( 252734 )  2025/01/21 04:55:01  
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ドイツでは再生可能エネルギーの普及を進める一方で、電気代が高騰しており、電力不足が懸念されている。

原発や火力発電所の閉鎖により脱原発・脱石炭が進んでいるが、風や太陽光発電の偏在や需要と供給のバランスの崩れにより電気価格が急騰している。

複数回の電力不足やブラックアウトの危険もある状況となっている。

再生可能エネルギー事業者は固定価格で電力を買取されるため、利益を上げているが、電気料金は高騰し、産業界や国民はエネルギー政策の重荷を感じている。

ドイツは再エネ普及に巨額のコストをかけており、結果として電気代の高騰や経済の疲弊が起きている。

このような状況について、作家の川口マーン惠美が指摘している。

(要約)

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ベルリン・ミッテのテレビ局RTLのスタジオで、「RTL Direkt」のインタビュー収録に臨むドイツのオラフ・ショルツ首相=2025年1月15日 - 写真=DPA/共同通信イメージズ 

 

■スポット価格で1MWhあたり「15万円」に 

 

 再生可能エネルギーを推進している人たちは、「太陽は請求書を送ってこない」とか、「風はヨーロッパのどこかで必ず吹いているから確実、しかもタダ」などと言っているが、どちらも正しくない。 

 

 ドイツの原発や火力発電がちゃんと動いていたころ、国内電力市場での1MWhのスポット価格は40〜60ユーロだった。それが今では100〜150ユーロと高止まりになっている。それどころか、11月6日午後には、一時的に820ユーロに跳ね上がり、さらに12月13日には936ユーロ(15万円)と新記録を樹立〔欧州卸電力取引所(EPEX)の公表〕。誰が見ても異常な値動きだ。 

 

 これが即座に国民の電気代に反映するわけではないにしろ、すでに現在、ドイツの電気代は家庭用も産業用もヨーロッパ一高い(世界一?)。そして、今後もさらに上がっていくことが確実視されている。なぜ、こんなことになっているのか? 

 

 ヨーロッパでは電力統合が進んでおり、網の目のように張り巡らされた送電線を通じて、常に電気の売買が行われている。ただ、発電量が細ると、当然、電気は奪い合いとなる。 

 

■脱原発の次は脱石炭に猛進しているが… 

 

 ヨーロッパでは、毎年、冬に数回、10日間ぐらいずつ、スカンジナビアからポーランド、南はイベリア半島までぴたりと風が止む時期がある。今冬は、昨年11月の初めと12月中旬、さらに暮れから今年にかけてと、3度もそれが起こった。もちろん、この時期は太陽もあまり照らず、太陽光電気は昼間でも限りなくゼロに近い。当然、ヨーロッパ中で電気の値段が高騰した。 

 

 その値上がりに拍車をかけているのが、EU一の大国ドイツだ。23年4月に脱原発を完遂したドイツは、現在は果敢に脱石炭を遂行中。昨年の春には400万kW分の石炭火力を廃止した。一方、頼りにしていた天然ガスもウクライナ戦争以来、常に逼迫しており、それどころか、今年からはほとんど入らなくなるともいわれている。つまりドイツでは、お天気に影響されない電源が恒久的に不足している。 

 

 そのため昨年の凪のとき、一時、ブラックアウトの危機が迫ったらしいが、一般のニュースはそれには触れず、「ヨーロッパは高気圧の影響で、全体的に霧のかかった穏やかな気候」と報道していた。電力供給に関しては、国民を不安がらせないのが、緑の党の応援団であるドイツの主要メディアの最大の課題だ。しかし実際は、その「穏やかな冬日」には電気が不足し、ドイツのみならず、ヨーロッパ中の電気の小売業者が一斉に調達に回った。 

 

 

■政権交代しても再稼働できないよう「爆破」 

 

 ただ、ドイツは原発を止めて以来、一転、巨大な電気輸入国に変貌。特に昨年の12月は、ブラックアウトを避けるためとはいえ、金に糸目をつけず、ヨーロッパ中の電気を強力な掃除機のように吸い込んだ結果、高止まりしていたヨーロッパの電気価格をさらに押し上げた。 

 

 ただ、他の国にしてみれば迷惑千万。実はEUには、電気が逼迫しても自国で囲い込まずに融通しあうという決まりがあるものの、ドイツは別だ。快調に動いていた原発をわざわざ止め、最新のハイテク石炭火力まで強引に減らしていっているドイツで電力が足りないのは自業自得だと、誰もが考える。しかも、将来、政権が入れ替わっても再稼働できないよう、停止した発電所の一部を爆破までする念の入れようなのだ。 

 

 それなのに、足りないと言っては他国の電気を買い漁り、需給バランスを乱すのは許せない。特にノルウェーやスウェーデンでは、12月の半ば、スポット価格が一時的に普段の200倍ぐらいに跳ね上がり、両国の担当大臣らが激怒した(スウェーデンのエネルギー相はドイツを名指しで非難)。 

 

■ついに孤立してしまった“EUの盟主” 

 

 一方、現在、ドイツへの最大の電力輸出国であるフランスも同様で、ここでは右派と左派が異例の協調姿勢をとって、欧州電力市場からの撤退に言及し始めた。ドイツが引き起こす電気の逼迫や高騰がフランス産業界の足を引っ張っているというのは、決して嘘ではない。しかも、フランスの家庭は電気の暖房が多く、特に極寒期は原発の老朽化もあり、そうでなくても政府は毎年、電気の安定供給に心を砕いている。つまり、これ以上ドイツの身勝手に付き合って、経済負担を負わされたり、供給の綱渡りをしたりする余裕はないということだ。 

