( 250844 )  2025/01/17 16:03:33  
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石丸伸二氏が地域政党「再生の道」を設立し、東京都議会議員選挙に向けて動き出したことが発表された。

記者会見では、石丸氏の独自でユニークなスキームが公表されたが、会見自体が不穏当なものであり、ジャーナリストらの入場制限などの問題もあった。

石丸氏は「都議選のポイント」や「特記事項」、候補者への支援、選考プロセスなどを発表し、石丸氏の構想は従来の政治常識とは異なるものだった。

石丸氏のアイデアは「選挙のゲーム」の攻略法を提案しており、法的観点でも問題がないように思われる。

提案された「再生の道」は政党というより政治塾に近く、様々な新しいアイデアを投入することで政治に刺激を与える可能性がある。

ただし、今回の挑戦は難しいものであり、維新や国民民主党などとの連携が重要となるだろう。

石丸氏の提案は大前研一氏の挑戦とも重なり、新しい政治アイデアの導入が日本政治にどのような影響をもたらすかは未知数である(要約)。

( 250846 )  2025/01/17 16:03:33  
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地域政党「再生の道」の設立を発表し、写真に納まる石丸伸二・前広島県安芸高田市長=15日午後(写真:共同通信社) 

 

 (西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者) 

 

■ 「前菜」は時事通信記者への逆質問 

 

 2024年東京都知事選挙で170万票近い得票で2位に入り、注目を集めた前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が、いよいよ今夏の東京都議会議員選挙に向けて動き出した。1月15日に都内で記者会見を開いたのである。 

 

 本稿ではその概要を紹介し、速報的な所感を述べる。なお記者会見の全容は各種ネットで視聴することができる。これまでの選挙の常識、政治の常識にとらわれない、しかし打ち手としてとてもユニークで練られたスキームが公表された。 

 

 ぜひ読者諸兄姉も自身の目で見てほしい(もちろんそのような紹介の仕方それ自体が石丸氏の構想に資する面もあり、それを見越した周到さも今回の会見というより石丸氏の打ち手の肝であるともいえる)。 

 

 ◎【石丸新党は? 記者会見】なぜテレ朝に激怒? 謎だらけ新党の全容は? 【ReHacQSP】  

 

 そもそも会見の開催自体が不穏当なものであった。もともと都庁記者クラブでの開催が告知されていたが、直前に開催情報がネットなどに漏れたことから、開催場所を変更し、「参加資格」をマスコミと100万フォロワー以上のネット媒体に限定した。 

 

 ジャーナリストは誰でも名乗ることができる。それゆえリスク管理のため制限したのだという。 

 

 会場への入場を巡って入口で押し問答になり、入場を断られたジャーナリストらの批判の声はネットなどでも散見された。 

 

 全体で1時間半強の記者会見は、都庁記者クラブの幹事社である時事通信社への情報漏洩のルートの所在と、ルールをリスク管理の観点から見直すことができるかという逆質問から始まった。 

 

 会場に座っていた時事通信社の記者と思しき人物が回答していたが、これは少々酷というものだろう。日本型組織においてルールの変更をその場で即答できることはよほどの責任者がいない限りは難しい。 

 

 合議体であれば確約どころか回答も難しいことも明らかであろう。石丸氏が知らないはずはないから、いってみればこれはメインディッシュの前の前菜のようなものだと捉えるべきだ。 

 

 居心地の悪い空気とともにこのようなやり取りに10分が費やされた頃、いよいよ「新党」構想の発表が始まった。本会見で発表されたのは「都議選のポイント」「特記事項」「候補者への支援」「選考プロセス」である。その後に会場の記者と質疑が行われた。 

 

 ところで早くもネットの一部に「2期8年厳守が唯一の公約とはいかなることか」「政策がないのはどういうことか」といった趣旨の批判が見受けられるが、筆者の考えではそれらは正確ではない。 

 

