソフト面がまだこの状態である。 

 

 なお交通系ICカード(Suicaなど)との連携を設定して使う方法が別にあるのだが、面倒なので筆者でもあまり利用する気になれない。 

 

 

輸送人員100万人あたり駅員數(画像:上岡直見) 

 

 JR各社はデジタル化と並行して現業部門の職員削減を急速に進めている。 

 

 図は国交省の「鉄道統計年報」から、JR東日本について輸送人員(年間)100万人あたりの駅員数を示すが、この30年間で約三分の一にまで減っている。 

 

 正社員から派遣社員への置きかえもあるので見かけの減り方はこの数字より緩和されているが、無人駅の増加、窓口の閉鎖や営業時間の短縮、大都市圏でさえホームから駅員の姿が消えるなど、利用者の視点でも「駅員がいない駅」を実感できるだろう。 

 

 乗客にとって鉄道との接点となるのは「駅」であり、その重要性が十分に認識されていないように思える。駅の軽視は、鉄道の運営において大きなリスクをともなう。 

 

 特にローカル線では、JRが駅の無人化を進めるなか、地元の観光協会などが協力して無人化を回避しようとする努力が見られる。例えば、第三セクターの「えちぜん鉄道(福井県)」は、駅トイレの整備など、日常的に利用者を大切にする取り組みを行い、利用者の増加を実現している。 

 

 しかし、最近のJRでは、「乗らなければ乗らないで構わない」というような姿勢が目立ち、少し残念に感じられる。 

 

100万列車kmあたりメンテナンス職員数(画像:上岡直見) 

 

 図は前項と同じく「鉄道統計年報」から、100万車両km人あたりのメンテナンスに関連する職員数(工務・電気・車両)を示す。 

 

 この「車両km」とは、たとえば10両編成の電車が10km走ると「100車両km」とカウントする。車両のメンテナンスはおよそ総走行距離に比例するし、線路や架線も直接的に比例ではないが、やはり線路を通過する車両の総走行距離と密接に関連する。 

 

 駅員と同じく作業量あたりの職員数が約三分の一にまで減っている。これらの技術部門では外注化が進展しているので、必ずしもメンテナンスそのものを三分の一に省略したという意味ではないが、現実には憂慮すべき事態が出現している。 

 

 2023年8月に、神奈川県内を走行中のJR東日本・東海道線の電車が線路脇の傾いた電柱と衝突して乗客と運転士が負傷した事故がある。コンクリート製の電柱の内部損傷が原因であり、経年劣化が進んでいたが点検で発見できなかったという。ローカル線どころかJR東日本の主力収益路線である東海道線がこの状態である。 

 

 

しなの鉄道(画像:上岡直見) 

 

 JRに固有の問題ではないが、日本全体として何か新しいシステムや技術が登場すると、その導入自体が目的化して、本来の意義や利用者の視点が忘れられる傾向がある。 

 

 交通の分野では、たとえば過疎地にデマンド交通システム(路線バスのようなダイヤに従った運行ではなく、利用者の要請に応じて運行)を導入してスマートフォンやPCの予約アプリを提供したものの、本来想定された利用者である住民には使いにくさから電話予約に戻ってしまった等の例が少なからずみられる。 

 

 これを大規模かつ硬直的に展開したのが現在のJRではないか。一方で写真は、JR東日本・北陸新幹線の上越妙高駅から接続するしなの鉄道(新潟県)の駅である。自動改札などのデジタル化は一切なく、むしろレトロ感をアピールして木の改札口を復元しているが、このような感覚も大切だろう。 

 

 ところで前述のようにJR東日本の駅員やメンテナンス要員がこの30年で三分の一になった一方で、役員の数は二倍に増えている。この人たちはどのような役割を果たしているのだろうか。改めて利用者の視点に立ち返ってほしいものである。 

 

上岡直見(交通専門家) 

 

 

 
 

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