 

 その他、チェコやポーランドは、ドイツの電気が勝手に国境を“通過”できないよう、自らで制御できる装置を設置したりと、ドイツはすでにヨーロッパで孤立している。皆がいつまで助けてくれるか、心もとない限りだ。 

 

 では、そのドイツの国内はどうなっているかというと、当然、国民も産業界も、無意味な“エネルギー転換”政策に苦しんでいる。莫大な補助金を費やしてせっせと増やした太陽光や風力は、それぞれすでに8700万kW、7200万kWという膨大な設備容量を誇るが、しかし、太陽も風もない時には何の役にも立たない。しかも、停電を回避するためには必ずバックアップ電源が必要となるため、完全な二重投資だ。 

 

 平たく言うなら、再エネは増えれば増えるほど、電気代が高くなる。大量の蓄電が可能にならない限り、この問題は解決できない(工場や電車を動かせるほどの大量の蓄電は、今のところコスト的に無理)。 

 

 

■太陽も風もきっちり領収書を送ってくる 

 

 その反対に再エネで儲(もう)かるのは、ソーラーパークやウィンドパークを経営している事業者。彼らは一度設置してしまえば、発電分はすべて必ず固定価格で買ってもらえるから、電気が必要か否かなど気にかける必要はなく、絶対に損をしない。 

 

 ただ、本来なら、絶対に損をしない商売というのは、自由市場ではあり得ない。しかし、それが実践されているのが再エネの世界だ(日本も同じ!)。言い換えれば、再エネの世界とは、計画経済の闇が自由市場に紛れ込んでいる倒錯の世界だ。当然、さまざまな不都合が起こっている。 

 

 言うまでもないが、再エネの最大の欠点は、こちらが発電量を決められないこと。どんなに電気が不足していても、太陽と風がない限り稼働しない。その反対に、電気が余っている時でも、事業者はすべて買い取ってもらえるのでフル発電だ。 

 

 ただ、そんな時、どんどん発電してその電気を自由市場で売り捌(さば)こうとしても、誰も欲しがらないのでゴミのような値段でしか売れない。しかし、そのままだと送電線がやられ、それこそブラックアウトになるので、お金を付けてでもどこかに流す。そして、その莫大なマイナス分を否応なしに負担させられるのが国民、という仕組みになっている。つまり太陽も風も刻々と請求書を送ってくるわけだ。 

 

■そして誰もいなくなった 

 

 代々のドイツの政治家はこの「世界一バカげたエネルギー政策」(ウォール・ストリート・ジャーナル)を、進歩的で、理想的だと勘違いし、すでに20年余り、脇目も振らずに実行してきた。それどころか、当初は世界中の国々がドイツのあとに続くと思っていたらしいが、もちろん誰も付いてこなかった。今では皆、呆れているか、笑っているかのどちらかだ。 

 

 昨年、ドイツが再エネの普及に費やした予算は、230億ユーロと推定される。これまでこれらの経費は、再エネ賦課金と称して消費者の電気代に乗せられていたが、あまりにも多くなり、目立ちすぎるので、2022年の7月からは廃止し、以後は税金に組み込まれている。 

 

国民にすれば、直接支払っているか、間接的に支払っているかの違いだけで、多額を負担していることには変わりがない。しかも、そのおかげでCO2 

が減っているわけでもなし、電気は高騰・逼迫し、産業は疲弊。良いことは何もない。確かに「世界一バカげたエネルギー政策」である。 ただ、脱炭素達成にしか興味のなさそうな緑の党は、産業の疲弊などどこ吹く風。30年までに、送電線網と新規の発電施設の建設に5000億〜1兆ユーロを投資するという。ちなみに、今、彼らが心を砕いているのは、産業界と国民に安価で安定した電気を提供することではなく、エネルギー転換にかけている膨大なコストをなるべく隠蔽することだ。 

 

 

■日本が憧れた“先進的なドイツ”のなれの果て 

 

 日本には、ドイツは環境大国だと信じている人もたくさんいるが、それは30年も前に、環境相だった若きメルケル氏が振りまいたイメージに過ぎない。実際はどうかというと、ドイツ国民は、緑の党が主導するこの壮大で支離滅裂な実験の、いわばモルモットだ。そして、モルモットはすでに痩せ細っている。 

 

 しかし、今のドイツには、この間違いを本気で修正しようとしている政党は、AfD(ドイツのための選択肢)しかいない。ただ、真実を語り、強くなり過ぎたAfDは、まさにそのために、これまでの政界の秩序(利権?)を壊されたくない他政党の政治家やメディアに恐れられ、政党資格を剥奪される瀬戸際のところにいる。AfDを2月の総選挙に参加させないため、彼らが一致協力し、水面下でありとあらゆることを仕組んでいる様子を見ると、ドイツは産業だけでなく、民主主義まで壊れかけていると背筋が寒くなる。 

 

それなのに、いまだにメディアは緑の党(厳密に言えば、社民党やキリスト教民主同盟も同じ穴の狢だが)の大々的な支援をやめない。このままいけば産業は空洞化し、本当にCO2 

削減が成就できるかもしれないが、果たしてその時、立ち並ぶ風車と、遙か彼方まで広がる太陽光パネルの海を見ながら、緑の党は、ようやく脱原発、脱炭素、そして脱産業を達成できたと歓喜するのだろうか。 

 

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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ) 

作家 

日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)、『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何が起こっているか』(ビジネス社)がある。 

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作家 川口 マーン 惠美 

 

 

 
 

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