( 253014 )  2025/01/21 17:09:50  
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速度制限を引き上げることが安全性に寄与するというわけではなく、物流の円滑化は重要だが、安全性も考慮する必要がある。

2024年問題により労働条件が改善され、大型トラックの速度制限が80km/hから90km/hに引き上げられたが、その安全性や燃費への影響が懸念されている。

高速道路上でのトラックと乗用車の混合交通の安全や運転者の高齢化など、様々な課題が指摘されている。

(要約)

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物流の円滑化ももちろん大切だが、安全性についても考慮するとトラックの速度制限は引き上げればいいというものではない。 

 

 昨年の4月から、高速道路における大型トラックの最高速度が、従来の時速80kmから90kmへ緩和された。 

 

 背景にあるのは、2024年問題といわれた、運転者の労働条件を改善するため、労働時間の規制が強まったことによる。そもそも運転者不足の状況があり、ひとりの運転者が早く仕事を終えたあとの交代運転者の手配が付きにくく、物流に支障が出る懸念があった。国内の物流で9割(運搬トン数ベース)をトラックに依存している国内事情も、それに拍車をかけている。 

 

 大型トラックの最高速度が時速90kmとなることで、単に、物流の移動時間が早まり、モノをより早く届けられる利点のほか、高速道路上で乗用車との速度差があったトラックとの混合交通が、より滑らかになり、車線変更などでの互いの苛立ちを軽減できるとの期待も大きい。 

 

 一方、わずか時速10kmとはいえ、最高速度の制限の上がった大型トラックの走行安全は保たれるのかという疑問は、事故調査などある程度の期間を経てからの統計に依存せざるを得ない面がある。とはいえ、規制が緩和されるトラックとは、総重量が8トン以上の大型・中型トラックを指し、それは、乗用車の4倍前後の重さになる。 

 

 そのトラックの運動エネルギー(K)は、以下の式で求められる。 

 

 「K(運動エネルギー)=1/2×M(重さ)×V(速度)の2乗」 

 

 結果、時速80kmで走っていたときに比べ、1.26倍エネルギーが大きくなり、これは、もし事故が起きた際には損害の拡大につながる可能性があるということだ。 

 

 以上は物理的な話で、運転する人間はというと、眼科の検査で行われる静的な視力検査に対し、運転中に必要な動的視力は、大型トラックを運転する50歳前後の平均年齢で2割ほど落ちる(出典:セーフティドライビング・シニアドライバー用)。 

  

 これが60歳を超えると3割近くに衰える。大型トラックの運転者の高齢化は課題となっており、その動体視力が歳を重ねるにしたがって落ちるとすると、走行速度が高くなることによる見落としや、集中力の持続の難しさなどが重なる可能性が出るだろう。運転者への肉体的負担増は、トラック業界から不安視する声が出ている。 

 

 運転支援機能の装備により、車両側で安全性能の向上はなされても、運動エネルギーが大きくなり、急には止まれない速度からの危険回避は、より厳しさを増すはずだ。 

 

 安全とは別に、輸送原価に関わる燃費においても、空気抵抗は速度の2乗に比例して大きくなるので、時速80kmから90kmへ高まると、空気抵抗は運動エネルギーのときと同じ1.26倍になる。燃費が悪化するのは間違いない。そもそもトラックは、乗用車に比べ荷物の運搬を優先に四角い格好をしているから、姿形として空気抵抗の影響を受けやすい。 

 

 海外の一例として、速度無制限区間のあるドイツのアウトバーンにおける、大型トラックの速度制限は時速80kmだ。日本よりもっと乗用車との速度差が大きくなるはずのアウトバーンで、なぜ時速80kmの規制が守られているのか。 

 

 トラックによる物流の効率化はもちろん必要だが、トラックと乗用車が混走する高速道路での安全をいかに向上させるかは、速度差を縮めればよいという単純な話ではないことを肝に銘じるべきだろう。 

 

御堀直嗣 

 

 

 
 

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