( 246374 )  2025/01/08 18:20:26  
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石破首相の政権は国民の信頼と少数野党の支持が命綱であり、政権基盤が脆弱だ。

その信頼を失った場合、退陣を余儀なくされる可能性が高い。

特捜案件による裏金疑惑や対中警戒度の低さなど、政権を脅かす要素がある。

石破首相は大胆な政策決定をして日本を前進させる必要があり、慎重な対応が求められる。

しかし、石破首相には「退陣」のリスクを背負いつつも、前進するための決断をしてほしいとの声がある。

(要約)

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石破茂首相 Photo:Anadolu/gettyimages 

 

● 政権基盤が脆弱な石破首相の命綱は 「国民の信頼」と少数野党だけ 

 

 毎月上旬から中旬にかけて、大手メディアが弾き出す「内閣支持率調査」。筆者が「石破政権への支持率が何%くらいか」以上に注目しているのが、「石破政権を支持する」と答えた人たちの「石破政権を支持する理由」である。 

 

 たとえば、昨年12月6日から3日間、NHKが実施した調査では、「石破政権を支持する」と答えた38%の人たちの中で、実に3人に1人が「人柄が信頼できるから」と答えている。 

 

 この傾向は他の調査でもそれほど変わらない。読売新聞が12月13日から15日に実施した調査でも、「支持する理由」として、5人に1人が「首相が信頼できる」と回答している。 

 

 裏を返せば、昨年10月の衆議院選挙で敗北し、少数与党で政権運営を余儀なくされている石破茂首相にとっては、国民の信頼を失ったとき、「退陣」を余儀なくされるということになる。 

 

 この先、石破首相が信頼を失くしかねない局面は早々にやってくる。その要素を挙げれば、以下の3つに集約される。 

 

 (1)「政治とカネ」をめぐる企業・団体献金の取り扱い 

=「禁止はせず透明化を図る」程度でとどめると国民の信頼度はガタ落ちになる 

 

 (2)国民民主党との「103万円の壁」見直しに関する調整 

=「178万円」ではなく、「123万円への引き上げ」のままだと国民は失望する 

 

 (3)日本維新の会との高校授業料無償化に向けた調整 

=大学授業料や給食の無償化までいくのか、財源はどうするのかも問われる 

 

 いずれも、衆議院で来年度予算案の採決時期を迎える2月中旬から3月上旬がヤマ場になる。政府・自民党としては安易に野党案を丸呑みすることはできず、かといって、ある程度、妥協しなければ、予算案が通らない厳しい局面になるのは間違いない。 

 

 石破首相からすれば、信頼度の高さと、国民民主&維新の野党2党との協議だけが命綱だ。対応を誤れば、3月危機、あるいは参議院選挙を前にした6月危機の、いわゆる「サブロク危機」が現実味を帯びることになる。 

 

 

● 石破政権の命取りに なりそうな特捜案件 

 

 これら以上に石破政権を直撃しそうなのが 東京都議会の自民党会派「都議会自民党」、そして、「自民党東京都連」による裏金疑惑だ。 

 

 「都議会自民党」で言えば、2019年と2022年に開かれたパーティーでの収入のうち、20人ほどの都議が、ノルマを超えて売り上げた分を政治資金収支報告書に記載していなかった問題が浮上し、「自民党東京都連」でも、2022年から2023年にかけて開催されたパーティー収入の一部が不記載だったことが明らかになっている。 

 

 そのカラクリは、自民党の国会議員による裏金づくりとほぼ同じで、ノルマ以上の売り上げがあった場合、その分を「中抜き」するという手口だ。 

 

 すでに、先月から東京地検特捜部が聴取に乗り出しており、意図的に不記載とした金額が、政治資金規正法違反(虚偽記載)で立件する目安とされる3000万円を超えるようだと、今夏に東京都議会議員選挙と参議院選挙を控えた野党は一斉に攻勢を強め、石破首相自身が違反したわけではなくても、国民はソッポを向くだろう。 

 

● 「玉石政権」で 何も進められない石破首相 

 

 こうした中、石破首相は、1月1日、筆者の古巣、文化放送でオンエアされた「後藤謙次Point of Viewスペシャル 石破総理に聞く~2025年・この国の行方」で、野党第1党の立憲民主党を含む大連立について、「選択肢はある」との考えを示した。 

 

 それだけではない。石破首相は12月28日、大阪・読売テレビで「衆参同日選挙」の可能性について、「参議院選挙と衆議院選挙を同時にやってはいけないという決まりはない」と述べ、1月24日に召集される通常国会で、来年度予算案が否決されたり、内閣不信任決議案が可決されたりした場合、「衆参同日選挙」を行うこともあり得るとの認識を示した。 

 

 これらは、石破首相自ら、1月6日の年頭会見で釈明せざるを得ないほど「踏み込んだ発言」と言える。ただ、自民党内からは次のような声が聞こえてくる。 

 

 「大連立も衆参同日選挙も可能性としては低いですよ。石破さんの発言は、あくまで、政権運営の主導権を握っているのは自分、と強調するためのものでしょ? 最近、この手の発言が多いけど、実際には、『玉石政権』なんだから」(自民党旧安倍派衆議院議員) 

 

 「玉石政権」とは、国民民主党の玉木雄一郎代表(役職停止中)の顔色をうかがわなければ何も前に進められない状況を指す。 

 

