( 249329 )  2025/01/14 17:41:38  
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住宅ローンや子供の教育費を支払った後、老後資金の準備が待っています。

人生100年時代では、老後資金を用意できない不安を抱える人が多くいます。

記事では、Sさん夫婦の事例を通じて、老後資金と子供への援助に関する問題点と、親が取るべき適切な対応について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説しています。

老後資金が十分でないと感じたSさん夫婦は、子供たちや孫たちに援助することに決めましたが、その結果さまざまな問題が生じました。

(要約)

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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

住宅ローンの返済、子どもたちの教育費の支払い、その次に待ち受けるのは老後資金です。人生100年時代。思っていたよりも老後資金を用意できなかった、退職後が不安という人は多いでしょう。一方で、計画的に貯められたら貯められたで新たな悩みが出てくる人もいるようで……。本記事ではAさんの事例とともに、老後資金と子どもへの援助をめぐる問題点と、親が取るべき適切な対応について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。 

 

[図表]Sさん夫婦の年金 出所:筆者作成 

 

Sさん夫婦は現在69歳の同い年。現役時代は夫を支えながら、妻は扶養の範囲内で働き、2人の息子を育て、67歳で仕事は引退し、穏やかな年金生活を楽しみはじめたおしどり夫婦です。 

 

2人の息子たちは独立し、その後結婚。それぞれに子ども(孫)が生まれ、時折、孫を連れて遊びに来てくれるのも一つの楽しみとなっていました。65歳のとき、いままで勤めていた会社から「後進を育てるためにあと2年、継続雇用で働いてほしい」と懇願されました。特に既往症もなく健康なSさんは、身体もまだまだ動くし、この先なにかあっても息子たちに頼ることにはならないようにと老後資金を増やすためにも働くことを決意。サラリーマン生活を2年延長して頑張ってきました。 

 

67歳になっていよいよ年金生活に。いままで仕事中心の生活で旅行する機会も少なかったため、妻と名所を巡りでもしながら、温泉に入り疲れを癒そうと、2ヵ月に1,2泊程度の小旅行を楽しんでいました。 

 

Sさん夫婦の老後資金は退職金含め4,000万円、住宅ローンは退職金の一部を充て完済しました。年金額は65歳から67歳の2年繰下げし、次のとおりです。 

  

 

 

 

※老齢基礎年金は2024年度満額。老齢厚生年金は差額加算を考慮せず。 

 

〇Sさんの平均標準報酬月額は44万円、530月 

 

〇妻の平均標準報酬月額は18万円、60月 

 

妻の振替加算(昭和32年~昭和33年生まれの妻)は4万620円 

 

Sさん夫婦の年金額は繰下げすることで月額29万円まで増やすことができました。公益財団法人生命保険文化センターによると、ゆとりある生活には月約39万円という調査結果ですが、夫婦2人で老後生活を送るうえで必要と考えられている最低日常生活費をみると、平均額は月額で23万2,000円となっています。Sさん夫婦の年金額は日常の老後生活を送るに十分な額といえそうです。 

 

67歳で年金生活になり、これからの老後と終活、相続も視野にいれ、自分たちの想いを息子たちに伝えておこうと、お盆に帰省してきたタイミングで話をすることにしました。 

 

 

Sさん夫婦は、2人の息子を育て無事独立してくれて安心していること、息子たちには迷惑かけず年金で日常生活を賄えること、ローンもなく夫婦で蓄えた4,000万円のうちおそらく半分は残せること。さらに自宅は売却して半分にわけても構わないことなどを伝えました。 

 

また、自分たちが亡くなった際には、兄弟で争うことなく、残った資産を均等に相続してほしいという想いを伝えます。2人の息子はしっかりと頷き、両親の想いを理解しているようで安心しました。 

 

長男「実は…」 

 

最後に長男が口を割ります。資産の半分は残せるというが、少し前倒しで受け取ることはできないかと聞いてきたのです。なにか困ったことがあるのかと聞くと、「実は……」と申し訳なさそうに事情を話してくれました。コロナを機に給与が減額したのに、物価上昇、住宅ローン、教育費が重くのしかかっているようです。乗り切るまで、援助を頼めないかと懇願します。 

 

Sさん夫婦は専門家に老後のライフプランを相談したところ、現状では余裕があるから安心して過ごせるでしょうといわれています。しかし次男の手前、長男だけに援助するとはいえずに悩みました。すると、やりとりを聞いていた次男も「余裕資金があるなら、俺も先に贈与してもらえたほうが助かる」といいだしたのです。 

 

Sさん夫婦は、人生100年時代といわれるなか、この先、介護など想定外が起こりうる可能性を考えると不安が残りました。しかし、長男は42歳で次男は40歳。現役時代の負担の大きさはSさんたちも経験からよくわかります。困り果てた様子をみると、助け舟を出さないわけにはいきません。そこで、先に援助をする代わりに、自分たちが万一の際には息子たちで協力し面倒をみることを条件に、孫たちの学費を援助することにします。 

 

学費であれば、国税庁のHPにも贈与がかからない財産として「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」とあります。生活費や教育費として必要な都度、直接充てるものに限られます。 

これで息子たちの負担も少しは減らせるだろうと、都度援助することにしました。 

 

 

Sさん夫婦は、自分たちの老後資金を息子たちのために、孫の学費の一部を負担することにしました。多少余裕があるから大丈夫だろうと決心したことでしたが、実はそれだけでは済まされなかったのです。孫の学費援助は始まりに過ぎませんでした。 

 

孫は4人。仮に毎年、学費の半分を援助すると4年制大学の教育費だけでも約1,000万円がかかります。一昨年は年始早々から「孫たちへのお年玉を」と多めに請求されました。昨年に至ってはあからさまにカネの無心に訪れてきたのです。しばらくは都度、援助をしましたが、両親に資産があることを知った息子たちは、さらに生活費の援助までせがむように……。 

 

老後2,000万円問題がマスコミ等で騒がれたように、自分たちの老後資金はこのままでは2,000万円を割ってしまいます。想いを伝えたのは間違いだったのだろうかと、年始早々カネの無心にやってくる息子たちに疲弊するSさん夫婦。また、最近になってどちらのほうが多くもらっているなどと息子の嫁同士がもめていることを知りました。 

 

仕舞いには「こんなことなら老後資金なんて貯めなければ……」と後悔するほどに。しかし、資金が枯渇すればない袖は振れないため、カネを無心にくることもなくなるだろうと、苦笑します。そもそも振る袖すらないほうがよかったのかもしれないと思いました。 

 

Sさん夫婦は、自分たちの資産や想いを伝えることで、息子たちの争いを防げると思っていました。しかしながら、今回はそうではなかったようです。 

 

Sさん夫婦はどうすればよかったのでしょうか。一般的には終活を機に想いを伝えることで、家族はその人の想いを尊重するでしょう。ただ、日々の生活のなかで困窮していると、想いをわかっていながらも、自らの生活を優先しがちです。無心にやってくるのであれば、もう一度きちんと向き合ってみてはいかがでしょうか。 

 

 

 

〈参考〉 

 

令和6年度の年金額改定についてお知らせします 

https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/001040881.pdf  

 

公益財団法人生命保険文化センター 2022(令和4)年度 生活保障に関する調査 

https://www.jili.or.jp/research/chousa/8944.html  

 

国税庁:No.4405 贈与税がかからない場合 

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4405.htm  

 

三藤 桂子 

 

社会保険労務士法人エニシアFP 

 

代表 

 

三藤 桂子 

 

 

 
 

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