( 245279 )  2025/01/06 17:01:42  
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2025年の世界経済の見通しは難解で、専門家たちもトランプ政権の動向など予測不能な要素に警戒している。

米国と中国の関係やトランプ政権の政策が、日本経済にも影響を及ぼす可能性がある。

日本は経済成長率が低く、中国やインドに後れを取る見通しで、厳しい状況にある。

賃金の伸びが鈍く、物価上昇に対して所得増が見込めない状況も課題だ。

日本政府は負担率の増加を予測しており、少子高齢化や人口減少による課題も大きい。

政治の混乱や国際情勢の変化が重なれば、日本経済はダブルパンチに見舞われる可能性もある。

(要約)

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(c) Adobe Stock 

 

 2025年は景気が良くなるのか、それとも悪いのか―。誰もが知りたくなる素朴な質問に専門家たちは異口同音に「難しい」と答える。世界経済は一段と減速するとの見方が広がるが、難解なのは予測不能な「1人の人物」によって振り回されることになるからだ。1月に発足する米国の第2次ドナルド・トランプ政権の動向に世界中のリーダーや投資家、企業が熱視線を送る。経済アナリストの佐藤健太氏は「同盟国の石破茂首相がまだ首脳会談さえできないことは憂慮すべき事態だ。米中の覇権争いは激化し、日本が蚊帳の外に置かれれば『経済大失速』もあり得る」と見る。日本をドン底に落としかねない2025年の最悪シナリオとはーー。 

 

 世界経済の先行きを考える上で欠かせないのは、やはり「トランプ2.0」に伴う変動要因だ。トランプ氏は早くも対中追加関税に踏み切る可能性が指摘されている。「トランプ関税」が現実化すれば中国経済への影響は多大だろう。最大の貿易相手国である中国の失速は、当然ながら日本にも波及する。米国の対中強硬路線は日中関係を良好に向かわせるベクトルとなり得るが、逆に日本政府としては対米関係が微妙となりかねないジレンマに陥る。2025年の日本外交はバランスが難しく、その結果次第で経済の行方がいかようにも変化することになりそうだ。 

 

 米国景気は底堅く推移するものの、トランプ政権の経済政策次第によっては悪影響が生じるだろう。ロシアによるウクライナ侵攻や不安定な中東情勢に関しても、不規則発言を繰り返すトランプ氏がいつまでも黙っているとは思えない。傍観する日本政府をあざ笑うかのように、予測不能なタイミングと方法で「トランプ介入」が炸裂するだろうことは想定しておくべきと言える。 

 

 三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストが12月24日に公表したレポートによれば、米国経済の先行きは「個人消費が引き続き堅調に推移するなか、次期トランプ政権による規制緩和や減税への期待から、家計や企業のセンチメント(心理)の改善が見込まれ、また、緩和的な金融環境を踏まえると、成長ペースが大幅に鈍化する恐れは小さい」と指摘している。実質GDP(国内総生産)成長率の四半期予想では2025年は前年比プラス2.3%を見込む。 

 

 

 世界経済の重要な“プレーヤー”となった中国は、成長鈍化が予想されるところだ。リスク要因に警戒を強める先進国は「中国依存度」を低下させ、サプライチェーンからの脱却を進める可能性もある。その観点から言えば、2025年は貿易転換の年になるかもしれない。いずれにせよ、米国と中国のパワーバランスがどのように変化していくのかを見極めていくことが欠かせなくなるだろう。情けないことに、日本は「待つ」しかない状況なのだ。 

 

 2024年の日本経済は、回復基調を維持した。3月21日の東京株式市場は日経平均株価が4万815円66銭と終値として最高値を更新し、7月11日には初めて4万2000円台をつけた。11月11日には米ニューヨーク株式市場のダウ平均株価も終値として初めて4万4000ドル台をつけ、史上最高値を迎えている。 

 

 2024年1月に新NISA(少額投資非課税制度)がスタートし、家計に眠るお金がNISAマネーとして流入したことで市場は活気を帯びた。大企業を中心に過去最高益を記録するところが次々に現れ、春闘では33年ぶりとなる5%台の賃上げ率を実現。日本銀行は追加利上げを実施し、金融政策の正常化を進めた。 