 詳しくは後述するが、石丸氏がこの日公表したのは、前述のように4つの「都議選のポイント」、4つの「特記事項」、6つの「候補者への支援」、そして「選考プロセス」であった。 

 

 おそらく石丸氏のスライドの冒頭「概要」に「2期8年厳守」が強調されていたことから「唯一の公約」などと理解したのかもしれないが、それよりもむしろ他のポイントや支援、選考などに実に多くのユニークな内容が示されているだけに、そちらに注目すべきだと思える(「概要」スライドには、「目的」として「地域政党として、広く国民の政治参加を促すとともに、自治体の自主性・自立性を高め、地域の活性化を進める」が、「目標」として「2025年6月の都議選に向けて候補者を擁立する」が、「綱領」として「多選の制限のみ(2期8年を上限とする)」と記されていた)。 

 

 なにはともあれ順を追って概要を紹介しよう。 

 

 

■ 筆者が見た石丸会見のポイントは?  

 

 政党の名称は「再生の道(The Path to Rebirth)」。司馬遼太郎の『坂の上の雲』にインスパイアされたという。東京都から根本的に日本を変えていきたいという想いを込めているという。石丸氏は代表になるが、都議選には出馬しないとのことだ。 

 

 4つの「都議選のポイント」はそれぞれ次のとおりである(いずれも石丸氏スライドから引用)。 

 

 さらに4つの「特記事項」が示される(同じく、石丸氏のスライドから引用)。 

 

 次に発表されたのが、6つの「候補者への支援」の項目である(同じく、石丸氏のスライドから引用)。 

 

 最後に発表されたのが、「選考プロセス」だ。選考プロセスは3次の選抜による。 

 

 1次選考が書類審査、2次選考がテスト(適性検査)、3次選考が面接だという。面接は15分の候補者からのプレゼンを受けて、公開で石丸氏と「1on1」を実施する。就職活動や転職活動になぞらえている様子がうかがえるが、2次選考の当落から公開されるとのことだ。 

 

 選考へのエントリーは即日(1月15日17時〜)可能で、2月16日までの1カ月間が期限。選考通過者の氏名は順次公表していくということらしい。 

 

 以下に質疑のうち、石丸氏が回答した内容を要約しておく(詳しくは会見動画を参照のこと。()内は筆者補足)。 

 

■ 「仕事ができる人」は「会えばすぐわかる」 

 

 いずれも既存の「政党」観とは大きく異なった内容であるがゆえに、多くの人が戸惑うのはよくわかる。特に、国政政党への所属を認めている点や、党として具体的な政策を打ち出すわけでもない点は奇妙に映るかもしれない。 

 

 また選挙に立候補するにあたって必要な供託金こそ党が負担するが、基本的に選挙運動は「候補者が自分で行う」ことが原則だと強調される(しかし、実は当然のことでもある)。 

 

 日本において「政党」は公職選挙法や政治資金規正法などで間接的に示されているに過ぎない。学界などからは「政党法」の必要性が長く主張されている。ガバナンスや在り方を規定するべきだという指摘だ。 

 

 だが、現状はそれがないため、多くの人が想起する「政党」像はこれまで慣れ親しんできた、多くの課題を抱えていると多くの有権者が感じている既存政党の姿を無意識的に反復している可能性は高い。 

 

 言い方を変えれば、「政党法」がない現状において、石丸新党を「政党ではない」と言う批判は道義的なものにとどまらざるをえず、法律に基づいて「政党ではない」ということはかなり難しいのではないか。その意味において「政党」概念が揺さぶられているのは確かであろう。 

 

 ただし、石丸氏も言うように、既存の国政政党、とくに今は姿を消した「第3極」と呼ばれた政党や、現存する地域政党を想起すれば、日本における「政党」が多様な存在であることもまた事実である。 

 

 そのうえで、筆者が考える今回の会見と石丸新党の見どころはどこか。 

 

 

■ 石丸氏が提示した「選挙のゲーム」の攻略法 

 

