( 246624 )  2025/01/09 06:05:07  
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昨年の紅白歌合戦でのB'zのパフォーマンスは、視聴者や音楽評論家たちの間でダサいかどうかという議論を引き起こしました。

90年代におけるB'zの音楽性はオシャレではなかったという意見もありました。

しかし、2024年のB'zはそのダサさを活かし、音楽シーンに興奮をもたらす存在となっています。

彼らの音楽は、バカバカしさや土着的な要素をストレートに表現し、日本の音楽シーンに欠けていたものを補っています。

他の出場アーティストと比べると、B'zは異質な興奮を提供しており、紅白でのパフォーマンスは痛快で、視聴者のニーズにぴったりと合っていました。

(要約)

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画像はB'z公式サイトより 

 

 昨年の紅白のMVPは、文句なしでB’zでした。朝ドラ『おむすび』の主題歌「イルミネーション」を事前収録で披露。そこで終わりかと思いきや、映像の中から歩いてきてNHKホールに生B’zが登場する演出に観客が騒然となりました。ミリオンヒット「LOVE PHANTOM」、「ultra soul」で完全に場の空気を支配し、まさに一人勝ち状態でした。 

 

 しかし、放送後にネット上でちょっとした議論が巻き起こったのです。それは、B’zはダサいのかダサくないのか。有識者、一般ユーザーから様々な論点が示されましたが、ざっくりいうと、90年代の音楽シーンにおいて、B’zの音楽性はオシャレではなかった、ということです。 

 

 小沢健二や小山田圭吾らの渋谷系、マニアックな黒人音楽をベースにしたサブカルチャーに対して、歌謡曲、産業ロック的なハードロックの解釈は、“ダサい”という認識が出来上がっていたのですね。 

 

 つまり、B’zは意識高い系の人たちから冷笑される存在だったわけです。 

 

 ところが、時は巡り2024年。令和に降臨したB’zは、まさにそのダサさでもって昨今の音楽シーンに欠けている圧倒的な興奮を体現してみせたのだからわからないものです。 

 

 では、B’zが体現した濃厚なダサさとは何なのでしょうか? 

 

 それは、音楽が放つ得体の知れないバカバカしさを真正面からやり切ることです。小ぎれいに、理知的に斜に構えてやるのではなく、堂々と裸の王様のごとく、明るく君臨すること。 

 

 たとえば、「LOVE PHANTOM」の仰々しいイントロはどうでしょう。しかも長い長い。80年代洋楽の大ヒット曲、ヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」に通じるメロドラマ感です。このベタベタのタメがあって、<いらない何も捨ててしまおう>という高速歌謡とも呼ぶべきキラーフレーズが切り込んでくる。この緩急の付け方には、わかっていても抗えない快感があります。 

 

 そして「ultra soul」は、タイトルの時点で勝ちが決まっています。ウルトラとソウル、どちらも語句のビジュアル、響きが強烈です。それぞれ単独で使うのも慎重になるような言葉ですが、B’zは平気で“混ぜるな危険”をやっている。 

 

 さらに、このフレーズに合わせるメロディがとことん土着的なのですね。神輿を担ぐときのソイヤソイヤのような、せり上がってくる日本の民族性みたいなものをこれでもかと刺激してくる。 

 

 このあっけらかんとしたくだらなさ、あけっぴろげな鷹揚さこそが、今の日本の音楽シーンに著しく欠けているものなのです。 

 

 

 これを、他の出場アーティスト、たとえば星野源、藤井風やMISIAらと比べるとわかりやすいでしょう。B’zをダサいとするならば、彼らの音楽性は全くダサくありません。MISIAは非の打ち所のない歌と演奏で平和を祈念し、星野源や藤井風は洗練されたハーモニーと神の視点から人間社会の真理を説きました。視聴者は彼らのパフォーマンスに納得、理解をし、深い共感を覚えたことでしょう。 

 

 しかしながら、それはワケがわからないけど、なんだか体が動いてしまうという、音楽の持つ本来的な力ではありません。“ウルトラソウルッ!!”のあとに、“ヘイ!”だか“ハイ!”だかと叫んでしまう。そんな有無を言わせぬ興奮が、星野源、藤井風やMISIAらにはないのです。 

 

 特に深い意味はないけれども、とりあえず形として、儀式としてやることで、場が収まるもの。それこそが音楽の持つ力だとすれば、彼らの表現は解釈を必要とする局面が多すぎるのです。それは、考察と称される鑑賞に偏った現代の病を象徴しているとも言えるでしょう。 

 

 だから、紅白でのB’z一人勝ち現象は痛快だったのです。祭りや宴のめでたさと華を備えていたのは、彼らだけでした。近年の歌番組に物足りなさを覚えていた視聴者のニーズにバッチリとハマるパフォーマンスを一発回答してくれたのです。 

 

 居合抜きのようなダサさ。 

 

 B’zの凄みを感じた紅白でした。 

 

文/石黒隆之 

 

【石黒隆之】 

音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4 

 

日刊SPA! 

 

 

 
 

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