 

 大和総研が12月20日に公表した神田慶司、田村統久、山口茜、秋元虹輝の4人のエコノミストによるレポートによれば、2024 年の日本経済は「自然災害や自動車の工場稼働停止、実質賃金の回復の遅れなどもあって停滞感が強かった」。同年の実質GDP成長率はマイナス0.1%と主要 7カ国(G7)で最も低い伸びになる見込みだ。 

 

 2025年の実質GDP成長率はプラス1.6%と見込む。「所得環境の改善などにより個人消費が増加に転じるほか、今後 3 年程度で 7 兆円弱の経済効果が見込まれる石破茂政権の総合経済対策も景気の押し上げ・下支え要因になるだろう」というわけだ。 

 

 ただ、日本の名目GDPは2023年にドイツに抜かれ、世界4位に転落。2025年にはインドにも抜かれ、5位となる見通しだ。12月23日に内閣府が発表した推計によれば、2023年の1人あたり名目GDPは3万3849ドルで、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国のうち22位に後退した。2年連続で韓国に抜かれ、1980年以降で最も低い順位となった。 

 

 

 日本は高度経済成長期を経て世界2位の経済大国に成長したが、2010年に中国に抜かれてからは順位を下げてきた。これは他国に比べて経済成長のスピードが遅れているためだ。このまま低成長が続けていけば、「経済大国・日本」との言葉が過去のものとなる厳しい状況にある。 

 

 わが国はバブル経済崩壊後、給与の伸びが鈍化し、横ばいが続いている。内閣府の「1人当たり名目賃金の推移」によると、1991年を100とした場合の1人当たり名目賃金は30年間も横ばいで、2020年は100.1にとどまっている。OECD加盟国で比較すると、日本の給与水準は下位のままだ。2023年のデータを見ると、日本の平均年間賃金は約4万8000ドルで、加盟38カ国のうち25位に位置する。OECD全体の平均給与は約5万8000ドルで、2000年の約5万ドルから着実に伸びている。多くの国で賃金が増える中、その波に日本は乗ることができていない点は忘れてはならないだろう。 

 

 最近の物価上昇は確実に人々の生活に打撃を与えている。日本銀行のまとめによれば、2020年を100とした時の1974年の消費者物価指数は47.5で、2023年は105.6だ。つまり、50年間で物価は2倍超に上昇している。ただ、足元を見ても物価上昇に見合うだけの所得増は十分に実現しておらず、「景気が良くなった」「歴史的な賃上げが実現した」とニュースで流れていても何か感覚がズレていると思う人は少なくないのではないか。 

 

 政府は2024年度の国民負担率が45.1%に到達するとの見通しを示している。国民負担率は国民の所得に対する税金と保険料の合計割合を示す指標で、租税負担率(国税・地方税など)と社会保障負担率(年金や健康保険料など)に分けられる。つまり、日本人の所得の半分近くは税金や社会保険料として徴収されているのだ。負担率は増加傾向にあり、この傾向は今後も続くと予想される。 

 

 日本は少子高齢化と人口減少が同時に進む国だ。生産年齢人口が減っていく一方で、高齢化率は上昇し、増税や社会保険料アップといった負担増が待ち構えている。画期的なイノベーションや構造改革などが起きない限り先行きは暗いと言え、経済規模も縮小していくだろう。 

 

 

 既成概念を突破するような大胆な政策が求められる中で、政策を実現する政治の世界においては与党が衆院で過半数割れとなり、2025年夏には政権交代を賭けた参院選を迎える。その前の春には来年度予算案をめぐる攻防が激化し、石破政権が退陣を余儀なくされる可能性もある。トランプ政権による世界経済への影響が予想される中、国内政局による混乱が生じれば日本経済は「ダブルパンチ」に耐えられる保証はないだろう。 

 

 米中が覇権争いを激化させる2025年、日本がカオスに陥って蚊帳の外に置かれれば「経済大国」の存在感は一気に失われるはずだ。一体、こんな国に誰がしたのか。さらなる負担増で国民の悲痛な叫びが聞こえてこないことを祈りたい。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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