( 253576 ) 2025/01/22 17:48:40 0 00 仕事や家族、これからの人生など、40歳前後で「壁」を感じる人は多いようです(写真:Maki Nakamura / Getty Images)
「このままの働き方で大丈夫か不安」「仕事と家事・育児の両立に限界」「残りの人生も今の積み重ねでいい?」 40歳前後で多くの人が抱える「モヤモヤ感」。音声メディアVoicyで人気の尾石晴さんは自身の経験も踏まえながら、「40歳の壁」の正体を分解しつつ、人生の後半戦を自分らしく生きるためのヒントを伝えています。 尾石さんの著書『「40歳の壁」を越える人生戦略 一生「お金・つながり・健康」を維持できるキャリアデザイン』より一部を抜粋し、2回にわたってお届けします。
■中年期の危機「ミッドライフクライシス」
「ミッドライフクライシス」という言葉を聞いたことがありますか? 中年期特有の心理的危機、中高年が陥る鬱病や不安障害のことで、30代後半〜50代にかけて陥りやすいといわれています。
人生の中盤まで来ると、周りの評価や社会の基準から、「自分はどれくらいのレベルなのか」がなんとなく見えてくる。「自分の人生、これでいいのかな……」と迷い始める時期です。
・このまま定年まで働き続けられるか不安になってきた(雇用不安)
・ろくな経験や資格、職歴を持っていない気がする(スキル不足不安) ・最近、筋力や体力の衰えを感じる(健康不安) ・子どもが小学生になり、あと10年ほどしか一緒にいられないと思うと寂しい(子離れ不安) ・白髪が目立つようになって、自分の容姿の衰えに萎える(老化不安) キャリアの方向性を見失い、突然資格を取ってみたり、何かを変えたくなって思い切って物を整理してみたり。体力の衰えから、毎日の子どもの宿題の丸つけや忘れ物チェック、習い事の送迎がきつかったり、疲れを癒やすのはだらだらスマホだったり。
女性の場合は仕事、家庭、子どもの年齢や人数、容姿の変化、老後の見通しなど、気になる要素が複雑に絡み合っています。それぞれに対応しようとすると、やることが多すぎるため、ジタバタしがちです。
男性の場合は、仕事では「このままだと、この辺りに着地しそうだな」と先が見えて行き詰まりを感じたり、体力の衰えから男性らしさを失う不安に駆られたりします。その結果、急に転職や起業をしたり、アウトドアに目覚めてキャンプ用品を一気にそろえたり、筋トレに励んだりしがちです。
この「中年の危機」は、心理学者エリクソンの「心理社会的発達理論」で説明することができます。「人生には何度か壁が出現する。それを越えることで、心理的に成長していく」という考え方です。
人は40歳くらいまでは、新しい感覚や知識を得ることを軸に発達していきます。この世に誕生後、身体も精神も成長していき、社会に出て、生き方を選び、自分の家族をつくり、愛を得て成長していく。だいたい40歳で成長のピークを迎えます。
それ以降は発達の流れが変わります(下図)。人生の終着点に向かった発達に変化し、次世代を担う人たちに、持っているものを渡し始めるのです。
「得る」から「減らす」へと変わる時期。今までとは、発達の潮目が変わる時期。
エリクソンはそこまで言及していませんが、私は、この潮目が変わり、これまでと違う感覚に戸惑う「ミッドライフクライシス」こそ、「40歳の壁」の正体だと考えています。
■人生100年時代、誰もが壁にぶつかる
一昔前は「学業→仕事→老後→寿命」というライフモデルが一般的でした。現在の高齢者(私の両親世代)は、終身雇用制度の時代(解雇リスクがない)の人ですから、40歳でもぶっちゃけ残り20年をどうにか乗り切れば、退職金をもらって優雅な老後を過ごすことができました。
「40歳の壁」を感じてモヤモヤしたとしても、現状をキープしていれば、不利益を被ることも特になし。とりあえず、「このままでいいや」とやり過ごしていた人も多かったのではと思います。
ところが、私たちが生きているのは、人生100年時代です。65歳で定年しても、あと35年も生きる可能性があり、社会も「できるだけ長く働いてね!」という方向に変わってきています。
人生100年時代は、人生が長い分、多くの人がさまざまな壁にぶち当たります。
特に、中堅といわれるアラフォー世代は、まだ方向転換ができる年齢です。50歳なら「定年まで10年ちょっと。それなら、なんとかここでがんばる方法を考えよう……」となるかもしれませんが、40歳だと「あと20数年か……。仕事や住む場所を変えることもまだできる。どうする!? 私!?」と迷うこともできる。
それゆえ「壁」を見て見ぬフリをせず、受け止めて惑う人が多くいるのではないでしょうか。
「まだ、これからの道を選び直すことができるかも」という期待と、「選んで失敗すると積み上げてきたものが消えてしまうのでは」という不安が入り交じる分岐点。そこに立ちはだかるのが「40歳の壁」です。
多くの人が、その壁の前で右往左往していますが、ロールモデルのいない未知の世界なので、手探りで進むしかありません。
■「40歳の壁」は早くぶつかるが勝ち
人生100年時代となれば、40歳でもここからあと60年くらい生きなければなりません。誰もがどこかでキャリアの転機を迎えます。
私は出産をしたことで、この転機の足音が30代から少しずつ聞こえてきました。そのときは、自分を会社に合わせていくことで乗り切れたのですが、子どもが2人になり、自分も少しずつ年を取り、本格的な転機は40歳直前に来たと感じています。
人によっては、30代で早めの転機を選択する人もいれば、40代後半で転機を迎える人もいると思います。ただ、共通していえるのが、キャリアの転機のタイミングが65歳(定年)で来るより、アラフォー(「40歳の壁」にぶつかる時期)で来るほうが格段に良いということです。体力も知力もある40歳で気づけた人は、逆にラッキーなのではないかと思います。
「40歳の壁」は、本気で自分の人生を考え直すための「当事者意識」を与えてくれます。50代だと少し遅い(もっと前に一度ぶつかっていたよね!? )、20代ではまだ早い(社会の知見がまだ少なく、ライフイベントもこれから)。
「体力がある」「知力がある」「うまくいかなくてもやり直せる」、この3点がそろうのは「40歳±5歳」ではないでしょうか。
自分の不安・不満や、足りないところを見ずにやり過ごそうと思えば、いろいろな言い訳ができます。
「日々の生活が忙しいから」
「とりあえず生活はできているから」
「みんなやっていないから」
しかし、そこで「40歳の壁」の存在に気づき、立ち止まったり、登ったり、すり抜けたりして、自分の価値観と対峙した人は強いものです。
「壁」と真摯に向き合った経験や悩んだ過去は、必ず自分の身を助けてくれます。その後も「自分の人生をどうしたいのか」「キャリアをどうしたいのか」を自問自答し、情報をキャッチしながら、主体的に人生を生きられるはず。
周りを見渡すと、60代、70代で有意義な人生を送っている憧れの先輩たちは、みんなキャリアの転機から逃げなかった人です(40代で退職して移住した先輩、60代でも仕事をしている母、70代でヨガを楽しむ生徒さん)。
「40歳の壁」は、人生100年時代を生きる私たちが人生をシフトする(人生の方向や位置を変えていく)ベストなタイミングだと思えば、ちょっと勇気が湧いてきませんか? 早く気づけて良かった!
尾石 晴 :Voicyパーソナリティ
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