( 247874 )  2025/01/11 18:00:56  
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石破茂首相は令和の日本列島改造に取り組むことを表明し、地方移転や防災庁の創設などを進めると述べている。

しかし、その言葉が軽く、内容に深みがないと批判されている。

石破氏は前任者の政策を継承しつつも、具体的なビジョンや国家像が曖昧であると指摘されている。

彼が掲げる「楽しい日本」や「列島改造」が具体的にどのようなものなのか疑問が残るという意見が示されている。

(要約)

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(c) Adobe Stock 

 

 石破茂首相(自民党総裁)は年頭記者会見で「令和の日本列島改造」に取り組むと表明した。新たに創設させる防災庁を含め、政府機関の地方移転などを強力に推進するという。石破氏と言えば、「経済音痴」との評がある一方で地方創生や安全保障政策に通じることで知られる。国民が物価高に困窮し、人口減少社会の到来が日本経済に打撃を与えていく中、石破首相が提唱する「列島改造」は救国の一手となるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「政治家にとって言葉は『命』のはず。だが、残念ながら年頭記者会見を見ても石破氏の言葉はあまりに軽く、怒りを禁じ得ない」と指弾する。 

 

「楽しい日本、これを国民の皆様方と共につくり上げていきたい。『今日より明日は良くなる』と実感し、自分の夢に挑戦し、自己実現を図っていける。そういう活力ある国家であると考えています。第1の柱として、私は令和の日本列島改造と位置づけ、『地方創生2.0』を強力に推し進めていきます」 

 

 1月6日、三重県伊勢市の伊勢神宮を参拝した石破氏は首相就任後初めての年頭記者会見でこのように決意を語った。昨年10月の総選挙で大敗し、少数与党ゆえの安全運転を強いられてきた石破首相だが、さすがに新年を迎えた最初の会見では自らの国家観や理念に基づく「石破カラー」を発揮するだろうと期待した。だが、正直に言って拍子抜けというよりも、「やはり、何もない人なのか・・・」と哀れみに似た感覚を抱いてしまった。 

 

 会見冒頭こそ髪型が変わった、肌質も良くなった、などと年末年始の“イメチェン”に感心していたのだが、内容自体は突っ込みどころが満載なのだ。まず、「今日より明日は良くなる」というフレーズはどこかで覚えがあると思って調べてみたら、2023年9月に岸田文雄前首相が第2次再改造内閣を発足した際に強調した言葉だった。 

 

 もちろん、前首相と目指すべき国家像が同じであれば多用しても構わない。実際、石破氏は昨年9月の自民党総裁時から岸田路線の継承を掲げ、「デジタル田園都市構想」や脱炭素社会を目指す「GX」(グリーントランスフォーメーション)の実現、AIや半導体産業を下支えする10兆円超の公的支援など前政権下の枠組みと変わらない政策を進める。ただ、その先に「楽しい日本」があるとは到底感じられないのだ。 

 

 

 2年前の2023年1月、岸田首相(当時)は年頭記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。同年6月に決定した「こども未来戦略方針」では子育て世帯への給付策を並べたが、若者世代の所得を伸ばすことに全力を傾注していくと言った割には所得環境に変化はほとんど見られず、少子化から反転する兆しもない。あれだけ繰り返した「新しい資本主義」の中身は曖昧のまま終わったのは誰もが知るところだ。 

 

 政治家にとって言葉は「命」のはずだ。ただ、最近の宰相はスローガンで国民を翻弄しているようにさえ映る。岸田氏は自らが率いた自民党派閥「宏池会」の先輩である池田勇人元首相の「所得倍増計画」や大平正芳元首相の「田園都市構想」にならい、「令和版所得倍増」「デジタル田園都市国家構想」などを打ち出した。 

 

 デジ田構想が目指すのは、「都市と同じ又は違った利便性と魅力を備えた、魅力溢れる新たな地域づくり」(デジタル庁)で、デジタル技術の活用によって新たなサービスやビジネスモデルを生み出しながら地方活性化を加速させるものだ。これは自治体の自主性を尊重し、大都市も含めて全体として発展させる「田園都市構想」と共通点が多い。ただ、最近は「デジ田関係」と言えば予算が容易に獲得できるケースも見られ、それがデジタルの恩恵を地域にもたらすものなのか疑わしい例もある。 

