( 252534 )  2025/01/20 18:15:15  
00

神戸市長の久元喜造は、「晴海フラッグのような街にはしない」と強い意志を示しました。

神戸市では、タワーマンションの空き部屋の問題に対処するため、所有者に新たな税負担を求める「空室税」を導入する方針を打ち出しました。

これは日本初の試みであり、専門家会議では意見が分かれたものの、市長は積極的な姿勢を示しています。

タワーマンションの空き部屋が増え、将来的には廃墟化する恐れがあるため、この問題に取り組む必要があるとされています。

(要約)

( 252536 )  2025/01/20 18:15:15  
00

久元喜造・神戸市長は神戸を「晴海フラッグのような街にはしない」と強い意志を示した(写真:アフロ) 

 

 タワーマンションが空き室だらけになり、廃墟になるのを防ぐためとして、神戸市が空き部屋の所有者に新たな税負担を求める方針を打ち出しました。いわゆる「空室税」です。実際には居住しない投資目的の購入者が増え、実際に住みたがっている人を追いやっているうえ、将来は“廃墟化”するのではないかとの懸念が強まってきたからです。「空室税」が具体的に検討されるのは日本で初めてのこと。有識者会議の議論では慎重意見も出ましたが、神戸市長は導入に前向きです。「空室税」をやさしく解説します。 

 

 (フロントラインプレス) 

 

■ 神戸市長「晴海フラッグのような街にはしない」 

 

 「タワマンには非居住部分がかなりある。居住目的で住宅の取得を希望する方が適正な価格で取得できない、非居住戸数が多いと(なると)、貴重な住宅ストックが活用されていない(ことになる)。この問題意識は、私も共有をいたします」 

 

 久元喜造・神戸市長は年明け最初に行われた1月10日の記者会見で、このように語ったうえで、東京のタワマン「晴海フラッグ」(東京都中央区)を名指しし、「あの晴海フラッグのような街には、神戸はしない、したくないという思い」と強調しました。 

 

 晴海フラッグとは、東京オリンピックの選手村を改修して居住用とする高層マンション群です。13ヘクタールの広大な敷地に、分譲住宅や商業施設など24棟を建設。総戸数5632戸、約1万2000人が住む分譲マンションとしては日本最大規模になる計画です。 

 

 ところが、入居開始から半年が過ぎた2024年6月時点で、完成済み17棟・2690戸のうち、3割以上の943戸に住民票の登録がなされていなかったことがNHKの調査報道で明らかになりました。住居として利用されていない部屋は、ほとんどが法人による購入で、中国を筆頭に海外勢による購入も目立ちます。 

 

 ほとんどは投資目的とみられ、賃貸物件として運用されているのは300戸以上。転売も続出しているほか、物置などのレンタルスペースとして貸し出す例や、部屋を細かく区切って住居用に貸し出す例もあると報告されています。 

 

 タワマンの“晴海フラッグ化”は、晴海フラッグだけで生じている問題ではありません。神戸市もタワーマンションが多いことで知られています。 

 

 そのため、神戸市は大学教授や弁護士らの専門家でつくる「タワーマンションと地域社会との関りのあり方に関する有識者会議」の場で、2024年5月から総合的なタワマン施策を検討してきました。その最終報告のなかで、同会議は対策の1つとして「空室税」導入を提言したのです。 

 

 

■ 高層階ほど「空室」、円安で中国・台湾などアジアの富裕層殺到 

 

 タワマンの施設やコミュニティをどう持続させるかという課題を中心に話し合いが続きました。そのなかで中心課題となったのが、非居住者への対応です。 

 

 タワマンでは一般的に、高層階にいくほど住民登録のない部屋の割合が高くなることが知られています。実際には居住せず、投資やセカンドハウス目的で所有するケースが続出するのです。神戸市も同様です。 

 

 有識者会議の公表資料によると、2024年5月時点で神戸市のタワマン64棟(高さ60メートル超)・総分譲戸数1万1216戸のうち、住民登録のない部屋の割合(空室率)は平均16.6%でした。ところが、階層が上になるにつれ、空室率は上昇。20〜29階では19.3%、30〜39階では21.2%。40階以上になると、空室率は33.7%に跳ね上がりました。 

 

