( 247319 )  2025/01/10 17:04:16  
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2025年は自動車業界が大変革期に向かっており、特に電動化とソフトウェア化が重要視されています。

自動車メーカーの勢力図が変化し、中国メーカーの台頭やソフトウェア化が進展している中、日本勢の技術力や発想力に不安が残ると指摘されています。

ホンダと日産自動車の経営統合を巡る動きや自動車業界全体の動向について解説されており、自動車の電動化やソフトウェア化に対応するために、日本の自動車関連企業が柔軟でオープンな発想力を持つ必要があることが強調されています。

(要約)

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Photo:HONDA 

 

 2025年は自動車業界の大変革がいっそう際立つ年になる。大手メーカーの勢力図の変化に加えて、モビリティーの価値そのものが変化しているからだ。鍵を握るのは電動化とソフトウエア。しかし、日本勢の技術力には不安が残る。何より、もっと柔軟でオープンな発想力が求められるはずだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫) 

 

● 100年に一度の変革期を迎えた自動車業界 

 

 世界の自動車産業が100年に一度といわれる大変革期を迎えている。少し前まで順調だった電気自動車(EV)へのシフトが、米欧で鈍化したことにより、EVシフトに多額の経営資源を投じたメーカーの業績が悪化している。 

 

 その一方、中国では政府の支援策がありEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などへのシフトが進んだ。これを背景に、中国メーカーの躍進は目覚ましく、欧米の有力メーカーを脅かすまでになっている。 

 

 勢力図の変化に加えて、モビリティーに対する大変革も明らかだ。それはつまり、自動車のソフトウエア化だ。AI(人工知能)の急成長や高速通信技術の発達により、走行中のクルマがデータを交換するなど、新しい体験が可能になっている。これまでの走行性能とは違った次元で、自動車の新しい価値を創造しつつあるのだ。 

 

 車載用ソフトウエア開発に関して、わが国メーカーは遅れているといわれる。わが国の自動車関連企業は、今後、どうしたら生き残れるのか。製造技術の成功体験に固執することなく、業界の垣根を越えて、新しい発想の実現に取り組むことができるだろうか。 

 

● ホンダと日産自動車が経営統合を目指すワケ 

 

 2024年は米国や欧州でEV補助金の削減や終了、また充電インフラの不足などもあり、EVシフトが鈍化した。一方でHV車の人気が高まったことで、エンジン車やハイブリッド車(HV)、PHV、EV、燃料電池車(FCV)など多様な選択肢を提示する、トヨタ自動車の“全方位型戦略”が優位になった。 

 

 ただし、中国では政策に助けられてEVやPHVへのシフトは進んだ。中国EV最大手のBYDは積極的な値下げも実施することでシェアを高めた。そのあおりを受けたのが、これまで中国で収益を伸ばしてきた欧米勢だ。米テスラでさえ販売の勢いを失った。米GMやフォードも中国での事業戦略の修正を余儀なくされた。 

 

 そうした大変革期で特に象徴的だったのが、フォルクスワーゲンの大規模リストラだ。創業以来初となるドイツ国内工場の閉鎖を検討するまでに追い込まれた。ただし、労働組合が雇用維持を求め大規模なストライキを行ったことで、経営陣はリストラ計画を縮小するに至った。 

 

 また、ステランティス(アルファロメオ、クライスラー、シトロエン、ダッジ、フィアット、ジープ、マセラティ、オペル、プジョーなど14ブランド)はイタリアでの生産台数を大幅に落としていたことに対して、イタリア政府との関係が悪化した(最新状況では新経営計画で合意)。 

 

 なお、欧米のEV戦略の行き詰まりは、完成車メーカーだけでなく、自動車部品、関連の石油化学、はたまた鉄鋼などにも影響を与えている。 

 

 業界再編も起きた。わが国では、ホンダと日産自動車が経営統合を目指すことになった。三菱自動車も合流する見込み。日産は販売台数の減少を人員削減などコストカットでしのいできたが、業績回復が思うように進んでいない。 

 

 この件では、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)氏の動きも影響したようだ。ゴウ氏は、「自動車は走るスマホになる」と発言し、日産に秋波を送り経営参画を狙ったとみられている。 

 

 

● 電動化・ソフトウエア化の大変革の影響 

 