 

 振り返れば、安倍1強時代、当時の安倍晋三首相は、消費税の軽減税率で政府方針に異議を唱えた野田毅税調会長を更迭した。岸田文雄首相の時代でさえ、2022年の防衛増税、2023年の定額減税の際には、当時の岸田首相が与党幹部を官邸に呼び、事前の相談もなく、自らの方針を伝達し従わせた。 

 

 永田町のパワーバランスを気象に例えれば、これまでは上記のような「政高党低」(官邸の力が与党より強い状態)だった気圧配置が、今や与党はもちろん少数野党にもお伺いを立てなければ政権が維持できない「政低党高」状態に変化している。 

 

 ある議員は次のように指摘する。 

 

 「そんな状況下で、また裏金問題が浮上すれば、国民の皆さんの批判や野党の攻撃をかわすために、『石破さんには降りてもらわないと』という話になる」(旧二階派衆議院議員) 

 

● 気になる石破首相の 「対中警戒度」の低さ 

 

 石破首相の場合、得意なはずの外交・安全保障でも「?」がつく。その典型的な例が、中国に取り込まれる形での関係改善である。 

 

 11月15日、石破首相が訪問先のペルーで習近平国家主席と会談し、両手で握手を交わしていた頃、筆者の取材によると、北京で両国の外務省高官による極秘での交渉が行われていた。だが、この事実はあまり知られていない。 

 

 その交渉とは、近く、中国が日本からの渡航者に対するビザ免除措置を、また日本も中国からの渡航者に対してビザ発給要件の大幅緩和を決定するための詰めの協議だったとされる。 

 

 外務省関係者によれば、中国側はこの時点でも、「日本がビザ発給要件緩和をしなければ、こちらもビザを免除しない」という姿勢だったが、その約1週間後の11月22日、中国側は電撃的に日本など9カ国に対しビザ免除の再開を発表した。 

 

 双方の外務省高官協議で暗礁に乗り上げていた問題が、わずか1週間で解決したのは、外相を超えるようなレベル、たとえば習氏自らの判断が働いたとしか考えようがない。 

 

 その背景には、中国経済の低迷がある。経済成長率は5%前後(それも数%は上乗せされた数字と言われている)まで落ち、失業率も若者層では15%前後(全体では4700万人が失業)にまで達する中、アメリカで「反中国」を貫くトランプ政権が誕生すれば、その悪影響は避けられない。 

 

 そうなれば、少し気が早いが、2027年10月ごろ開かれる第21回中国共産党大会で、15年ぶりにトップ(総書記)を交代させようという流れになりかねない。 

 

 

 習氏としては、新年の演説で「減速する経済は努力により克服できる」と訴えたり、台湾統一について「誰も大きな流れを妨げることはできない」などと力説したりするだけでは足りず、アメリカでトランプ政権が発足する1月20日よりも前に、日本との関係改善を目に見える形で進め、アメリカとの貿易戦争に備える必要があったのだ。 

 

 そこにうまく乗せられたのが石破首相ではなかったか、と筆者は見ている。自民党総裁選挙で争った高市早苗前経済安保相らと比べれば、けっして「反中」ではない石破首相にとって、安倍元首相とトランプ氏、岸田前首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領のように、習氏と関係強化を図ることは、政権延命にプラスになる。 

 

 その石破首相は、12月25日、岩屋毅外相を中国に派遣し、中国人向けビザの発給要件を大幅に緩和することや富裕層向けに10年有効ビザの新設を約束した。さらに、12月28日、TBS系列の報道番組では、習氏との首脳会談を重ねる姿勢を強調してみせた。 

 

 これらの対中方針は、日本の国益につながることではある。しかし、中国は沖縄県尖閣諸島周辺で依然として領海侵入を繰り返している国だ。反スパイ法などを設け、日本人をはじめ他国の国民の身柄を平然と拘束する国家だ。中国が差し伸べる甘い誘いに容易に乗ることは断じて許されないと思うのである。 

 

● どうせ「退陣」が避けられないのなら 石破首相には大胆さを求めたい 

 

 言うまでもなく、今年は韓国で政権が交代する。アメリカでも、トランプ氏が第47代大統領として復権を果たし、国際社会がトランプ氏の言動に振り回される年になる。 

 

 加えて言えば、2025年という年は、4月に大阪・関西万博が開幕し、ある程度、内需拡大が見込まれる半面、GDPの規模で、昨年のドイツに続き、インドにも抜かれて、世界第5位までランクダウンする年にもなる。 

 

 つまり、2025年という年は、日本にとって、激変する国際社会の中でどう振る舞うか、その立ち位置を決める年であると同時に、「けっして豊かとは言えない国」に成り下がった現状を直視しながら、再び豊かな国になるために動き出さなければならない重要な年ということになる。 

 

 それだけに、石破首相には踏ん張ってもらわなければならない。この先、石破首相が大連立しようが「衆参同日選挙」に打って出ようが別に構わないのだが、何をやっても、つねに「退陣」のリスクをはらみ、「政治とカネ」などで信頼を失う危険性も伴う。 

 

 であるなら、悔いのないよう内政と外交で大胆に「政策通」らしさを発揮して、日本を前に進めてほしい…そう思うのである。 

 

 (政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水克彦) 

 

清水克彦 

 

 

 
 

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