( 249886 ) 2025/01/15 17:26:46 0 00 働き控えや「働き損」と指摘されてきた「年収の壁」。労働者が収入を抑えることなく、安心して働ける環境の整備が必要だ(撮影/写真映像部・佐藤創紀)
政府・与党は、年収103万円の壁を「123万円」に引き上げる方針だ。しかしこれで一体、いくら手取りが増えるのか。AERA 2025年1月20日号より。
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結局、溝は埋まらなかった。
年の瀬も迫った昨年12月27日、政府は、2025年度の税制改正大綱を閣議決定し、年収「103万円の壁」を「123万円」に引き上げる方針を盛り込んだ。
一方、国民民主党は「178万円を目指す」との合意をもとに、自公案を「話にならない」と酷評。決着を、今月24日に召集予定の通常国会に持ち越した。
会社員に扶養される配偶者の年収が、一定額を超えると税金や社会保険料の支払いが生じる「年収の壁」。103万円、106万円、130万円などが境目で、年収が範囲内に収まるよう働く時間を調整する人が多く、収入が頭打ちになるだけでなく人手不足の要因とも指摘されてきた。いまこの「壁」が、見直されようとしている。
昨年もっとも話題となった「103万円の壁」。年収が103万円を超えると所得税が発生することから、「税の壁」とも言われる。
■引き上げるのは控除額
所得税には、収入や所得から一定額を差し引いて税負担を軽減する「控除」という仕組みが設けられていて、年収から控除分を差し引いて課税の対象となる額が決まる。控除には、最低限の生活費に課税しない「基礎控除(48万円)」と、経費に当たる「給与所得控除(最低55万円)」があり、合わせると103万円になる。勤め人の場合、これを超えた所得分から所得税が発生する。
この「103万円の壁」を、国民民主が「手取りを増やすために引き上げろ」と主張。基礎控除枠を48万円から123万円まで拡大し、計178万円への引き上げを求めた。こうして昨年12月中旬、与党と国民民主の3党の幹事長間で178万円への引き上げを目指すことで「合意」した。だが、国と地方合わせて7兆~8兆円ほどの税収減が生じる。そこで与党は、基礎控除と給与所得控除をそれぞれ10万円ずつ引き上げ、合計「123万円」にとどめた。
引き上げによる国と地方の税収減は合わせて6千億~7千億円程度だという。
では、123万円に引き上げられた場合、手取りはどれだけ増えるのか。
■「スズメの涙程度」
大和総研の是枝俊悟氏の試算では、年収300万円で年5千円、年収500万円や600万円で年1万円、年収800万円や1千万円で年2万円が減税となり、手取りが増えるという。
「スズメの涙程度」
「ガソリン代にもならんわ」
SNSには、123万円では不十分とする声が溢れた。
これに対し、みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・チーフ日本経済エコノミストは、「123万円は妥当な額」と語る。
国民民主が主張した178万円は、最低賃金を基に算出していた。所得税の課税最低限の103万円は1995年から変わっていないが、これまでの約30年で最低賃金は1.73倍になった。そこで、控除合計額も「103万円×1.73=178万円」にするべきだと国民民主は訴えた。
「一方、インフレに対応して課税最低限を調整する観点からは、最低賃金ではなく物価上昇率に合わせて調整するのが合理的です。1995年と2024年で比較すると食料や家賃など身近な必需品の物価上昇率は1.24倍でした。つまり『103万円×1.24=128万円』となり、123万円は概ね妥当な額です」(酒井氏)
1月に『まさかの税金』を出した、税法学者で青山学院大学名誉教授でもある三木義一氏は103万円の壁の見直しについて、基礎控除を引き上げる動きは「税制のあり方としては正しい」と話す。
「日本の所得税法は、基礎控除によって憲法25条が保障する『健康で文化的な最低限度の生活』に必要なお金には課税できないことになっています。しかし、その基礎控除の金額が年48万円です。年48万円で人間として健康で文化的な生活ができるでしょうか」
日本は1995年から約30年、基礎控除額を全く引き上げてこなかったが、それは「致命的問題だった」と三木氏は指摘する。
「この間、与党一強体制のもとで議論されないまま放置されてきました。それが、少数与党になったおかげで野党の意見についても議論しなければいけなくなってきた。そういう意味でいい傾向だと思います」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2025年1月20日号より抜粋
野村昌二
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