 全国調査でも40階以上の空室率は37.8%に達するなど、神戸市とほぼ同じ傾向を示しています。長期的な円安トレンドの影響を受け、中国や台湾などのアジア勢を中心に日本の高層マンションを投資目的で購入する例が長く続いているのです。神戸市の調査でも、高層階の区分所有者には、遠隔地に住む富裕層や法人が目立ちました。 

 

 こうした続くと、タワマンの施設やコミュニティの持続が困難になる、というのが有識者会議の結論でした。非居住者が増えると、住人による合意形成が難しくなります。修繕積立金が十分に確保できず、実際に入居している人の負担が増える恐れもあります。そうした結果、将来の大規模な修繕工事などが困難になると警告したわけです。 

 

 空室税の提言に至る議論では、会議の委員から「法令上、所有者はタワマンに住む義務がない。『住んでいない』ことで負担を求めるのが適切か」といった慎重意見も出ましたが、「非居住が増えると、合意形成の障害となり、将来的に廃墟化を招く」「非居住でも一定の行政コストがかっている。まちづくりの観点からエリア全体の価値を上げるため、コスト負担などを求める必要がある」といった声が大勢を占めました。 

 

 

■ 全国に広がる廃墟化の懸念 

 

 非居住による“廃墟化”の懸念は、タワマンに限ったことではありません。ブームが過ぎ去ったリゾート地のマンションや、低層であっても築年数が経過したマンションでは所有者の合意形成が難しくなっています。 

 

 こうしたことから、政府や地方公共団体では、マンションの将来をどうすべきかを考えた施策が動きだしています。 

 

 先陣を切ったのは東京都豊島区です。地域のマンションが廃墟マンションになる前に打つ手はないかと考え、2012年に「豊島区マンション管理推進条例」を制定し、 全国で初めて管理状況などの届出を義務化しました。 

 

 その後、大都市圏の公共団体で追随例が続き、東京都も2019年に「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」を制定しました。施設の老朽化と入居者の高齢化という「2つの老い」を乗り切るためです。 

 

 この都条例では、1983年以降に建設された総戸数6戸以上のマンションに管理状況の報告義務を課しました。実際の届け出が始まったのは、2020 年から。対象となるマンションは約1万4000棟になるとされています。どのような対策を取るにしても、現況を把握しなければ何も始まらない、というわけです。 

 

 目的タワマン高層階の非居住とは様相が異なりますが、非居住者だらけになって強制的に取り壊されたマンションもあります。その一例が滋賀県野洲市の全9戸の分譲マンションで、取り壊しは2020年のことです。このマンションには管理組合がなく、所有者も実際に住んだことのない人が大半。老朽化が進み、外壁や外階段が崩れ落ちても、修繕は行われていませんでした。 

 

 当時の報道によると、野洲市は空き家対策特別措置法に基づいて区分所有者に解体命令を出しましたが、所有者の半数は行方不明だったそうです。最終的には行政による「代執行」で建物は取り壊されましたが、1人あたり約1300万円、総額1億8000万円に上る解体費用が所有者に対して請求されました。 

 

 

■ 神戸市議会の議論に注目 

 

 神戸市の空室税は、こうした事態に陥る前に廃墟化を食い止め、マンションと周辺のまちづくりを適正に行う狙いがあります。 

 

 冒頭で紹介した記者会見で、神戸市長の久元氏は「(タワマンの)空き部屋を抑制する。そのための法定外の税の創設を(有識者会議に)提言いただいている。この問題意識は私も共有している」と述べました。 

 

 地方公共団体には地方税法が定める税目(法定税)のほかに、条例を制定して税目を新設する権利があります。これを「法定外税」といい、最近の導入例では「宮島訪問税」(広島県廿日市市)や「宿泊税」(北海道倶知安町や福岡市ほか)などがあります。神戸市が空室税を設ける場合も条例の制定が必要で、今後、神戸市議会で本確定な議論が始まる見込みです。 

 

 「神戸を晴海フラッグのような街には、神戸はしない」という市長の決意は、タワマン関係者や購入者、そして市民の同意を得られるのでしょうか。 

 

 フロントラインプレス 

「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。 

 

フロントラインプレス 

 

 

 
 

IMAGE