( 251701 ) 2025/01/19 05:03:34 0 00 筆者が先日買った1玉170円のキャベツ
昨年12月以降、キャベツの高騰を報じるニュースが増えている。実際、SNSではその高さに仰天する人々が続々と写真を投稿している。「一玉580円」に驚いたかと思えば、「1080円」という報告も登場、そうした事例が拡散され、日本全国各地でキャベツの高騰が大問題になっているように感じる人は多いのではないか。だが、本当にそうだろうか? 「全国的なニュースに思えても、地方都市では無縁なこともある」というのは、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者・ライターの中川淳一郎氏だ。中川氏が、当地のリアルな食事情を報告するとともに、メディアの報道姿勢について疑義を呈する。
* * * キャベツの高騰でお好み焼き店やトンカツ店が困っていたりといった報道もありましたが、夏の猛暑、干ばつ、冬の気温が低過ぎたことが不作の原因のようですね。農作物というのはやはり天候が左右するわけで、産地の生産者にとっては死活問題であることが改めて浮き彫りになった形です。
とはいっても、天候というものは地域差があるわけで、あまり影響を受けない地域もあります。今回のキャベツについて、「自分の行動範囲の話とは違うかな……」といった感想を持ちました。春~秋にかけてキャベツは128~198円ぐらいのことが多いですが、毎年冬になると300円台になることも。
それは多くの人が想定していたでしょうが、今シーズンはそれを大幅に上回ったからここまでの話題となったのでしょう。とんかつチェーンでは、千切りキャベツの無料追加サービスをやっているところもあるだけに、今回の件では苦労がしのばれます。
そんな状況でありながらも、私の住んでいる地域ではキャベツが特に高くなっていないんですよね……。スーパーには地元の農家が野菜を持ってきて売るコーナーがあるのですが、先日買ったキャベツは1玉170円。見切り品コーナーには2玉160円という激安キャベツもありました。
一旦市場に流すのではなく、直接農家が持ち込んでいるため、この安さが実現できるのでしょうが、お陰様で安定的にキャベツを含めた野菜を食べることができます。今回の件は、都会の人とメディアが全国的な大騒ぎにしたような面もあるのでは。
メディア業界で働く者としての自戒も込めて言いますが、東京発のニュースが全国に流れるものだから、「都会の事実=全国の事実」のようになってしまうことが多いと感じます。たとえば、南海トラフ地震への備えや台風など天候不順が原因とされる昨年8月の「令和の米騒動」ですが、テレビがスーパーを取材し、空っぽの米の棚を映したことも影響し、全国で米が売り切れる事態になりました。「もうすぐ新米出るから慌てなさんな」なんて冷静な意見は聞く耳を持たれず、「備蓄をしなくては大変なことになる!」と米を買い占める人が続出したのです。
当時はペットボトルの水も軒並み売り切れになりました。アマゾンですら注文ができない状況で、東京に数週間出張で滞在していた私の妻は水を買うことができず、水道水をペットボトルに入れて飲んでいました。
米についてですが、米の生産が盛んな唐津ではスーパーの棚から米がなくなったのを見たことはありません。知り合いに米農家がいる人も多く、市価よりも安く仕入れることも可能なんですよ。30kg単位で「ほら、この玄米持って行きな!」なんて農家から言われることすらある。だから、米不足とキャベツ高騰については「全国的な扱いのようにしないでもらえるかな……」とも思います。豊富に在庫がある場所も取材をし、そこの情報もメディアは流すべきでしょう。
2020年、コロナ騒動初期の頃、「トイレットペーパー不足問題」が発生しました。鳥取県米子市の「米子医療生活協同組合」職員が「トイレットペーパーなどの製造元である中国が生産をしていないので品薄になる前に購入したほうがいい」などとSNSに投稿。その後、中央のメディアがトイレットペーパー不足の店を取材し、実際は豊富に品物が揃っていた店ですら行列ができて本当に売り切れてしまいました。騒動を受けて同組合は謝罪をしましたが、まぁ、テレビの方が影響力は大きい。この職員を一方的に悪者にしない方がいいです。
それほどまでにメディアの影響力は大きいのですが、正直、あんまりそうした情報は真に受けず、“自分の身の回りの事実”を重視してもいいのでは。野菜の高騰が叫ばれるものの、私の場合は知り合いの農家で野菜が育ち過ぎて「取りに来なよ」なんて言われて、白菜・大根・株・ブロッコリーを軽トラに大量に乗せて持ち帰り、街で知人に配ったりもしています。これが私にとっての“自分の身の回りの事実”であり、メディアの中の野菜不足とは無縁です。
【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。
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