( 250934 )  2025/01/17 17:48:11  
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山田幸太郎さんは定年退職まで2か月を残しており、老後資金に関する不安を感じていた。

15年来の付き合いがある銀行の担当者から投資信託を勧められ、安心感から承諾したが、結果的に資産を減らす結果となってしまった。

ファイナンシャルプランナーの青山創星氏は、銀行員からの勧めに盲目的に従うのではなく、慎重に判断し、専門家に相談することの重要性を強調している。

(要約)

( 250936 )  2025/01/17 17:48:11  
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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

山田幸太郎さん(仮名、65歳)は定年退職まであと2ヵ月。老後資金の準備はそれなりにできているものの、「このままで足りるだろうか」という不安が頭をよぎる日々。そんな時、15年来の付き合いがある銀行の担当者から投資信託を紹介されました。「長年の信頼関係がある銀行員さんだから、安心だろう」。その思い込みが、山田さんの老後の夢を大きく揺るがすことに。ファイナンシャルプランナーの青山創星氏が、老後の資産運用の留意点について詳しく解説します。 

 

「山田さん、こちらの商品なら、ご要望にぴったりですよ」 

 

銀行の窓口で、笑顔で話しかけてくる中村課長(仮名)。山田幸太郎(仮名、65歳)さんは15年来の付き合いがある彼に、家族同然の信頼を寄せていました。毎週末には同じ野球チームで汗を流し、お互いの家族のことまで知り尽くした仲。中村課長は山田さんの退職後の生活設計についても親身になって相談に乗ってくれていました。 

 

「山田さんの老後資金、預金で置いておくのは実にもったいない。インフレで目減りしていくばかりですから」 

 

確かにその通りでした。定年まであと2ヵ月。年金は月21万円の見込み。退職金は3,000万円程度になりそうです。決して少なくない金額ですが、医療費の増加や予期せぬ出費を考えると不安が募ります。 

 

「この投資信託はまだできて間もないのですが、2年間の平均利回りは11%です。元本保証こそありませんが、世界の優良企業に分散投資して、安定的な投資成果を目指すものです」 

 

後から思えば、ここで立ち止まって、もっと慎重に検討すべきでした。しかし当時の山田さんは、「銀行の窓口で勧められる商品なら、間違いないはず」という思い込みに支配されていたのです。 

 

退職金が銀行口座に振り込まれた1週間後、山田さんは中村課長の勧めに従い、退職金3,000万円のうち2,000万円を課長お勧めのアクティブ型投資信託に振り向けました。「残りの1,000万円は、緊急用の資金として特別金利の預金に預けておきましょう」という彼のアドバイスも、とても的確に思えました。 

 

最初の3ヵ月は順調でした。評価額は2,100万円まで上昇し、「これなら老後も安心だ」と胸を撫で下ろしていました。ところが、その後の世界情勢の急変で、市場は大きく下落。あっという間に評価額は1,600万円まで目減りしてしまいました。 

 

「中村さん、このままだと大変なことになります。どうすれば……」 

 

しかし、彼の返答は意外なものでした。「山田さん、長期投資なら下がった時こそチャンスです。むしろ、追加で購入するくらいの気持ちで……」 

 

その言葉に違和感を覚えました。これは本当に私のためを考えてのアドバイスなのか? それとも……。 

 

 

この苦境の中、山田さんは地元で評判の独立系ファイナンシャルプランナー、永瀬財也さん(仮名)に相談することにしました。彼は30年以上銀行で銀行の資金運用や投資信託を販売した経験も持つ、まさに「内部事情」を知り尽くした専門家でした。 

 

「銀行員は決して悪意があってこうした商品を勧めているわけではありません。しかし、たとえ別の金融機関にその人にとって最適なものがあるとしても、自身の銀行の取り扱い商品の中から勧めるしかありません」と永瀬氏。 

 

「銀行では、コンプライアンス上のリスク管理という観点から、取り扱う商品数を意図的に制限していることも多いのです。結果として、顧客にとって本当に最適な商品を、その銀行では取り扱っていないということも珍しくありません」 

 

「また、銀行で投資商品を販売している銀行員には、投資のプロはほとんどいません」永瀬氏は、銀行の商品販売の実態について、深刻な問題を指摘してくれました。 

 

