( 247859 ) 2025/01/11 17:44:15 1 00 日本の大手総合スーパーである西友が親会社からの売却を検討されており、複数の企業が入札に名乗りを上げていると報じられている。 |
( 247861 ) 2025/01/11 17:44:15 0 00 Photo by Getty Images
新年早々、スーパー業界をにぎわす話題が聞こえてきた。
大手の総合スーパー(GMS)として知られる西友が、親会社からの売却を検討されているという。各報道によって違いはあるが、売却の入札には海外ファンドの他、PPIH(ドン・キホーテの運営会社)・イオン・トライアルなどが名乗りを挙げているという。
実は、今回の西友売却の一連の顛末を見ていくと、日本の総合スーパーの歴史と現在の業界の姿、そしてその未来を見ることができる(大袈裟に言えば、「教養としての総合スーパー」といえるかもしれない)。
どういうことか。前提として、まずは西友が売却される経緯から見てみよう。
スーパーマーケットとしての西友が誕生したのは1963年。西武百貨店が作った「西友ストアー」が前身で、のちに、セゾングループの中核企業となる。スーパーマーケットは、チェーンオペレーションによって全国均一に商品の大量供給を行えることに強みがあり、特に個人消費が伸びた高度成長期以降、日本各地で熱狂的に受け入れられた。
西友が強豪であるダイエーやヨーカドーなどと、「赤羽戦争」や「津田沼戦争」と呼ばれる熾烈な出店競争を繰り広げたのもこれぐらいの時期だ。
西友は小売業としては、はじめて流通センターを作り、そこを核として各店舗への効率的な商品の配送を行うなど、チェーンストアの目指す「効率化」をいち早く取り入れたことでも有名だ。まさに、ザ・スーパーマーケットだった。
1978年にはファミリーマートの事業を立ち上げ、1980年には西友のプライベート・ブランドとして「無印良品」を立ち上げる。お馴染みのように、この2社は西武グループから独立し、現在も日本の小売業の中核を成している。
その親ともいえる西友は、バブル崩壊によるセゾングループの経営悪化の影響を受け、2000年には住友商事と資本提携を結び、食品スーパーの展開を開始する。しかし、こちらもうまくいかず、2002年からアメリカのディスカウントストア・ウォルマートとの資本提携が決定。特売日を設けない「EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)」などの戦略に舵を切った。
ちなみに筆者は子ども時代、近所に西友があってよく行っていたのだが、ある日突然、店内がスマートになっていて驚いた記憶がある。今思えば、ウォルマート式の効率的な陳列方法になった余波だったのだろう。
2009年にはウォルマートの完全子会社となるが、その歩みは順調とはいえず、2020年にアメリカの投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却。投資ファンドの仕事は、ざっくりいえば不調の西友を購入した上で、別の企業に売れるぐらいの売却額になるまでその経営を立て直すこと。そして、最終的に西友を売ったお金と、買ったお金の差で利益を得る。
KKRのもと、経営再建に取り組んだ西友は、北海道と九州の事業を切り離し、さらに首都圏周辺に経営資源を集中させた。現在は東京の西友だけで全店舗数の3分の1ほどが集中している。そうした経緯もあり、現在の西友の営業利益は他のスーパーと比べても高い。
今回の売却はつまり、投資ファンドが「売ってもいいな」と思えるぐらいまで西友が立ち直った、ということなのだろう。
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特に2000年代以降、西友は流浪の旅を続けてきたといえる。親会社のセゾングループが解体したことが大きな影響ではあったが、そもそも西友のスタイルである総合スーパー自体が時代にそぐわなくなっていた側面も大きい。
一部では、「総合スーパーはオワコン」なんて意見もある。
確かに西友だけでなく、かつて西友とシェアを競い合ったダイエーは2015年にイオンの傘下に入り、実質消滅。そのイオンも、総合スーパー部門では赤字を出しており、ショッピングモール事業などになんとか助けられている状態だ。
好みの多様化により、人々はスーパーのように商品でも衣服でも、日用雑貨でも「とりあえず、なんでもある」ところではなく、いわゆるカテゴリーキラーと呼ばれる専門チェーン店に集まるようになった。また、スーパーがその大きな立地としていた駅前も、郊外化とそれに伴うモータリゼーションによって人が集まらなくなる。
単純にいえば、郊外にあるショッピングモールやそこに隣接する大型専門店に人々が集まるようになったのだ。GMS不調の原因の一つは、アパレルの不調にあるとはよく言われることだが、郊外にユニクロやしまむらの大型店ができたら、そちらに人が流れるのは当然だろう。
また、家族構成の変化も大きい。多世代家族から核家族、そして近年では単身世帯が増加しており、特に一人暮らしの場合は、一人サイズのお惣菜や弁当が充実しているコンビニに客が流れる。
好みの多様化・郊外化・単身世帯の増加などによって、かつてのGMSはカテゴリーキラーやショッピングモール、コンビニにその座を奪われた。
この点でも、西友は象徴的だ。
親である西友が流浪している間に、その子どもであるファミリーマート、無印良品は成長を続けているからである(もちろん、この2社にも危機がなかったわけではないが、GMSよりは調子がいいのは確かだろう)。
いわば、親が老い、子どもが育つようにして、西友自体は斜陽の時代が続いたわけである。
総合スーパーが低調に見えるが、視点をずらせば競争が活発になっている側面もある。後編『西友の“売却先”に大注目が集まる…ドンキ・イオンの時代から「スーパー戦国時代」へと突入する』では、現在の「スーパー」を取り巻く競争の様子と、西友の売却先によっては総合スーパーの勢力図が激変することについて解説する。
谷頭 和希(都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家)
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