( 254109 )  2025/01/23 17:25:53  
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『鉄道ジャーナル』誌が創刊以来親しまれていたが、2025年1月に休刊を発表。

10月には制作・発行を停止し、Web版やリニューアルによる再開の予定はないとのこと。

読者たちは驚きと悲しみを表明しつつ、過去形で「好きだった」とコメントする声も多かった。

最近は購入を控えていた愛好者もおり、紙媒体の売上低迷やインターネット普及などが影響していた。

『鉄道ジャーナル』誌の低迷は、編集方針や時代背景の変化が深く関わっており、竹島編集長の退任や鉄道ブームに対する対応なども影響していた。

(要約)

( 254111 )  2025/01/23 17:25:53  
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『鉄道ジャーナル』2025年3月号 

 

3大鉄道趣味誌のひとつとして1967(昭和42)年の創刊以来、鉄道趣味愛好者に親しまれてきた月刊『鉄道ジャーナル』誌が、通巻700号を迎えて更なる発展を期待されたばかりなのに突然701号(2025年1月21日発売)の誌面にて休刊を発表した。 

 

それによると、4月21日発売予定の6月号を最後に制作・発行をとりやめるという。WEB版移行の用意はなく、定期購読者やメディア関係者への手紙では、リニューアル等による発行再開の予定はないとのこと。事実上の廃刊であろう。 

 

1月21日の発売前に都内の早売り書店で「ジャーナル誌」を入手した読者が巻頭ページでの休刊告知をすぐにSNSに投稿したことから、ニュースが瞬く間に広まった。 

 

「残念」「悲しい」との声がある一方、気になったのは「好きだったな」「やはり」とのコメントだ。「好きだった」とは、「好きです」ではなく過去形なのに注目したい。 

 

すなわち、かつては頻繁に購入して読んだのに、最近はすっかりご無沙汰していたという投稿が少なからず目につくのだ。私もそのひとりで、半世紀ほど前の学生時代には毎号購入してむさぼり読んだ時期があったものの、いつしか遠ざかり、近年はたまに書店で手に取るものの購入することはほとんどなかった。休刊の遠因だと思うと、忸怩たるものがある。 

 

四半世紀ほど前、インターネットが普及するかどうかという時期だったが、鉄道趣味誌が一斉に発売となる毎月20日頃の都内の大型書店で鉄道書が充実しているフロアに行ってみると、熱心な愛好家が殺到し鉄道趣味誌を買い求めていた。それも一人で数種類の雑誌を選んでレジに持っていく者は珍しくなかった。 

 

鉄道趣味誌には、一番の歴史があり、研究誌・学術誌並みのディープな内容を誇る『鉄道ピクトリアル』(「ピク誌」と略す)、カラーグラビアが充実し車両中心の『鉄道ファン』(「ファン誌」と略す)、そして列車追跡ルポがウリで鉄道の経済的側面や社会性にも注目し、「鉄道の将来を考える専門情報誌」とのコピーが躍る「ジャーナル誌」が‟三大鉄道趣味誌”と呼ばれ、それぞれ持ち味があることから住み分けが出来ていた。 

 

他にも大判の『レイル・マガジン』、撮り鉄御用達の『鉄道ダイヤ情報』、鉄道模型に特化した『鉄道模型趣味(TMS)』『とれいん』『RM MODELS』があり、実に賑やかだった。したがって、何誌も購入することは決して珍しくなかったのである。この頃が、鉄道趣味誌の黄金期だった。 

 

 

Photo by iStock 

 

21世紀に入る頃、「ジャーナル誌」で華々しい活躍をしてきたレイルウェイ・ライターの種村直樹氏が病に倒れ、しばらくして引退してしまった。また種村直樹氏と二人三脚で「ジャーナル誌」を牽引してきた鉄道ジャーナル社社長で名編集長と謳われた竹島紀元氏も高齢のため第一線から手を引いた。 

 

「ジャーナル誌」は転機を迎える。2人があまりにもカリスマ的存在だったので、ぽっかりと穴があくような状況になるとともに、「ジャーナル誌」はある意味、竹島編集長の‟個人商店”だったので、晩年は迷走気味で編集方針に疑問を持つ人もいた。ジャーナル誌の不振が巷では噂されることも増えていく。 

 

長引く不況、インターネットの普及に伴い紙ベースの書籍・雑誌の売り上げ低迷が言われるようになると、鉄道趣味誌を何誌も購入していた有難いお客様も急減。買うならどれか1誌という愛好家も増え、鉄道趣味誌は冬の時代に突入する。 

 

Photo by GettyImages 

 

「やはり」という感想は、この頃から「ジャーナル誌」の低迷が始まり、その後、立ち直れなかったことによる。 

 

ジャーナル誌が転機を迎えていた頃、世間では鉄道ブームが言われ、鉄道をテーマにしたテレビ番組なども続出、一般誌でも鉄道を特集すると売れることから企画が相次いだ。ここでいう鉄道のメインは鉄道旅行であり、実は「ジャーナル誌」の得意とするジャンルだった。 

 

ただし、「ジャーナル誌」は専門誌としてのプライドもあり、ブームに安易に迎合することはなかった。しかし、世間は専門的知識よりもムード的な鉄道旅行に流れることとなり、「乗り鉄」という言葉や「鉄道アイドル」などが隆盛を極めていく。 

 

鉄道旅行がブームになっても、いわゆるライトな「乗り鉄」は「ジャーナル誌」に見向きもせず、一般誌の鉄道旅行特集やネットの鉄道旅行記事ばかりが注目されるようになったのだ。さらに、「ジャーナル誌」が得意とする鉄道の経済面や社会性を論ずるテーマについては、経済誌が相次いで特集を組むようになり、そちらにお株を奪われる状況となった。 

 

それに比べると、「ピク誌」「ファン誌」の得意とするところは一般誌が参入できる分野ではないので、部数が漸減しつつも固定層が付き、数ある鉄道趣味誌を厳選する流れの中でも選ばれる雑誌となり、「ジャーナル誌」ほど悲惨な状況とはならなかった。 

 

最近の「ジャーナル誌」を読むと、硬派な記事が多い。鉄道趣味に長年関わった者からすると、読み応えのある記事で啓発されることもあるのだが、往年のような読んでいてワクワクする気分に欠けるきらいがある(私が歳をとったせいかもしれない)。 

 

誌面構成は、もう少しバラエティに富み、多くの人が注目する華やかな記事が毎号ひとつくらいあってもよかったのではとも思う。良心的ではあっても、人気を集め、売り上げを増やさなくては逆風には立ち向かえない。 

 

他誌が行っているようなウェブとの連動も早くから行っていれば流れは変わっていたかもしれない。そうしたことを考えると、休刊は残念でならない。 

 

野田 隆(旅行作家) 

 

 

 
 

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