「彼らは自身で投資経験が乏しく、商品の本質的なリスクを理解していないことが少なくありません。彼らの知識の大半は研修で得たものに限られており、銀行や職員を投機的な取引のリスクから守るため、実践的な投資経験を積む機会さえ社内規定によって制限されているのです。確かに接客の場面では、研修で徹底的に練習したロールプレイングのおかげで、まるで投資の専門家のように見えるかもしれません。しかし、その理解は表面的なものにとどまっていることが少なくありません」 

 

組織としての課題も見過ごせません。「銀行員には販売目標やノルマが課せられており、時としてそれが顧客の利益よりも優先されてしまうことがあります。もちろん、法令遵守は大前提とされていますが、収益目標達成への圧力は常に存在しているのです」 

 

「決して窓口担当者に悪意があるわけではありません」と永瀬氏は付け加えます。「むしろ、善意で行動していることがほとんどでしょう。しかし、こうした状況があることを前提に、金融機関とは付き合っていく必要があるのです」 

 

 

「ではどうすれば良かったのでしょうか?」という山田さんの問いに、永瀬氏は具体的な改善策を示してくれました。 

 

「投資を始める前に、最も重要なのは慎重な判断と準備です」と永瀬氏は説明を始めました。「誰かから勧められた商品をそのまま受け入れるのではなく、必ず自分で十分に調べるか、独立した投資の専門家に相談することをお勧めします。これは投資の成功を左右する最初の重要なステップとなります」 

 

続けて永瀬氏は、投資の基本設計の重要性を強調します。「投資を始める前に、なぜ投資をするのか、その目的と期間を明確にすることが大切です。特に退職後の資産運用では、中短期的な視点でのリスク管理が極めて重要になります。また、検討している商品の仕組み、実績、リスク、運用実績、純資産総額などを詳しく確認することを忘れないでください」 

 

資金配分については、特に慎重に考慮する必要があると永瀬氏は指摘します。「まず、日々の生活に必要な資金や緊急時対応資金は安全な預金で管理しておく必要があります。決して全資産を投資に回すようなことは避けるべきです」 

 

60代からの具体的な運用方針については、より保守的なアプローチを推奨します。「インフレ対策としては、安全性の高いインデックスファンドの活用をお勧めします。アクティブ型投資信託や個別株への投資は、十分な知識と経験がない限り避けた方が無難です。代わりに、リスクを抑えたバランス型投資信託の検討や、定期預金と国債で基礎的な生活費を確保する方法を考えましょう。また、投資信託を選ぶ際は、手数料の低い商品を厳選することで、長期的なリターンの向上が期待できます」 

 

このように、年齢や生活状況に応じた適切な投資戦略を組み立てることで、より安定的な資産運用が可能になるのです。 

 

私たちは誰しも、長年付き合いのある金融機関や担当者を信頼したいと考えます。しかし、その信頼関係と金融商品の選択は、別物として考える必要があります。特に老後の大切な資産を運用する際は、感情的な判断ではなく、客観的な視点で決定を下すことが重要です。 

 

まずは「銀行の窓口で勧められる商品だから安全」という思い込みから解放されることから始めましょう。どんな商品でも、必ず複数の金融機関で比較検討することをお勧めします。また、投資を始める前には、銀行員ではなく、独立した立場の投資の専門家に相談することで、より中立的なアドバイスを得ることができます。 

 

特に老後資金の運用では、収益性よりも安全性を最優先に考えることが大切です。目先の高利回りに目を奪われず、長期的な視点で資産を守り育てていく姿勢が、結果として良い投資につながるのです。 

 

山田さんのアクティブ型投資信託は、幸い1,800万円まで回復しました。運用の中身を理解しないまま投資したことを反省し、半分はリスクを抑えたバランス型ファンドと変動金利型の国債に、残りの半分は預金に戻すことにしました。損失のすべてを取り戻すことはできませんでしたが、この経験から得た教訓は今後の資産運用に活かされています。 

 

大切なのは、誰かを信じることではなく、自分自身で学び、判断する力を持つこと。それこそが、本当の意味での「安全な投資」への第一歩なのかもしれません。 

 

青山創星 

ファイナンシャルプランナー 

 

 

 
 

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