 自動車の需要はどうなるのか。中長期的には、主要先進国でもエンジン車からEVやPHVなどの電動車へ移行すると予想される。EVの場合、自動車の製造方式はエンジン車における「すり合わせ製造技術」から、デジタル家電などで主流の「ユニット組み立て型」に移行する。 

 

 また、計算方法にもよるが、EVのコストの3~4割は車載用のバッテリーが占めるといわれている。トヨタがバッテリー生産体制を内外で拡充しているのは、エンジン製造技術という比較優位性が低下するリスクがあるからだろう。 

 

 米国では、ドナルド・トランプ氏による新しい政権がスタートする。トランプ氏は関税を重視し、国内で販売する完成車および部品に対して、米国で生産するよう求める考えだ。 

 

 一方、ASEAN諸国ではEV関連のサプライチェーンを整備して産業を育成する動きが活発だ。そして、中国政府は新エネルギー車の生産・販売の支援策を継続する。こうした背景から、自動車生産は、最終消費者に最も近い場所でコストを抑え、需要にあった車種を生産する必要性がこれまで以上に高まっている。 

 

 もう一つ大事なのが、ソフトウエア化だ。米国や中国では、ソフトウエアの更新によって自動車の性能を向上させる技術が実用化されている。AI(人工知能)、光半導体、通信衛星などIT先端技術の進歩とともに、ソフトウエアが自動車の社会的な役割を大きく左右する時代が迫っている。 

 

 ソフトウエアのアップデートによって、バッテリーの寿命が延びる。あるいは、新しいソフトウエアの配布により、自動運転性能や事故回避能力が高まる。こうした高度化により、走っている車同士でデータをやり取りするとか、車内で映画や音楽を楽しむこともできるようになる。まさに、ソフトウエアが、車の新しい価値を創造する。 

 

 あと10年もすると、自動車メーカーの収益源は車両販売後のソフトのメンテナンスが中心になる、と予想する専門家もいる。それに伴い、エンジンなどの製造技術を磨くことよりも、ソフト開発重視へ、自動車のビジネスモデルは変化するだろう。 

 

 

● 日本の自動車関連企業に必要な生き残りの道 

 

 電動化やソフトウエア・ディファインド・カー(SDC、あるいはソフトウエア・ディファインド・ビークル〈SDV〉)に対応するためには、企業の経営体力の強化が欠かせない。日産とホンダの統合は、まさにそうした狙いがあるだろう。 

 

 ただ、事業規模を大きくすれば、生き残れるというわけでもない。それほど世界の自動車業界は単純ではないはずだ。 

 

 今後も自動車の電動化に関して、日米欧中の競争は熾烈(しれつ)化するだろう。特に、中国政府はBYDなどの完成車メーカー、CATLなどの車載用バッテリー、上海エナジーなどのバッテリー部材企業に手厚い支援を実施し、圧倒的なコスト競争力を確立している。 

 

 わが国メーカーが熾烈な価格競争を回避するには、新しい技術をいち早く実用化し需要そのものを創出することだ。全固体電池など新しい技術を使ったモデルを投入できれば、日本の自動車関連企業が電動化に対応することは可能だろう。 

 

 一方で、自動車のソフトウエア化に関しては、日本企業の対応力は今一つ見通しにくい。ハード面のすり合わせ技術では世界的な競争力を発揮したが、アプリ開発などのソフト分野は、日本企業はあまり得意ではないように見える。 

 

 わが国企業は自前主義に固執せず、もっとオープンイノベーションを志向すべきだろう。内外のIT先端企業、自動車関連企業との業務・資本提携や、買収戦略の重要性は高まっている。提携や買収を通して幅広いソフト開発、実用化の選択肢を手に入れることができるはずだ。 

 

 国内の有力メーカーがプラットフォームを構築し、そこへITやソフト開発企業がノウハウや技術を持ち寄る。車両の生産を他社に委託する、水平分業のビジネスモデルを考えるべきだろう。 

 

 環境変化のスピードは、速くなりこそすれ遅くなるとは考えにくい。過去の経験則が当てはまるとは限らない。大切なのは、経営者の迅速かつ的確な意思決定だ。 

 

 判断が遅れれば、国内企業が海外企業に買収され、サプライヤーの削減など産業構造が悪化するリスクが高まる。25年は、自動車大手が新潮流にどう対応するかが、目の離せないトピックである。 

 

真壁昭夫 

 

 

 
 

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