( 250904 )  2025/01/17 17:14:40  
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BYDは、2024年に中国の自動車市場でPHVの展開に成功し、EVメーカーとして急激な成長を遂げた。

2023年にテスラとの差は23万台あったが、2024年には2万台まで縮まった。

業界全体も2024年は分岐点とされ、フォルクスワーゲンやテスラの業績が低迷している中、BYDが急成長を果たした。

中国政府の新エネ車買い替え補助金効果もBYDに恩恵をもたらし、中国の新車市場に占める新エネ車の比率が40.9%に達した。

BYDは中国でPHVとEVの両方を展開し、PHVの人気が高まっていることから、日本市場へのPHV投入も期待されている。

(要約)

( 250906 )  2025/01/17 17:14:40  
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BYDのPHV(写真:BYD公式サイトより引用) 

 

 中国EVのBYD(比亜迪)が、EVの世界販売でついにアメリカのテスラの背中を捉えようとしている。2023年に23万台あった差は、2024年に2万台まで縮まった。 

 

 ただし、同年のBYDの大成長を演出したのはEVではない。EVにはまだ懐疑的だが、ガソリン車には戻れない消費者の間で現実的な選択肢になりつつあるPHV(プラグインハイブリッド)の車種を幅広く展開したことが、BYDの勝ち筋につながった。 

 

■2024年は自動車業界にとって分岐点 

 

 後から振り返れば、2024年は世界の自動車業界にとって分岐点として記憶される年になるかもしれない。 

 

 世界販売台数でトヨタ自動車と世界首位を競ってきたドイツのフォルクスワーゲンの業績が低迷し、同国にある工場の閉鎖まで俎上に上がった。 

 

 右肩上がりで成長を続けてきたアメリカのテスラも、販売実績を公表するようになった2012年以降初めて、年間販売台数が前年比でマイナスとなった。 

 

 国内に目を向ければトヨタ自動車が型式認証不正に揺れ、年末には日産自動車とホンダが経営統合に向けた交渉開始を発表した。 

 

 誰もが潮目の変化を認めざるをえない中、もはやダークホースとは呼べないほど存在感を高めているのがBYDだ。 

 

 BYDの2024年の世界販売は前年比41%増の427万2145台だった。 

 

 BYDは昨年創業30年を迎えた。アメリカの著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイが2008年から投資をし始めた。EVバスでは2010年代から実績を挙げていたが、乗用車メーカーとしては最近までこれといった特徴のない中堅メーカーにすぎなかった。 

 

 コロナ禍前の販売台数のピークは2018年で50万台強。その後中国の自動車市場が低迷し、2020年の販売台数は約42万6900台だった。それが2021年は約74万台、2022年に約185万7000台、2023年は約302万4400台と伸ばし、わずか4年で世界販売が7倍になり、「テスラの唯一のライバルであるEVメーカー」としてのポジショニングを確立した。 

 

 PHVとEVの両方を手がけるBYDは、EVの販売台数ではテスラに差をつけられていたが、2024年はテスラが前年比1%減の178万9226台、BYDは同12%増の176万4992台と僅差に迫った。 

 

 

 テスラのおひざ元であるアメリカでは2023年以降EVの市場が伸び悩んでおり、かねて噂されている低価格EVの発売など、起爆剤が投下されなければ、2025年はBYDに逆転される可能性がある。 

 

■中国でもEV離れの兆し 

 

 テスラすら前年割れした中で、なぜBYDが100万台以上販売を伸ばせたのか。ひとつは主戦場とする中国の自動車市場が2024年も成長を続け、その恩恵を受けることができたからだ。 

 

 中国政府は昨年、景気対策として自動車の買い替えに補助金を導入した。政策効果はてきめんで、中国汽車工業協会が1月13日に発表した2024年の中国新車販売台数(輸出を含む)は、前年比4.5%増の3143万6000台と、過去最高を記録した。 

 

 ガソリン車より新エネルギー車(EV、PHV)への買い替えのほうが補助金の額が大きかったことから、新エネ車シフトは一層加速し、新車市場全体に占める新エネ車の比率は40.9%に高まった。 

 

 テスラの2024年の中国でのEV販売台数も前年比8.8%増の65万7000台と過去最高を記録しており、アメリカの不振をカバーするうえで大きな役割を果たしたことがわかる。 

 

 一方、全体が伸びているので見落としがちだが、アメリカを中心に世界で起きている「EV需要の一服」は、中国も例外でない。 

 

 中国政府がガソリン車と分けている「新エネ車」はEVだけでなくPHV、燃料電池車(FCV)も含まれている。 

 

 2020年以降の中国の新エネ車シフトはテスラが牽引し、EVが中心だったため、新エネ車販売の内訳は2022年までEVとPHVが8:2で推移していた。だが2023年以降PHVの比率が拡大し、2024年の内訳はEVが前年比15.5%増の771万9000台、PHVが同83.3%増の514万1000台で、6:4まで差が詰まった。 

 

 EVのみを展開するテスラに対し、BYDはもともとEVとPHVを展開していた。2024年は「EVはガソリン車より安い」というスローガンを掲げてEVの価格破壊を仕掛けると同時に、PHVの技術革新と車種拡充にも力を注いだ。 

 

 2024年5月に独自のPHV技術「DM-i」を刷新した。フル充電で、ガソリンを満タンにしたときの航続距離を2100キロメートルに伸ばした。 

 

 同技術を搭載したPHV「秦L DM-i」「海豹(シール) 06 DM-i」はそれぞれ9万9800元(約210万円)〜で発売され、大ヒットした。 

 

 

 実際、BYDの2024年の乗用車販売はEVが前年比12%増の176万4992台、PHVが同73%増の248万5378台で、市場全体の伸びと近い曲線になっている。 

 

■日本にもPHV投入か 

 

 BYDが日本に乗用車を投入して間もなく2年になる。これまでEV3車種を投入し、最近、4車種目としてSUV「シーライオン7」を発売することが発表された。 

 

 日本市場ではEVのみを展開してきたため、BYDといえばEVメーカーというイメージが強いが、2024年の乗用車販売の6割をPHVが占めており、「新エネ車メーカー」あるいは「世界最大のPHVメーカー」と表現するほうが正しい。 

 

 PHVはガソリン車からEVへの世代交代の「つなぎ」の車種で、「EVのほうが先進的、高い技術力が必要」とのイメージが中国でもあったが、EVがある程度普及したことによって航続距離や充電時間などデメリットが広く共有されることになり、価格や機能のバランスの良さからPHV人気が高まった。 

 

 BYDは消費者の現実的なニーズを捉えた車種展開をしていたことで、ガソリン車、EV大手のいずれもが失速する中で、100万台以上を伸ばせたわけだ。 

 

 そして最近意匠公報に公開されたBYDの乗用車が、中国で発売されているPHV車種の形状であることなどから、日本でのPHV車種投入も遠くないとみられている。 

 

浦上 早苗 :経済ジャーナリスト 

 

 

 
 

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