( 252224 ) 2025/01/20 05:37:54 1 00 フジテレビに対し、スポンサー企業が広告の出稿を取りやめ始めている状況が報告されている。 |
( 252226 ) 2025/01/20 05:37:54 0 00 フジテレビに対し、企業が広告の出稿を取りやめ始めている。だが、出稿し続けるリスクを考慮すると、企業にとっては真っ当な判断だと言える(撮影:今井康一)
私は以前、東洋経済オンラインでフジテレビと中居正広さんの話題について記事にした。
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そのときにフェアではないと思い記載しなかったが、私はフジ・メディア・ホールディングスの株主である(ちなみに最低の単元株しかもっていない)。
だから私は第三者というより、ささやかな利害関係者とも言える。私はコメンテーター、演者としてフジテレビには数回しか出演したことがないが、その時のプロデューサーやスタッフから受けた印象は総じて素晴らしく丁寧で真摯だったことも、本論に入る前に伝えておこうと思う。
■フジ・港浩一社長が会見
さてこのたび、フジ・メディア・ホールディングスが傘下にもつフジテレビの港浩一社長が記者会見を行った。その記者会見は中居正広さんと女性との、トラブルをめぐっての説明をするものだった。
基本的に定例会見の前倒しという設定だったため、限られたメディアのみが参加した。
なお、これについては他メディアが批判していたが、その他メディア企業が不祥事を起こしたとしても同様だったかもしれないので、私としては見解を保留したい。
しかし、フジテレビの報道に関わる人たちは、大いに困ることだろう。これから何らかの事件で対象を追求しようとしても、「おたくがいうな」と返されるのがオチだからだ。
また、港浩一社長の記者会見は多くの人に不満が残るものだった。基本的に回答は「これから設置する第三者的な委員会に委ねるから、答えられない」という趣旨のものだったためだ。
本来は、企業として人権ポリシーがあって、それを遵守するのが通例だが、今回の答弁では「外部の委員会が悪いと判断するか、善いと判断するか、それに委ねたい」という、主体性を欠いた印象を与えた。なお、私は優しめに書いているつもりだが、手厳しいコメントがSNS等にはあふれている。
なお、この反応はスポンサー企業も同様だった。日本生命保険、トヨタ自動車、NTT東日本や明治安田生命保険、アフラック生命保険がCMを差し止めるとした。実際、すでに同局の一部の番組では、ACのCMが多く見られるようになってきている。
■スポンサー企業の意向と第三者委員会
おさらいだが、メディア企業は、株主のものだ。そしてメディア企業はスポンサーからお金をもらって番組を制作する。メディアはスポンサーばかり気にしていると言われる。
しかし、それはビジネスの構造上、どうしようもない面もある。もっとも大事なのはスポンサーだから、スポンサーの意図を汲まなければならないし、スポンサーがもっとも偉い。繰り返すと、これは構造上の問題である。
次に、CMの差し止めについて触れる。これは同社とスポンサーの契約によるものの、おそらくCMを差し替えてもスポンサー料は戻ってこない。
明確にフジテレビが不祥事を起こしたと証明されたわけではない。ただ、対応の様子を見て総合的に判断した、という意味だろう。番組にCMを出しているスポンサー企業としては、視聴者から「今この状況でも、CMを流し続けている」と思われることがネガティブなのだと、判断したわけだ。
■第三者委員会ではなく「第三者的な委員会」
フジテレビは、日弁連が定義するところの第三者委員会ではなく、あくまで第三者的な委員会であるとした。「第三者の弁護士を中心とした委員会」なのだ。
この二つの定義は、さまざまな論者が解説している。完全に独立して報告内容を自由に発表できる前者にたいし、後者は会社の息がかかる……という説明は単純すぎるかもしれない。
ただ、港浩一社長があえて日弁連的な第三者委員会ではないと断ったため、「自社に有利な調査になるのではないか?」と懸念を抱かせるには十分だった。