 「地域政党として、広く国民の政治参加を促すとともに、自治体の自主性・自立性を高め、地域の活性化を進める」という「目的」に正面から反対するという人はそれほど多くはないだろう。地方自治、地方分権、政治参加はそれほど長く掲げられながら、一向に実現せずに、日本社会が大きな閉塞感を抱えていることも明らかだ。 

 

 そのうえで石丸氏が「政治の常識」「選挙の常識」にとらわれない、「政党」の名を冠する、新しい「政治のゲーム」「選挙のゲーム」の攻略法(ハッキング)の方法を提案した点ではないか。結果はわからないが、こうしたアイディアそれ自体が否定されるべきとは思えない。 

 

 しかも「選挙の常識」はさておくとして、管見の限りでは公職選挙法などに抵触しないかたちの提案であるということも重要だ。 

 

 本連載でも言及してきたが、2013年の公職選挙法改正に伴うネット選挙の広範な解禁以後、ネットとリアルを横断する、様々な手法が模索されてきた。 

 

 ◎熱狂を生み出す「SNS選挙」、その裏にある「盛り上がって」「儲かる」テクニックとは? 急がれるネット選挙の法整備 【西田亮介の週刊時評】| JBpress  

 

 「選挙フェス」「ガーシー氏の選挙運動」「石丸現象」「2024年兵庫県知事選」などを並べることができるが、サービスが発展し、テキスト(文字)からイメージ(動画)へ、タイムラインからアルゴリズムへ、という変化のなかで、いろいろな手法が試されたのである。 

 

 それに対して2013年以後、当時の改正法の附則も法的拘束力がないことからないがしろにされ、見直されないまま放置状態で、選挙制度改革は政党主導という慣習のもと、選挙を所掌する総務省もネット選挙の現状に対する評価や検討を表立っては行わないままである。 

 

 そのためそれらはときに制度の想定外利用とも結びついてきたし、そのなかにはいわゆる「二馬力選挙」のように違法性が懸念される手法も登場している。 

 

 石丸提案はユニークで過去の様々な「挑戦」を突き詰めている印象だが、違法性に関する懸念はほぼ見当たらない点は評価できるはずだ。挑戦者が常識にとらわれないユニークな手法を取る(し、取らざるをえない)ことはいつの時代も明らかだ。 

 

 思えば10年近く前、維新が大阪都構想を実現するために国政に進出し、少数政党でありながら民主党政権下で大都市地域特別区設置法を成立させ、2度の住民投票に持ち込んだことなども、当時の「(地方)政党の常識」と大きくかけ離れていたが、現在に至るまでの経緯を通じて日本政治に大いに新しい刺激を与えてきた。 

 

 同様に、新しい政治アイディアの投入それ自体が政治に大きな刺激となるのではないか。なによりそのことが評価できるように思える。 

 

 

■ 「再生の道」は政党というより政治塾に近い 

 

 「再生の道」は「政党」を名乗るが、政治塾などに近い、石丸氏を核とした政治家、候補者の緩やかな結びつきによる「当選のプラットフォーム」と捉えることができるだろう。 

 

 従来の政党よりも候補者へのコミットメントは小さいが、候補者に対する拘束も乏しいことになる。これは既存政党に対する不満を軽減し、候補者本人の自主性と自助努力、自己責任を強調するが、実は国政と異なる文脈を有することも少なくない地方政治においては乱暴だが適合的かもしれない。 

 

 しかも、政策や理念を掲げないことから、細かな調整コストが発生しないことも重要だ。一見、従来、地方政治において国政政党が担ってきた役割が後景に退いているが、自民党や公明党、共産党などを除くと、案外、政党によって、また地方によってまちまちであることから、実質はそれほど変わらないともいえそうだ。 

 

 それでいて、一般的なビジネスパーソンの立候補コストを極力引き下げようとしている点も目を引く。それは石丸氏の主要な支持層と重なっている。 

 