 

「令和版所得倍増」が日の目を見ることなく終幕したのは知っての通りである。 

 

 石破氏が目指すという「楽しい日本」とは、「『今日より明日は良くなる』と実感し、自分の夢に挑戦し、自己実現を図っていける。そういう活力ある国家」であるそうだが、その1本目の矢として「令和の日本列島改造」を位置づける意味がわからない。高度経済成長期の長期経済政策と同じことができないように、田中角栄元首相の「日本列島改造」はインフラ整備が進んでいなかった時代のものだ。 

 

 石破首相は具体化のための「地方創生2.0」に関して、「防災庁を含め、政府機関の地方移転、国内最適立地を強力に推進していく」と語った。さらに新たな人流を創出するために「2拠点生活」を支援する意向を表明し、「国の若手職員による2拠点活動を支援する制度を新設する」という。 

 

 

 念頭にあるのは東京圏の一極集中の見直しなのだろうが、これだけインフラ整備もデジタル化も進む日本において地方への逆流が本当に可能であると考えているのだろうか。そもそも人口減少社会で国内のパイが縮小していく中、それを大都市圏と地方圏が奪い合っていてもパイは決して大きくはならない。田中元首相の時代は人口が増加していたが、足元では予想を超えるスピードで減少している。一体、どこを向いて政策を進めようとしているのかと感じてしまう。 

 

 大変失礼ながら、石破首相の言葉は歴代宰相の中でも「軽い」と映る。元日放送のラジオ番組で「(野党との大連立は)選択肢としてあるだろう」と述べていたが、1月6日の会見では「私はそのようなことを1回も言ったことはない。そういう可能性はありますよね、と言ったのであって、何のためにということが明らかにならなければ意味のないことだと思っている」と主張した。 

 

 また、今夏の参院選に合わせた衆院解散・総選挙についても昨年末のテレビ番組で「同時にやってはいけない決まりはない」と思わせぶりに語っていたが、今度は「衆院の意思と内閣の意思が違った時に主権者の判断をいただく。これは憲政の常道であり、それを申し述べたに過ぎない」などと釈明した。 

 

 歯に衣着せぬ言動が「与党内野党」として国民の喝采を浴びてきた石破氏だったが、いざトップの座に座ると“変節”してしまうのであれば残念だ。石破氏は昨年9月の自民党総裁選告示直前の会見で原発政策について「ゼロに近づけていく努力を最大限にする」と語っていたが、すぐに軌道修正。自らが意欲を示してきた「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想や金融所得課税の強化、東京と平壌の連絡事務所設置などは封印したままだ。 

 

 石破氏は昨年12月の参院代表質問で、自身の主張が変節していると指摘された際に「私どもは自由民主党、自由で民主的な政党だ。総裁選で言ったことが、そのまま実現するという仕組みにはなっていない」と開き直りとも受け取れる説明をしている。首脳会議や海外での「マナー」批判はさておいても、一国のトップリーダーが放った言葉が実現していかないのであれば国民は何を信じて耳を傾ければ良いのだろうか。 

 

 

 国民は生活に打撃を与えている物価高や社会保障制度の持続可能性などに不安を抱いている。首相は2020年代に最低賃金を全国平均1500円に引き上げる目標に向け、最大限の対応策を講じるとも語っているが、ハンドル操作を誤れば個人の所得は向上しても中小企業の多くが人件費急増に伴いバタバタと倒れてしまえば逆効果を招く。年金や医療、介護といった社会保障改革も全体像を速やかに国民に提示する必要があるはずだ。 

 

 石破氏が格言を多用する石橋湛山元首相は「最もつまらないタイプは、自分の考えを持たない政治家だ」との言葉をのこした。昨年12月の参院代表質問で首相は「石橋湛山先生がおっしゃる『つまらない政治家』にならないように、よく自重自戒してまいります」と述べている。だが、これまでの石破首相の言動を見る限りは「考え」はあったとしても、釈明や修正を重ね、さらにピントもずれているように感じてしまう。 

 

 衆院で与党過半数割れという厳しい政権運営が続いているとはいえ、いつの日か自らの国家観や理念に基づく「石破カラー」を発揮する時は訪れるのだろうか。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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