これはフジの背景とはだいぶ異なるとわかっているが、企業と広告をめぐる事案と思い出されるのが、「Stop Hate for Profit」キャンペーンだ。2020年にFacebookがヘイト発言を放置していたことから、始まった「Stop Hate for Profit」キャンペーンである。
さきほどメディアはスポンサーがもっとも偉いと書いたが、ネット関連企業も同じだ。広告ビジネス以外に、有効な収益源は発明されていない。だからテレビと同じく、スポンサー企業が重要だ。
大手でいえばコカ・コーラ、スターバックス。日本ではホンダなどが同プラットフォームへの出稿を一時とりやめた。新たな広告チャンネルへの出稿検討が加速。これによりFacebookのポリシーは変更を余儀なくされた。
スポンサー企業も、株主のものだ。株主からすれば、懸念のあるメディアに出稿することは企業価値が毀損するように映る。またスポンサー企業のブランディングが陰るとも印象を受ける。
また、SDGs/CSR/ESGの時代のなかで、誤ったメッセージを消費者に与えかねない。もし社会的によろしくない行為によって成立している取引先があるとする。その取引先によって自社が成り立っているとすれば、そもそも自社のビジネスモデルが成り立っていないということである。
■真に恐れるは差し替えではなく、広告の無期限停止
今回、フジの件はどうだろうか。
企業の宣伝広告の担当者は良くも悪くも、会社員である。しかも、日本では横並びを美徳とする。「メディア企業の不祥事がありました。『消費者から、なぜスポンサーを続けているのか』って質問されたらどう答えよう。しかも、大手企業が次々とCMを差し止めている」とわかったら、慎重派なスポンサーは同様にCMを差し止める判断をくだすだろう。
そして、フジテレビにとって真に恐ろしいのは、差し替えではない。次の契約タイミングまでに改善が見受けられなかったとスポンサーが判断した場合に、「広告の停止」という措置も十分ありうることだ。
とくに、「こだわりはないが、一定割合はフジテレビに」といった温度感で出稿し続けていた場合は、停止の口実を与えることにほかならない。
他局への振替えもあるかもしれないが、それよりも一つのきっかけになって、SNSなどネットメディアへの出稿を増やすかもしれない。
■さらなる影響が広がるか
なお、これはフジだけの問題だろうか。これから、もしかすると他のテレビ局で同様の嫌疑が報じられるかもしれない。また、それは深刻で業界全体の宿痾(しゅくあ)と化すかもしれない。
さらにネットメディアも同様に報じられたらどうだろうか。これは、他局やネットメディアで同様の事態が生じている、といいたいわけではない。あくまで可能性の問題を指摘している。
となると、結論は凡庸なものになる。
まず、怪しげな行動、悪しき行動をする社員はどんな組織にもいる。その性悪説に立ち、問題はそれらを指摘・告発できる体制があるかどうかだ。部門と部門で牽制しあうとともに、内部からの告発を受ける仕組みがなければならない。企業は監査役がその立場を担う。内部からの告発を受け、監査役は企業の浄化を試みる。
小さなことだ、よくあることだ、と放置すると、積年のあとに大変な事態になり企業の存続に関わる。だから内部告発を積極的に受けて対応することは、むしろ実利的なことである。これは商道徳とか商倫理といった難しい言葉ではなく、たんに実益につながる。
こう書くと私はフジが悪いことをやっていた、と断言していると思われるだろう。しかし、そうではない。まだ疑惑段階。疑わしくは罰せず、が基本だ。
むしろ、フジには徹底的に透明に、そしてめちゃくちゃ厳しい弁護士らを第三者委員会として採用し、異常で執拗なほどに調査をしたほうがいいのではないか。どのような結果が出てくるにせよ、それこそが、中長期的なスポンサーの意向にも合致すると、私は思うのだ。
「面白くなければテレビじゃない」はいったん忘れて、「あらゆるセクションの、あらゆる階層の社員にヒアリングして、徹底的にやりすぎでしょ」と、真面目すぎるくらいの調査をして、信頼の回復に努めてほしいものだ。
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坂口 孝則 :未来調達研究所
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