 「即戦力」「仕事ができる人」「転職」「就活と同じ」といったビジネスと親和性が高いフレーズが多用され、選考プロセスも就活や転職活動と類似することが強調され、都議のあとのキャリア、特に民間に戻る場合についての支援を打ち出すことで安心感を醸し出していると考えられる。 

 

 そしてまだ都議会選挙まで半年近くの期間があるが、話題が途切れないゲーム的な工夫が織り込まれている。リアリティ・ショーに馴染んだ世代なら、ついつい関心が向くこと必至ではないか。 

 

 そうはいっても政治や選挙には独自の文脈もあることから、現職や首長、副首長の「優遇」は極めて現実的だ。 

 

 国政政党との重複所属などが現実に機能するかどうかは、むしろ先方の国政政党の意向次第だろう。おそらく重複所属の提案に「乗れる政党」と「乗れない政党」に分かれるはずだ。 

 

 「乗れる政党」は地方政治と国政の結びつき、勢力、既存支持基盤が弱い政党で、換言すれば「乗れない政党」はそれらが強い政党ではないか。例えば自民党や公明党、共産党は石丸提案に賛同し難く、地方議会での規模は限定的だがおそらくは立憲民主党も難しいはずだ。こうした政党は「再生の道」への参加を許容しないだろう。 

 

 それに対して、特に都議会において存在感が小さい維新や国民民主党、都民ファーストなどにおいては考慮の余地があるだろうし、何なら現職や候補者自ら積極的に石丸新党への参加の意欲を見せるかもしれない。 

 

 すでに維新は色気を示し、国民民主党も慎重ながら名指しを受けたこともあり関心を示しているとされるが、本格的な動きが生じるのであれば石丸氏の構想をいっそう加速させるだろう。 

 

 ◎石丸伸二氏の新党 維新・吉村氏が連携意欲「価値観共有している」 | 毎日新聞  

 

 ◎国民・玉木氏、石丸氏新党との連携に慎重姿勢 「全体像見定めたい」 | 毎日新聞  

 

 東京という首都の選挙の行方は直後の参院選や、その後、または同時に行われる総選挙などにも大きな影響を及ぼす可能性があるし、当然石丸氏も様々な展開を視野に入れているはずだ。 

 

 しかし同時に難しい挑戦であることも明らかだ。過去には大前研一氏や勝谷誠彦氏、別のルートではオウム真理教なども首長や国政進出、地方政治進出を試みたことがあるが阻まれている。 

 

 私見では石丸氏の今回の提案は大前氏の挑戦と重なって見えるが、90年代の社会、政治の閉塞感は今ほどではなく、そして地方政治における新しい挑戦を評価する社会的機運も乏しかったようにも思われる。 

 

 令和の現在ではどのように受け止められるだろうか。また仮に石丸氏の構想どおりに事が運んだとして、どのような帰結をもたらすのだろうか。予測はそれほど簡単ではない。そもそも候補者が多数現れるのかも現時点では不確実だからだ。 

 

 もう一点、気になるのは、今回の構想をどのように想起し、練り上げたのかという点である。そこに重要なヒントがありそうな気もする。提示されれば、時間をかければより丁寧にその意味を読み解くことができるはずだが、いつ、どのようにして、こうした構想に至ったのかも気になるところだ。 

 

 今回の立候補には都知事選で集めたおよそ2億円を充てるという旨が報じられている。言うまでもなく相当に無謀な試みである。まずはそのリスクテイキングと日本政界に大きな刺激を与えるであろう石丸氏の挑戦に敬意を表するとともに、たとえ石丸氏の思惑通りだとしても行く末のみならず動向を注視せざるをえない。 

 

 以上、本稿は筆者の取り急ぎのファーストインプレッションだが、本稿公開直前に石丸氏と話す機会に恵まれた。それらも踏まえながら、また遠くないうちに続きを記すことにしたい。 

 

西田 亮介 

 

 

 
 

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