( 249209 )  2025/01/14 15:30:03  
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2024年に起こった「令和のコメ騒動」以降、コメ価格は急上昇しており、農林水産省のレポートによると、2024年の取引価格は過去最高値だという。

この価格上昇の背景にはコメの供給量や価格の見通し不透明な状況、そして保管や囲い込みによる売り惜しみなどが影響している。

一部の人々は価格上昇に備えてコメを買いだめしており、消費者も高騰する価格に悩まされている。

農業者や流通業者は相場の変動を見守っており、輸入の動きも注目されている。

コメ業界では情報の伝達にタイムラグがあり、価格の変動を把握するのが難しい状況が続いている。

(要約)

( 249211 )  2025/01/14 15:30:03  
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今年もコメが不足するのか 

 

 2024年に話題をさらった「食」の問題といえば、「令和のコメ騒動」だろう。コメが一時的に手に入らず、多くのメディアにその光景が取り上げられた。しかし、年が明けても、昨夏の「騒動」に端を発し、米価は上がり続けている。高値が高値を呼ぶ狂騒は、いつまで続くのか。【山口亮子/ジャーナリスト】 

 

 新潟県産コシヒカリの業者間取引の価格は最近になり、4万円の大台に乗った。業界関係者はこのことを衝撃をもって受け止めている。新潟県産コシヒカリといえば、産地品種銘柄の頂点に君臨する。コメ騒動が本格化する前の2023年産米だと、農林水産省が公表するその相対取引価格は、1万6927円だった。1年でおよそ2.4倍にはね上がった計算になる。 

 

 そもそも2024年産米の相対取引価格は、全銘柄の平均が2万2700円(2024年9月 )で始まっている。全銘柄の平均が前年までの最高ランクの価格を上回る異常事態だ。農水省は掲載の表の通り、2024年とそれ以前をそのままでは接続できずに、グラフで5500円分を省略する荒技に出た。価格の暴騰ぶりが分かる。 

 

農林水産省「米に関するマンスリーレポート(令和6年12月号)」 

 

 青天井のような値上げの要因には、大まかにいうと次の二つがある。 

 

(1)コメがどこにどれだけあるのか、が誰も分からない 

(2)コメの価格がどこまで上がるか分からないことによる売り惜しみ 

 

 だったら今のうちに買っておこうという人が一部にいて、米価が上がっている。少し硬い言葉で言い換えると、こうなる。 

 

(1)商流の複雑化 

(2)農家や流通業者らによる保管や囲い込み 

 

 まず(1)商流の複雑化から説明したい。 

 

 いま最も焦りを募らせているのは、集荷業者や卸といったコメの中間流通業者である。ある業界関係者はこうボヤく。 

 

「コメがどこにあるか分からない。昨夏のコメ不足もあって、農家から消費者までの商流、商いの流れが複雑になり過ぎている」 

 

 令和のコメ騒動を思い出してほしい。スーパーにもドラッグストアにもコメがない事態に、消費者はどうしたか。ふるさと納税の返礼品に指定する、ネット通販で農家から直接買うなど、あの手この手でコメを調達する人がいた。 

 

 その結果、これまでにあったJAを経由して店頭でコメを買うという商流がかき乱されてしまった。消費者と直接つながる農家は増えている。コメの産地では、これまで出入りしなかった集荷業者が現れていると聞く。 

 

 集荷で最も力を持つのがJAで、その集荷率は2023年産米で前年並みの54%だった。JAはコメを潤沢に持っているというこれまでの常識が、2025年は通用しないかもしれない。2024年産米でこの集荷率を維持するのは、難しいだろう。 

 

 商流の変化は、「米の消費動向調査結果(令和6年11月分)」にも表れている。これは公益社団法人・米穀安定供給確保支援機構が公表している。伸びたのが「縁故米」と呼ばれる「家族・知人などから無償で入手」と、「インターネットショップ」だった。 

 

 米価の高騰で家計が苦しいと被害者意識を持つ消費者もいる。否定はしないが、高騰の一因は消費行動にもあるのだ。 

 

 続いて(2)生産者や流通業者による保管や囲い込み――要は、売り惜しみ――である。令和のコメ騒動で米価が上がった結果、これが起きた。今後もっと米価が上がるかもしれないから、それまで手元に留めようという動きだ。 

 

 稲作農家の経営の規模は拡大している。小規模な農家は一般的に収穫したコメを秋にまとめて売り払う。大規模になると、大きな倉庫を整備する農家が少なくない。年間を通じて出荷できる体制を作り、販路を広げたり、相場が上がったときを狙って出荷したりする。 

 

 そうしたなかに、今後も相場が上がるとにらみ、コメを手元に置く農家が相当数いるとみられる。もちろん、売るタイミングを間違えれば損をする。だから、年明けのコメ相場の情報を固唾をのんで見守る農家は多いはずだ。 

 

 

農林水産省「米に関するマンスリーレポート(令和6年12月号)」 

 

 米価はどこまで上がるのか。今夏、コメが再び不足する可能性はあるのか。現段階でこの二つを正確に予測できる人はいない。 

 

 データから言えるのは、コメの民間在庫が異様に少ないということだ。グラフをみてもらえば、例年通りなら過去最低となった昨年(黄色)を下回るのは確実。 

 

 けれども、この民間在庫は全体をカバーしてはいない。農水省の示す通り〈民間在庫量は、(1)500トン以上の集荷業者、(2)4000トン以上の卸売業者が対象。およそ民間の流通在庫全体の75%をカバー〉するに過ぎない。いまは規模の大きい業者ほど集荷に苦労する傾向にあるので、網羅できる比率が下がっている可能性はある。 

 

 調査対象でない流通業者や農家が果たしてどの程度コメを囲い込んでいるのか。そして、高値を前に消費者がどのくらいコメを買い控えるのか。それによって今夏、コメの棚がどうなるかは変わってくる。 

 

 現段階で読めない変数の一つに、輸入がある。国の制度である「売買同時契約(SBS)」を使えば、1キロ当たり341円という高い関税を払う通常の貿易よりも安くコメを輸入できる。その年間の輸入枠である10万トンは、既に使い果たされている。 

 

 ところが、高い関税を払ってでも輸入する動きが出てきた。国内の相場があまりに高いので、原価が安い外国産米なら関税を乗せても割安で調達できる。実需側の安定調達への不安は大きく、国内の相場次第で今後こうした輸入が増えると見込まれる。 

 

 それにしても、この情報化時代に、主食とされるコメの情報がこれほど表に出てこなくて良いのだろうか。コメを自由に取引できる市場はごく限られるので、業界関係者は相場を把握するために、FAXや新聞、冊子などで届くタイムラグのある相場情報とにらめっこしている。 

 

 何十年も前、あるコメの大産地には、その年の相場を言い当てる山師のような怪しげな人物が出入りし、「神様」と呼ばれたという。東京の情報が地方に届きにくい「情報の非対称性」で荒稼ぎしたわけだが、いまのコメ業界はその時代からどの程度変わったのだろうか。 

 

山口亮子・ジャーナリスト 

愛媛県生まれ。京都大学文学部卒。中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリーに。著書に『日本一の農業県はどこか 農業の通信簿』(新潮新書)、共著に『誰が農業を殺すのか』『人口減少時代の農業と食』などがある。雑誌や広告の企画編集やコンサルティングなどを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。 

 

デイリー新潮編集部 

 

新潮社 

 

 

 
 

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